第四十三話 「黒い雨」
アルフレッドとゼウスの企ては、恐ろしい速度で実行に移された。王国の各地で、原因不明の疫病が広がり始めた。人々は次々と倒れ、その混乱は燎原の火のように王国全土へと広がっていく。
王都から遠く離れた、ルナたちの村にも、その異変の知らせは届いていた。カインが、斥候として王都に送り込んでいた銀翼団の団員が、命からがら戻ってきたのだ。
「ルナ様!アルフレッド卿が、王国の各地に、本当に、疫病を広めております!」
団員の言葉に、ルナたちは、顔色を変えた。
「まさか、本当に……」
ミリアが、震える声で呟く。
「……アルフレッドは、民を、恐怖で支配しようとしているのね」
ルナは、アルフレッドの底知れぬ悪意に、改めて背筋が寒くなった。
その頃、村の広場では、国王とエリザベス、そしてレオニードが、村人たちと共に、対策を練っていた。
「陛下。この疫病は、アルフレッドの仕業に違いありません。……しかし、どうすれば、この疫病を、止めることができるのでしょうか」
レオニードが、国王に尋ねた。
国王は、深く考え込んだ後、言った。
「……レオニード。お前は、この疫病の症状を、詳しく知っているか?」
レオニードは、首を横に振った。
「いえ、陛下。……ただ、王都の民は、次々と倒れ、高熱を出している、と……」
国王は、ルナに、言った。
「ルナ・カーヴィル。この村には、魔術師はいるか?」
「はい。ミリアが、治療魔法を、使うことができます」
ルナが、ミリアを指差した。
国王は、ミリアに、疫病の治療を、命じた。
「ミリア。お前は、この疫病を、治すことができるか?」
「……はい。……私に、できる限りのことを、やってみます」
ミリアは、国王に、力強く頷いた。
ミリアは、国王の命を受け、疫病に苦しむ村人たちの治療にあたった。
しかし、ミリアの治療魔法は、疫病の進行を、遅らせることはできても、完全に、治すことはできなかった。
「……ごめんなさい、みんな……!私には、力が足りない……!」
ミリアは、自分の無力さに、涙を流した。
その時、ルナが、ミリアに、言った。
「ミリア。諦めないで。……この疫病は、アルフレッドの悪意から生まれたもの。……きっと、この村のどこかに、疫病を治すための、ヒントが隠されているはずだわ」
ルナは、ミリアに、そう言って、励ました。
ミリアは、ルナの言葉に、再び、立ち上がった。
ルナは、カインに、言った。
「カインさん。この疫病を、作ったのは、アルフレッドの軍師、ゼウスよ。……ゼウスが、この疫病を、どうやって作ったか、調べてくれる?」
カインは、ルナの言葉に、頷いた。
「わかった。……ゼウスの、悪事を、必ず、暴いてみせる」
カインは、ルナに、そう言って、王都へと向かった。
その夜、ルナは、一人で、アウルムの住処へと向かった。
「……アウルム様。……アルフレッドが、王国の民に、疫病を広めています。……どうか、お力をお貸しください!」
ルナは、アウルムに、頭を下げた。
アウルムは、ルナの言葉に、静かに頷いた。
「……愚かな人間どもが、また、愚かなことを……。……この疫病は、人間の悪意から生まれたもの。……我が力をもって、この疫病を、浄化してやろう」
アウルムは、そう言って、空に向かって、巨大な魔法を放った。
アウルムの魔法は、黒い雨となって、王国全土に降り注いだ。
黒い雨は、疫病に苦しむ人々を、癒し、疫病を、完全に、浄化したのだ。
ルナたちの村は、王国の希望となった。
しかし、アルフレッドは、まだ諦めていない。
彼は、ルナたちを、そして、国王を、完全に排除しようと、新たな陰謀を企てる。
それは、王国全体を巻き込む、壮大な戦いの始まりだった。




