第三十二話 「国王の救出」
王都は炎に包まれ、悲鳴と怒号が飛び交う地獄と化していた。王宮の地下から噴き出した炎は、瞬く間に建物を飲み込み、黒煙が夜空を覆う。人々は我先にと王都から逃げ出し、混沌の中に秩序は失われていた。
王宮へ急行したレオニードは、燃え盛る炎に行く手を阻まれ、身動きが取れずにいた。熱風が顔を焼く。国王の寝室は、すでに炎に包まれており、助けを求める声は聞こえない。
「くそっ!陛下!」
レオニードは、何度か炎の中へ突入を試みるが、炎の壁はあまりにも厚く、近づくことすら叶わなかった。彼は、悔しそうに拳を握りしめ、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
その頃、銀翼団の隠れ家では、団長が焦燥に駆られていた。
「レオニード!無事か!?」
団長が無線魔導具でレオニードに呼びかける。
「団長様!私は無事です!しかし、王宮の炎が激しくて、陛下に近づけません!」
「くそっ、やはりアルフレッドの狙いはこれだったか!いいかレオニード、王宮には、王族しか知らない秘密の通路があるはずだ!それを探せ!」
団長の言葉に、レオニードはハッとした。彼は、かつて銀翼団の任務で、王宮の警備兵から、王宮には隠された通路があるという噂を聞いたことがあった。レオニードは、再び炎の王宮へと駆け出した。
一方、アルフレッドは、自らの邸宅のバルコニーから、燃え盛る王宮を冷笑しながら眺めていた。彼の周りには、武装した私設軍隊がずらりと並び、いつでも出動できるように待機している。
「ははははは!見ろ!ルナ・カーヴィルという平民が企てた反逆行為が、王国を揺るがしている!国王陛下を救い、王国の秩序を回復させるために、我々が立ち上がるのだ!」
アルフレッドは、部下たちに命じ、王都へと向かわせた。
彼の計画は完璧だった。国王が死亡すれば、王国の実権は貴族たちが握ることになる。そして、その筆頭であるアルフレッドが、王国の英雄として君臨するのだ。
レオニードは、炎と煙の中、王宮の壁を叩き、隠された通路を探し続けた。壁の一部が、他の場所とは違う、わずかに空洞のような音を立てた。レオニードは、その場所に剣を突き立て、力を込めて押し込んだ。
壁が崩れ、暗い通路が現れた。
「よし!」
レオニードは、通路へと飛び込み、国王の寝室へと向かう。
国王は、炎に包まれた寝室で、床に膝をつき、咳き込んでいた。すでに熱と煙で意識が朦朧としていた。
「……誰か……!」
その時、寝室の壁の一部が崩れ、レオニードが姿を現した。
「陛下!無事でございますか!」
「レオニード……!なぜ、ここに……!」
「陛下を、お救いに参りました!」
レオニードは、国王を肩に担ぎ、通路へと逃げ込んだ。
レオニードは、国王を連れ、なんとか王宮から脱出することに成功した。彼は、国王を安全な場所に匿い、治療を施した。
国王は、意識を取り戻すと、レオニードに尋ねた。
「……レオニード。なぜ、お前が……」
レオニードは、国王に、アルフレッドの悪行を話した。
「アルフレッド卿は、自らの権益のために、陛下を陥れようと画策しております!この火事も、アルフレッド卿が、ルナ様たちに罪をなすりつけるために、仕組んだものです!」
レオニードは、王宮の火事の原因を突き止めるための証拠も、国王に差し出した。
国王は、レオニードの言葉に、信じられないといった表情を浮かべた。
「……アルフレッドが……私を……」
国王は、アルフレッドを信じていた自分を恥じた。
レオニードは、国王に、王都を離れ、ルナたちの村へ向かうように促した。
「陛下。今は、アルフレッド卿に気づかれるわけにはいきません。ルナ様たちの村は、古代竜アウルム様が守っておられます。村へ行けば、安全です!」
国王は、レオニードの言葉に頷き、彼と共に、王都を後にした。
一方、アルフレッドは、王都の混乱に乗じて、国王を救う、という名目で、王国の実権を握ろうと画策していた。
彼は、自らの邸宅に、貴族たちを招集し、国王が死亡した、と触れ回った。
「国王陛下は、ルナ・カーヴィルという魔物と通じる者に、暗殺されました!我々、貴族が、王国を、守らねばなりません!」
アルフレッドの言葉に、貴族たちは、動揺した。しかし、アルフレッドの私設軍隊の威圧的な雰囲気に、逆らうことはできなかった。
アルフレッドは、国王が不在のまま、自らが王国の摂政となることを宣言した。
その頃、ルナたちの村では、遠くの空に立ち込める黒い煙を見て、不安に駆られていた。
「……あれは、王都の方角だよね……?」
ミリアが、震える声で呟く。
「うん。……レオニード、団長……無事でいて!」
ルナは、そう言って、夜空を見上げた。彼女たちは、アルフレッドの悪行が、さらにエスカレートしていることを、知る由もなかった。
ルナたちは、アルフレッドの次の攻撃に備え、村の防衛を固めた。
それは、辺境の村が、王国全体を敵に回し、自分たちの正義を貫くための、壮絶な戦いの始まりだった。




