第十話 「カインの過去と銀翼団」
レオンと名乗る銀髪の青年は、カインと顔見知りのようだった。そして、その口ぶりからは、彼が王女の護送の件を知っており、カインを侮蔑していることが明らかだった。
「レオン……お前、なぜここに?」
カインはレオンに警戒しながら尋ねた。
「なぜ、だと? 王女がこんな辺境の地にいると聞いて、まさかと思って来てみれば……カイン、お前までいるとはな」
レオンは嘲笑を浮かべながら言った。その視線は、カインの背後にいるルナたち三姉妹を値踏みするように見ている。
「……カインさん、あの人、誰なんですか?」
ミリアが小声で尋ねる。
「……かつての仲間だ」
カインはそう答えたが、その表情は苦々しいものだった。
レオンは、カインに一歩近づき、さらに続けた。
「カイン、お前はもう銀翼団を追放された身だ。もう王都にとって何の価値もない。……王女を渡せば、命だけは見逃してやる」
その言葉に、ルナは驚き、フィオナは怒りを露わにした。
「追放された……って、どういうことよ!?」
フィオナの問いに、カインは何も答えなかった。
「へぇ、知らないのか? こいつは、昔の任務で大失敗をやらかしたんだ。それが原因で、俺たちの仲間は、何人も命を落とした」
レオンは、カインの過去を暴露し、ルナたちの動揺を誘おうとした。
「黙れ、レオン!」
カインは、レオンの言葉を遮るように叫んだ。
「お前は、この依頼が何を意味するか、わかっているのか!? 王女は、王国の未来を左右する重要人物だぞ!」
「そんなことはどうでもいい。俺たちの目的は、王女を反乱貴族派に引き渡すこと。……そうすれば、俺たちは莫大な報酬がもらえるのさ」
レオンは、後ろにいる仲間たちに視線を送った。
「やれ」
レオンの合図とともに、金色の盾を持つ男が巨大な盾を構え、ルナたちに迫ってきた。
そして、魔法の杖を持った少女が、詠唱を始める。
「ミリア、援護! フィオ、盾の男を止めて!」
ルナが指示を飛ばすと、ミリアは弓を引き絞り、盾を持つ男の隙を狙う。
フィオナは、大剣を両手で構え、盾の男に向かって突進した。
「どけぇぇぇ!!」
フィオナの一撃は、盾の男の巨大な盾に弾かれ、鈍い音を立てる。
盾の男は、びくともしなかった。
その隙に、魔法の杖を持った少女が、ルナたちに火の玉を放つ。
「〈ファイア・ボール〉!」
ルナは、素早く身をかわし、ミリアの前に立ち、魔法を放つ。
「〈アイス・ウォール〉!」
ルナの魔法で、目の前に氷の壁が出現し、火の玉を相殺した。
レオンは、そんなルナたちの連携を見て、感心したように言った。
「ほう……なかなかやるじゃないか。だが、俺たちの敵じゃない」
レオンは、自身も剣を抜くと、カインに襲いかかった。
「お前は、俺が相手だ」
カインとレオンの剣が、激しく交錯する。
カインの剣は、レオンの剣に弾かれ、後退した。
「やはり、お前は鈍ったな。銀翼団を追放されて、すっかり腑抜けになったようだ」
レオンは、カインを挑発しながら、剣を振るう。
カインは、レオンの剣を必死に防ぎながら、ルナたちに叫んだ。
「ルナ! エリス王女を連れて逃げろ!」
「……え?」
ルナが驚いてカインを見ると、カインは再びレオンに弾かれ、地面に倒れ込んだ。
「お前はもう終わりだ。……王女は、俺たちがもらう」
レオンは、カインにとどめを刺そうと、剣を振りかぶる。
その瞬間、フィオナが盾の男を振り切り、レオンに突進した。
「カインさんから、離れろ!」
フィオナの突進は、レオンの剣を弾き、レオンを後退させた。
「くそっ、邪魔をするな!」
レオンは、フィオナに剣を向ける。
しかし、フィオナは怯むことなく、大剣を構えた。
「あたしは、あんたたちみたいな卑怯なやつらが、大嫌いだ!」
フィオナの言葉に、レオンは冷笑を浮かべた。
「ほう……口だけは達者だな」
その時、ルナは、あることに気付いた。
レオンが、カインの過去を語った時、カインはひどく動揺していた。
そして、カインは、レオンの言葉を否定しなかった。
(……カインさんの言う「大失敗」って、本当にあったことなのね)
ルナは、カインの過去に何があったのか、気になった。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
ルナは、ミリアとフィオナに指示を飛ばす。
「ミリア、あの魔法使いを狙って! フィオナ、カインさんを援護して!」
ルナの指示に、フィオナは再びレオンに突進し、ミリアは魔法使いに矢を放つ。
ルナは、カインの元に駆け寄り、肩を貸す。
「……大丈夫ですか?」
「ああ……すまない。助かった」
カインは、ルナに感謝の言葉を述べた。
ルナは、カインに尋ねる。
「本当に、逃げるんですか? このままじゃ、王女様が……」
「……ああ。このままでは、勝てない。俺の力では、レオンには勝てない」
カインは、そう言って、悔しそうに顔を歪めた。
ルナは、カインの言葉に驚いた。
カインは、レオンよりも年上に見える。それなのに、なぜ、勝てないと言うのだろうか。
その時、レオンがカインとルナに迫ってきた。
「無駄なことを。もう、お前たちの負けだ」
レオンは、カインに剣を突きつける。
ルナは、カインを庇うように前に出た。
「……やめてください!」
レオンは、ルナを冷たい目で見つめ、言った。
「どけ。無関係な人間は、巻き込みたくない」
「無関係なんかじゃない! 私たちは、この依頼を受けた冒険者よ!」
ルナの言葉に、レオンは鼻で笑った。
「冒険者、か。……だったら、お前も死ね」
レオンの剣が、ルナに振り下ろされようとした、その瞬間――。
遠くから、鋭い金属音が聞こえてきた。
レオンは、その音に気付き、剣を止めた。
森の奥から、数人の人影が現れる。
彼らは、銀色の鎧を身につけていた。
「……銀翼団!?」
レオンが驚きの声を上げる。
銀翼団の団長らしき人物が、レオンの前に進み出た。
「レオン。何をしている」
その声は、重厚で威圧感があった。
「団長……なぜ、ここに?」
レオンは、団長に驚き、後退する。
「なぜ、だと? 王女が危険に晒されていると聞いて、来ないわけにはいかないだろう」
団長は、ルナたちを見て、カインに言った。
「カイン。よくやった。……あとは、私たちに任せろ」
カインは、団長の言葉に、安堵の表情を浮かべた。
「……はい」
銀翼団の登場により、レオンたちは撤退した。
そして、ルナたちは、銀翼団の団長から、感謝の言葉を述べられた。
「君たちのおかげで、王女は無事だった。……礼を言う」
ルナは、団長の言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。
その時、カインは、ルナに言った。
「ルナ、君たちのおかげで、俺は……立ち直ることができた。ありがとう」
カインは、ルナに深々と頭を下げた。
ルナたちは、この依頼を通して、カインという人物、そして王都の陰謀の一端を知ることになった。
そして、この経験が、彼女たちの冒険者としての道を、大きく変えていくことになる。




