第三十九話 「民衆の怒り」
アルフレッドが流した「疫病」のデマは、王都を瞬く間に席巻した。恐怖と不安は、人間の理性をも容易く飲み込む。目に見えない脅威は、やがて具体的な憎悪の対象を求めた。そして、その矛先は、アルフレッドの巧みな扇動によって、ルナたちの村へと向けられていった。
王都の広場では、アルフレッドの私設軍隊が、大々的な演説を行っていた。
「聞け、王国の民よ!我らの愛する国王陛下は、魔物と通じる反逆者、ルナ・カーヴィルによって暗殺された!そして、彼女の村から広まった、恐ろしい疫病が、この王都を蝕んでいるのだ!」
兵士たちの言葉に、民衆は恐怖に震え、怒りの声を上げた。
「ルナ・カーヴィルを捕らえろ!」
「我々の命を、返せ!」
無知な民衆は、アルフレッドの言葉を鵜呑みにし、ルナたちを憎み始めた。
その頃、王都の地下街にある銀翼団の隠れ家では、団長が、報告を聞いていた。
「……王国の民が、ルナ様たちを憎んでいる、と……」
団長は、悔しそうに拳を握りしめた。
「団長様。このままでは、ルナ様たちが、本当に、王国の敵として、見なされてしまいます!」
団員が、焦燥に駆られた声で言った。
「……わかっている。……ゼウスめ、本当に恐ろしい男だ。力で勝てぬと知れば、民衆の心に付け込むとは……」
団長は、アルフレッドの軍師であるゼウスの策略に、警戒を強めた。
「……団員たちよ。我々は、このデマを、止めなければならない。……アルフレッドの悪事を、民衆に知らしめるのだ!」
団長は、部下に命じ、王都の各地に、アルフレッドの悪事を記したビラを、密かに貼るように命じた。
ルナたちの村では、銀翼団の団員から、王都の状況を聞き、全員が言葉を失っていた。
「……疫病……!そんな、ひどい……!」
ミリアは、デマの内容に、怒りを露わにした。
「アルフレッドめ!本当に、卑怯な男だわ!」
フィオナもまた、怒りに顔を歪ませた。
ルナは、静かに国王に尋ねた。
「陛下。……このデマを、どうお考えですか?」
国王は、深く考え込んだ後、ルナに言った。
「……ルナ・カーヴィル。アルフレッドは、我々を、村から、引きずり出そうとしている。……民衆の怒りを、我々に向けることで、我々が、王都へ、向かわざるを得ない状況を、作ろうとしているのだ」
国王の言葉に、ルナは、ハッとした。
国王は、エリザベスに言った。
「エリザベス。お前の出番だ。王国の民は、お前の言葉なら、信じてくれるだろう」
「……父上。……私に、何ができますか?」
エリザベスは、国王に尋ねた。
「……ルナ・カーヴィルの村が、疫病の元凶ではないことを、民に、証明するのだ。……そして、アルフレッドが、国王である私を、裏切ったことを、民に、告げるのだ」
国王の言葉に、エリザベスは、戸惑いを覚えた。
その時、レオニードが、国王に進み出た。
「陛下!王女殿下を、危険な目に遭わせるわけにはいきません!」
レオニードは、エリザベスを庇うように、前に出た。
しかし、エリザベスは、レオニードを制し、国王に言った。
「父上。……私は、やります。……この国を、アルフレッド卿から、救うために。……そして、ルナ様たちを、守るために」
エリザベスの言葉に、国王は、深く頷いた。
ルナは、エリザベスに、一つの策を提案した。
「エリザベス様。……王都の民に、私たちの村が、疫病とは無縁の、豊かな村であることを、証明する必要があります。……そして、そのためには、この村の、収穫祭を、王都の民に、見てもらうのです」
ルナの言葉に、エリザベスは、驚きを隠せない。
「……収穫祭、ですか?」
ルナは、エリザベスに、微笑みかけた。
「はい。……私たちの村は、今、収穫の時期を迎えています。……豊かに実った作物が、この村が、疫病とは無縁であることを、証明してくれるでしょう」
こうして、エリザベスは、ルナたちの村の収穫祭を、王都の民に、公開することを決意した。
それは、アルフレッドのデマを打ち破るための、最初の一歩だった。
しかし、アルフレッドもまた、新たな罠を、仕掛けてくるだろう。




