第三十三話 「王女の決意」
王都から遠く離れた森の奥、ひっそりとした小屋の中で、国王は意識を取り戻した。全身を襲う痛みと、煙を吸い込んだことによる激しい咳に苦しみながらも、彼は目の前にいるレオニードを見つめた。
「……レオニード。なぜ、お前がここに……」
「陛下、ご無事で何よりです」
レオニードは、国王に深々と頭を下げた。
国王は、自分が燃え盛る王宮からレオニードに救出されたことを思い出し、信じられないといった表情を浮かべた。
「……なぜだ? なぜ、王宮が……。そして、アルフレッド卿は、私を……」
国王の言葉に、レオニードは、アルフレッドの悪行を改めて説明した。王宮に火を放ったこと、そして、ルナ様たちに罪をなすりつけようとしていること。
「アルフレッド卿は、自らの権益のために、陛下を陥れようと画策しております!」
レオニードの言葉に、国王は、信じがたいといった表情を浮かべた。
「……私が、信じていたアルフレッド卿が……。彼が、私を……」
国王は、アルフレッドの裏切りに、深く心を痛めた。そして、怒りに顔を歪ませた。
「……許さん! アルフレッドめ! この私が、彼に騙されたと知れば、王国の民はどう思うか!」
国王の怒りに、レオニードは、静かに言った。
「陛下。今は、怒りを抑えてください。アルフレッド卿は、陛下が死んだと触れ回り、王国の実権を握ろうとしております。まずは、陛下の身の安全を確保しなければなりません」
国王は、レオニードの言葉に頷き、ルナたちの村へ向かうことを決意した。
一方、王都では、アルフレッドが、国王の死を偽り、摂政となることを宣言していた。
王宮の地下室に集められた貴族たちは、アルフレッドの言葉に動揺していた。
「……国王陛下が、本当に……?」
「ルナ・カーヴィルという、平民の女に、殺されたとは……」
貴族たちの間には、不信感が渦巻いていた。しかし、アルフレッドの周囲にいる、武装した私設軍隊の威圧的な雰囲気に、誰も逆らうことはできなかった。
「国王陛下は、魔物と通じる者に、暗殺されました! 陛下のご遺志を継ぎ、私が、王国を、守らねばなりません!」
アルフレッドは、そう言って、摂政の座に就くことを宣言した。
その様子を、王宮の裏庭から、一人の少女が、密かに見ていた。
彼女は、国王の娘である、第一王女のエリザベスだった。
エリザベスは、父である国王が、アルフレッドに殺されたのではないかと、疑っていた。
彼女は、アルフレッドの言葉に、怒りに顔を歪ませた。
「……父上は、アルフレッド卿に、騙されているだけ。……ルナ・カーヴィルが、そんなことをするはずがない」
エリザベスは、ルナたちが、いかに貧しい村を豊かにし、民に愛されているかを知っていた。
彼女は、アルフレッドの悪事を暴き、父を救うために、行動を開始した。
エリザベスは、信頼できる侍女を伴い、王宮の隠し通路を通り、王都から脱出した。
エリザベスは、王都の地下街へと向かった。
そこは、王都の貴族たちには知られていない、銀翼団の隠れ家がある場所だった。
「……レオニードに、会わなければ」
エリザベスは、レオニードが、アルフレッドの裏切りを知っていることを、知っていた。
彼女は、銀翼団の隠れ家へと向かい、団長に、レオニードの居場所を尋ねた。
「……レオニードは、今、王都を離れています。……陛下と共に」
団長の言葉に、エリザベスは、驚きを隠せない。
「……父上は、生きていたのですね!」
エリザベスは、安堵の涙を流した。
「はい。……ですが、アルフレッド卿に気づかれるわけにはいきません。……王女殿下。陛下は、ルナ様たちの村へ向かわれました。……あなたも、村へ向かってください」
団長の言葉に、エリザベスは頷き、ルナたちの村へと向かうことを決意した。
ルナたちの村では、王都の火事の知らせが、村人たちに届いていた。
「……王宮が、炎上したそうです」
村人の一人が、震える声で告げた。
「まさか……! 国王陛下は、ご無事なの!?」
ミリアが、不安そうに尋ねる。
「……それが、まだ、詳しいことは……」
村人の言葉に、ルナは、顔色を変えた。
「アルフレッドの仕業よ……! 国王陛下を殺し、私たちに罪をなすりつけるつもりだわ!」
ルナは、拳を握りしめた。
「くそっ……! レオニードや団長は、大丈夫なのかな……」
フィオナが、悔しそうに呟く。
「……信じるしかないわ。……私たちは、ここで、アルフレッドの次の攻撃に備えるしかないのよ!」
ルナの言葉に、村人たちは、力強く頷いた。
その夜、ルナは、カインと共に、村の周囲を巡回していた。
「……ルナ様。……アルフレッドは、間違いなく、次の手を打ってきます。……今度は、さらに大きな軍隊を、連れてくるでしょう」
カインの言葉に、ルナは、静かに頷いた。
「わかっているわ。……だからこそ、私たちは、村を、もっと強くしなければならない。……アウルムの力を、もっと、活かせるように」
ルナは、そう言って、アウルムの住処である、森の奥へと向かった。
アウルムは、ルナの前に姿を現し、威厳ある声で言った。
「……愚かな人間どもが、また、争いを始めようとしているな」
ルナは、アウルムに、王都で起こったこと、そして、アルフレッドの悪事を話した。
「……アウルム様。……どうか、私たちの村を、お守りください!」
ルナは、アウルムに頭を下げた。
アウルムは、ルナの言葉に、静かに頷いた。
「……よかろう。……愚かな人間どもが、愚かな争いを続けるのならば、私が、この地を、聖域として、守り抜こう」
アウルムの言葉に、ルナは、安堵のため息をついた。




