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第一話 「村を出る日」

新連載作品です。

第9作目となります。

 春まだ浅い朝――。

 薄氷の張った井戸水を汲み上げ、吐く息が白く溶けていく。山あいにある辺境の村〈カルナ〉は、王都から馬車で二週間以上も離れた寒冷地だ。人口は百人ほど。豊かなのは木々と雪くらいで、農作物は痩せた土からわずかに取れる麦と根菜ばかり。


 その村の片隅、藁葺き屋根の家から三人の少女が姿を現した。


「……本当に行くんだね、ルナ姉」

 長い黒髪を二つに結んだ三女ミリアが、荷袋を抱えたまま不安げに見上げる。

「行くわ。これが私たちのためであり、村のためでもあるから」

 淡い栗色の髪を背中まで流した長女ルナが、きっぱりと答えた。

 その声音は十八歳とは思えないほど落ち着き、どこか王都の貴婦人を思わせる気品すら漂わせていた。


「大丈夫だって。あたしたち三人なら、オーガだって蹴散らせる!」

 豪快に笑ったのは次女フィオナ。赤毛を短く切り、背中に大剣を背負っている。その瞳は戦場を夢見る戦士そのもの。


 三人が村を出る理由は一つ――〈冒険者〉になるためだ。

 王国では冒険者は危険と隣り合わせだが、名声と財を得られる数少ない職業でもある。さらに、冒険者ギルドを通して王家や貴族に認められれば、功績に応じて領地を賜ることもある。

 ルナはその道を目指していた。村の貧しさを根本から変えるには、王国の中枢に影響を持つ立場に立たなければならないからだ。


 村の出口まで見送りに来たのは村長と数人の村人たち。

「……無理はするなよ。王都までの道は長いし、途中には盗賊も魔物も出る」

 村長の言葉に、ルナは深く頭を下げた。

「はい。必ず三人そろって無事に帰ってきます」


 ◇


 最初の目的地は、三日ほど歩いた先にある交易町〈ドレミア〉。そこにあるギルド支部で冒険者登録を行う予定だ。

 道中は雪解けの泥道で足を取られながらも、三人は順調に進んだ。だが、二日目の夕暮れ、林の中でそれは現れた。


「……狼? いや、でかい!」

 ミリアが声を上げる。木立の間から姿を見せたのは、普通の狼より二回りも大きい灰色の魔獣〈グレイウルフ〉だった。

「群れか……いや、一匹だけだな」フィオナが大剣を抜き、足を踏み出す。

「フィオ、囲まれないよう気をつけて。ミリアは弓で援護!」

 ルナの指示が飛び、三人は自然に陣形を組む。


 グレイウルフは低く唸ると、一気に距離を詰めてきた。

 その瞬間――フィオナの剣が横一文字に振るわれ、獣の牙を防ぐ。火花が散り、ミリアの矢が獣の脇腹に突き刺さる。

「よし、あと一撃!」

 ルナが詠唱を開始。青白い光が掌に集まり、氷の槍となって獣の胸を貫いた。


 血を吐いて倒れた獣の温もりが、冷たい空気の中でじわりと広がる。

「……これ、ギルドに持っていけば少しは金になるね」

「そうね。毛皮も上等だし」

 三人は獣の素材を丁寧に剥ぎ取り、再び歩き出した。


 ◇


 三日目の昼、ようやくドレミアの城壁が見えてきた。

 街に入ると、石畳の道には商人や旅人、冒険者が行き交い、露店から香ばしい匂いが漂ってくる。村とは比べものにならない活気に、ミリアの目が輝いた。

「わぁ……すごい、人がいっぱい!」

「浮かれて財布をすられるなよ」フィオナが笑う。


 三人は冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドの建物は二階建てで、重厚な木の扉を押して入ると、中は酒場を兼ねた広間になっていた。壁には依頼の貼り紙が並び、カウンターの奥には受付嬢が数人。

「ようこそ、ドレミア支部へ。ご用件は?」

 栗髪の受付嬢が微笑む。


 ルナは一歩前へ出た。

「私たちはこれから冒険者として活動したいと考えています。登録をお願いします」


 この瞬間――三人の物語が、本格的に動き出した。

 そして、この出会いが後に王都を揺るがす運命の糸となることを、まだ誰も知らない。

連載中の「現代イージス艦、異世界を往く!」もよろしくお願いします!

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