第二十五話 「無力な真実」
アルフレッドの私設軍隊と対峙した三姉妹とレオニードは、激しい戦いの末、辛くも兵士たちを退けた。
フィオナの大剣が唸り、ルナの魔法が炸裂し、ミリアの弓が正確に敵を射抜く。そして、レオニードもまた、元銀翼団の確かな剣術で彼女たちを援護した。
しかし、彼らの勝利は、安堵をもたらすものではなかった。
「……ルナ姉、大丈夫?」
息を切らしたミリアが、震える声で尋ねる。
フィオナもまた、大剣を支えに肩で息をしていた。
「ええ、大丈夫よ。……でも、アルフレッドの私設軍隊が、これほどの規模だなんて……」
ルナは、アルフレッドの狡猾さに、改めて危機感を抱いた。
一行は、負傷した体を癒やす間もなく、王都へと急いだ。
国王にすべてを報告し、アルフレッドの悪行を裁いてもらうためだ。
しかし、国王に謁見したルナたちの報告を、アルフレッドは冷笑と共に一蹴した。
「国王陛下。そのような軍隊など、私は存じ上げませんな。我が領地は、ご存知の通り、常に平和で、私設軍隊などという物騒なものは、持ち合わせておりません」
アルフレッドは、優雅な仕草で肩をすくめ、とぼけた。
「貴族であるこの私より、平民上がりの子供たちの言葉を信じるとおっしゃるのですか? これでは、王国の秩序が保てませんな」
アルフレッドは、国王に詰め寄る。
国王は、ルナたちとアルフレッドの言葉を聞き比べ、困惑した表情を浮かべる。
ルナたちは、アルフレッドの私設軍隊と戦った証拠として、負傷した体を差し出したが、アルフレッドは、それを嘲笑した。
「それは、冒険者稼業で負った傷ではないのですか? まさか、その傷を、私のせいにしようとでも?」
アルフレッドは、ルナたちを侮辱する言葉を、次々と浴びせた。
ルナは、必死に抗弁した。
「手紙も、証拠です! アルフレッド卿が、私たちを罠にかけようとした、その証拠です!」
ルナが、アルフレッドからの手紙を差し出すと、アルフレッドは、それを一瞥し、再び笑った。
「その手紙、果たして私が書いたものか、どうかわかりませんな。筆跡など、真似しようと思えば、いくらでも真似できる。それに、手紙を届けたという男も、どこにいるのか、身元すらわからないのでしょう?」
アルフレッドの言葉に、ルナは、言葉を失った。
確かに、手紙を届けた男の身元は、わからない。
ルナたちは、アルフレッドの罠を看破したものの、それを証明する証拠が、何一つなかったのだ。
「……っ!」
ルナは、悔しさに唇を噛みしめる。
フィオナも、大剣を握りしめ、ミリアも、悔しさに涙を浮かべていた。
国王は、ルナたちに、申し訳なさそうな表情で言った。
「……ルナよ。お前たちの言葉を信じたいのは山々だが、アルフレッド卿の言うことも、一理ある。……証拠がない以上、私は、何もできぬ」
国王の言葉に、ルナたちは、無力感に打ちひしがれた。
ルナたちは、評議会の間を後にした。
レオニードは、ルナたちの悔しそうな表情を見て、自らの不甲斐なさを感じていた。
「……申し訳ありません、ルナ様。私の力が、足りなかったばかりに……」
レオニードが、ルナに頭を下げると、ルナは、静かに言った。
「あなたのせいじゃないわ。……私たちが、まだ未熟だっただけ」
ルナは、そう言って、レオニードを慰めた。
三姉妹は、王都の宿屋で、今後のことを話し合った。
「このまま、アルフレッドの好き勝手にさせておくわけにはいかないわ」
ルナが、静かに言う。
「でも、どうするの? あいつ、証拠隠滅するの、うますぎるよ!」
フィオナが、悔しそうに言う。
「……次の手だわ。アルフレッドが、次に何を仕掛けてくるのか、それを読んで、証拠を掴むしかない」
ルナは、そう言って、レオニードに尋ねた。
「レオニード。アルフレッドは、次に何を仕掛けてくると思う?」
レオニードは、ルナの言葉に、深く考え込んだ。
「……アルフレッド卿は、王室直属の開拓顧問となったルナ様たちを、邪魔な存在としか思っていません。……おそらく、ルナ様たちが次に開拓を命じられるであろう土地を、事前に荒らすなどの妨害工作を仕掛けてくるでしょう」
レオニードの言葉に、ルナは、頷いた。
「そうね。……でも、それだけじゃない気がするわ。……アルフレッドは、私たちを、もっと根深いところから、潰そうとしてくるはず」
ルナは、そう言って、レオニードに、ある作戦を提案した。
三姉妹とレオニードは、アルフレッドの次の動きを読み、先手を打つことにした。
それは、ただ待ち構えるだけではなく、自らが餌となり、アルフレッドを罠に嵌める、危険な賭けだった。
辺境の村娘たちが、王都の貴族と知略を巡らせ、命をかけた戦いに挑む。
三姉妹の新たな物語は、ここから、さらに複雑な展開を迎えることになる。




