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第十二話 「王都へ」

 銀翼団の援軍と合流した一行は、バルミナの街を経由せず、そのまま王都へと向かうことになった。銀翼団の団長、そして多くの団員が加わったことで、レオンたちの追跡を振り切ることができたのだ。

 王都へ向かう馬車の中は、和やかな空気に包まれていた。

 エリス王女は、ルナたち三姉妹に感謝の言葉を述べ、王都の暮らしについて話して聞かせた。

「王都には、たくさんの美味しい食べ物屋さんがあるのよ。お菓子屋さんや、パン屋さん……。それから、大きな図書館もあるわ」

 ミリアは、王女の話を聞いて、目を輝かせた。

「図書館……! 私、本を読むのが大好きなんです!」

「そうでしょう? 王都の図書館には、世界中の本が集まっているの。いつか、みんなで一緒に行きましょうね」

 エリス王女は、ミリアの頭を優しく撫でた。


 フィオナは、カインに尋ねた。

「カインさん……本当に、銀翼団を追放されたんですか?」

 カインは、少し寂しそうな表情で答えた。

「……ああ。俺は、昔の任務で大失敗をやらかした。それが原因で、多くの仲間を死なせてしまったんだ」

 カインは、ルナたちに、銀翼団を追放された経緯を話した。

 それは、三年ほど前のことだった。

 カインが率いる部隊は、王都の貴族が所有する私設軍隊と、王都郊外の森で衝突した。

 カインは、仲間を危険に晒すことを恐れ、撤退の命令を出した。

 しかし、その判断が裏目に出て、仲間たちは撤退中に待ち伏せに遭い、多くの仲間を失ったのだ。

「俺は、臆病者だった。あの時、戦っていれば、仲間たちは死なずに済んだかもしれない」

 カインは、そう言って、悔しそうに拳を握りしめた。


 ルナは、そんなカインに言った。

「カインさん……あなたは、間違っていなかった。仲間を危険に晒さないために、撤退を選んだ。それは、臆病なんかじゃない。……仲間思いの、優しい人だわ」

 ルナの言葉に、カインは驚き、ルナをまじまじと見つめた。

「……ルナ」

「私は、そう思うわ。それに……あなたのその優しさが、私たちを救ってくれた。……王女様の護衛を引き受けてくれて、ありがとう」

 ルナは、カインに微笑みかけた。


 その日の夜。

 一行は、王都まであと一日ほどの距離にある、宿場町に泊まることにした。

 宿の食堂で、夕食をとっていると、銀翼団の団長がルナたちのテーブルにやってきた。

「君たちに、礼を言わせてくれ。……君たちのおかげで、王女は無事だった」

 団長は、ルナたちに深々と頭を下げた。

「いえ……私たちは、当然のことをしたまでです」

 ルナは、そう言って、団長に微笑みかけた。

 団長は、ルナたちの様子を見て、感心したように言った。

「君たちは、本当に素晴らしい。……もし、よかったら、王都で私たちの部隊に、入らないか?」

 団長の言葉に、ルナ、フィオナ、ミリアは、驚きの声を上げた。

「……え?」

「君たちの力は、王都でこそ輝く。……私たちと一緒に、王国を守ってくれないか?」

 団長の言葉に、三姉妹は、戸惑いと喜びが入り混じった表情を浮かべた。

 それは、彼女たちが冒険者になった当初からの夢だった。


 しかし、ルナは、すぐに冷静になり、団長に尋ねた。

「……銀翼団に入団したら、冒険者ギルドでの活動は、できなくなるんですか?」

「いや、そんなことはない。君たちは、冒険者としての活動も、続けて構わない。……ただ、王都の重要な任務には、優先的に参加してもらうことになるが」

 団長の言葉に、ルナは、安堵の表情を浮かべた。

 冒険者としての活動も続けられるなら、故郷を豊かにするという目標も、諦めずに済む。

 ルナは、フィオナとミリアに視線を送り、二人もルナと同じ思いであることを知った。


 翌朝。

 一行は、王都へ向かうため、宿を出た。

 王都の城壁が見えてきた頃、ミリアが歓声を上げた。

「わぁ! すごい……! これが、王都なんだ!」

 ミリアの目に映ったのは、巨大な石造りの城壁、その向こうには、荘厳な城がそびえ立っている。

 ルナも、その光景に息をのんだ。

 王都は、彼女たちが想像していた以上に、壮大で美しい街だった。


 王都の門をくぐると、石畳の道には、多くの人々が行き交い、活気に満ち溢れている。

 ルナたちは、カインに案内され、王都の中心部にある王宮へと向かった。

 王宮は、さらに豪華で、ルナたちは、その壮麗さに圧倒された。

 王宮の広間に入ると、多くの貴族や騎士たちが、ルナたちを冷たい目で見つめている。

 ルナたちは、その視線に、緊張した。

 その時、王座に座っていた国王が、ルナたちに声をかけた。

「……君たちが、王女を救ってくれた冒険者かね?」

 ルナは、国王の言葉に、一歩前に進み出た。

「はい。私たちは、カーヴィル三姉妹と申します」

 国王は、ルナの言葉に、満足そうにうなずいた。

「見事な働きであった。……君たちには、相応の褒美を与えよう。何か望みはあるか?」

 国王の言葉に、ルナは、深く頭を下げた。

「はい。私たちに、私たちの村を含む領地を賜りますよう、お願い申し上げます」

 ルナの言葉に、国王は驚き、貴族たちは、ざわめいた。

「……領地、だと?」

 国王は、ルナに尋ねた。

「なぜ、領地を望む?」

「私たちは、辺境の村出身です。……故郷を、王都にも劣らない、豊かな土地にしたいのです」

 ルナの言葉に、国王は、深く考え込んだ。

 功績を挙げた冒険者に領地を与えたことは、過去にもある。

 貴族の身分を与えずに、領地のみを与えることは、他の貴族からは大いに反感を買うことになる。

 しかし、過去のそれは、領主が見捨てて放置している土地を与えたに過ぎず、その全てが何もできずに再び見捨てられた土地となっていた。

 これを断り、過分な金品や爵位を与えるよりも、その方が王国にとって利となるか……。 

そして、しばらくの沈黙の後、国王は、口を開いた。

「……よかろう。辺境にある、貧しい土地を、君たちに与えよう。……しかし、その土地を豊かにできるかどうかは、君たち次第だ」

 国王の言葉に、ルナは、感謝の言葉を述べた。

「ありがとうございます!」

 ルナは、フィオナとミリアに視線を送り、二人は、ルナに微笑みかけた。


 こうして、三姉妹の新たな冒険が、幕を開けた。

 それは、冒険者としてではなく、一人の領主として、故郷を豊かにするという、新たな目標に向かって、歩み始める物語だった。

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