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第二話 「初依頼と火種」

 ギルドの受付で登録を申し出た三人は、奥の小部屋へ案内された。

 木製の机と椅子が並ぶ質素な部屋だが、壁には武器や地図が飾られている。


「まずは身分の確認と簡単な実技試験を受けてもらいます」

 受付嬢は書類を広げ、三人の名前と年齢を記入していく。

「ルナ・カーヴィル、十八歳。得意分野は?」

「魔法全般と戦術指揮です」

「フィオナ・カーヴィル、十六歳。得意分野は?」

「近接戦闘。大剣と体術」

「ミリア・カーヴィル、十四歳。得意分野は?」

「弓と……薬草採取です」


 書類に記入が終わると、三人は裏庭に案内された。そこでは丸太や藁人形が並び、訓練場のようになっている。

「模擬戦をしてもらいます。監督役は――」


「俺だ」

 低い声とともに現れたのは、筋骨隆々の男だった。黒髪に短い無精髭、背には大斧。

「俺はギルドの監督員、ガレスだ。まずは姉ちゃんからだな」


 ルナが前に出る。相手は藁人形。詠唱と同時に氷の槍を生成し、三連射で的を粉砕する。

「精度、威力ともに合格だ」

 次にフィオナ。重い大剣を軽々と振り下ろし、一撃で丸太を真っ二つにした。

「力は申し分ないが、踏み込みが深い。隙を減らせ」

 最後にミリア。弓を引き絞り、藁人形の急所に矢を三本連続で命中させる。

「命中率は上々だ。あとは動きながら撃てるようになればいい」


 こうして三人は無事に実技試験を終え、冒険者としての〈銅級〉ランクを得た。


 ◇


 その日の午後、さっそく初依頼を受けることになった。

 依頼内容は――「交易路沿いの森で行方不明になった荷馬車の捜索」。報酬は銀貨五枚。

「依頼の危険度は低めだが、魔物が出る可能性はある。気をつけろ」ガレスが釘を刺す。


 森の入口まで来ると、道端に荷車の車輪が転がっていた。血の跡が土に染みている。

「……嫌な予感しかしない」フィオナが剣を抜く。

 足跡を追うと、森の奥で荷馬車が横倒しになっていた。中身は空っぽ。周囲には、灰色の毛が散らばっている。

「グレイウルフ……でも昨日のより多い」ルナが小声で告げる。


 茂みから唸り声。五匹のグレイウルフが姿を現した。

「ミリア、左を狙え! フィオナ、右を抑えて!」

 三人は即座に陣形を組む。矢と剣、そして魔法が連携し、次々と獣を倒していく。だが、最後の一匹が逃げようとした瞬間――


「俺たちが仕留める!」

 鋭い声とともに、横から別の冒険者パーティーが飛び出した。

 四人組の男たち。先頭の金髪の青年が槍でグレイウルフを突き倒す。

「ははっ、楽勝だな。お嬢ちゃんたち、危ないところだったな」

 青年はわざとらしく笑い、獣の死骸を踏みつけた。


「……横取り、ですか?」ルナの声が冷える。

「依頼の獲物に誰がとどめを刺そうが自由だろ? 素材も報酬も、こっちがもらうさ」


 その言葉に、フィオナの眉が跳ね上がる。

「ふざけるな! こいつらはあたしたちが――」

「やめなさい、フィオ」ルナが制した。

 だが、その目は冷ややかな光を宿している。


 このとき出会った敵対パーティー〈赤牙の槍〉――。

 彼らは後に、三人の行く手を幾度となく阻む最大の障害となる。


 ◇


 荷馬車の持ち主は既に逃げ延びており、後日ギルドで事情を聞いて安堵していた。

 だが、報酬は〈赤牙の槍〉に持っていかれた。

「世の中、理不尽だらけだな」フィオナがぼやく。

「いいえ、これは試練よ。実力と名声でああいう連中を黙らせる――そのための、ね」ルナは静かに答えた。


 彼女の瞳は、もう遠く王都を見据えていた。

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