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 なんとなく、自分が存在する理由を考える時がある。僕はこのまま何も成し遂げず、静かに消えていくのだろうか。



 薄いカーテンから漏れた光で目が覚めた。

 大学4年生の夏、なんのやる気も出ず家に引きこもっていた。地球温暖化の影響か知らないけど最近は暑すぎて外に出る気がおきない。眠い目を擦りながらとりあえず電子タバコを探した。朝イチのヤニを入れて、携帯を確認する。


「12時半か……」


 今日は17時から飲食のバイトが入っていて、それ以外は何もない。期末の時期だから課題がたんまり溜まっているが、後回しでいいだろう。意味もなく携帯で動画を見ながら横になった。暇つぶしに動画や投稿を周回して時間を潰す。


「あ、こいつ彼女できたんだ」


 中学の同級生の投稿が目に止まった。彼とは小中高一緒で、中学の頃はよくテストの順位を争っていた。一緒に県内1番の進学校に通ってから差がつきはじめた気がする。僕は浪人して中堅の国立大学、彼は浪人して国内1番の大学に通った。浪人中はよくやりとりしていた。大学に入ってから連絡を取らなくなった。高校までは彼女なんて興味ない、みたいな顔していたくせにと少し思った。爪を噛んでいるのに気づいて、そのまま噛んだ。気になって昔の同級生のアカウントを探してみる。海外旅行の写真、おしゃれな食べ物の写真、生まれた子供の写真を見て嫌になって携帯を伏せた。


 15時、そろそろ暑さもおさまってスーパーに行けそうだ。部屋着のまま鏡を一瞥し、財布を持って外に出た。今日は何を買おうか。最近はあんかけにはまっていて、その日安かった野菜とお米をタマゴで閉じてあんかけをかけている。今日もそれで良いだろう。思ったより外が涼しかった。今日は少し遠いスーパーに行ってみようかな。いや、やっぱりいいや。


 16時、そろそろバイトの準備を始める。シャワーを浴びて寝癖を直し、汗を流す。どうせ着替えるからだる着で良いだろう。日焼け止めだけ塗って、髪型を整えて外に出た。16時40分、これならゆっくり歩いても間に合いそうだ。バイトは家から歩いて10分のところにある。10分前に出勤なんて崇高な意識はもちろん持ち合わせていない。きっかり時給分しか働かないと決めている。週末の今日は絶対混むだろう。


 16時52分、少し早く着いた。店内に入りとりあえず厨房に声をかける。この時間帯は店内もまだ混んでおらず、ぽつぽつと客がいるだけだ。


「おはようございまーす」


 最近変わった中国人の店長が1人で厨房を回していた。


「あれ(あゆむ)くんおはよう。今日は早いね」

「いやーいつもこんな感じですよ。着替えてきますね」


 狭い更衣室で急いで着替え、店内に戻った。とりあえずあと5時間ひたすら配膳するだけだ。昔ひたすら配膳するゲームにハマっていた。このバイトはあの時の感覚が呼び起こされる。いかに効率よく客を回すかを密かに考えていた。

 週末で忙しかったからか、時間は飛ぶように進んでいった。あっという間にバイトが終わり締め作業に入る。

 

「今日の売り上げいくらだったと思う?」


 店長がコンロを掃除しながら聞いてきた。


「……10万とかですかね?」

「いや、それが過去最高の16万! 2人でよく頑張った!! 歩くんのおかげで助かったよお」

「2人で大変でしたからね、そういえば新しいバイトの面接あるって言ってたけどどうなりました?」

「うーん、なんかばっくれられた、ぽい」

「あら……」


 このお店は他と比べて時給が高いわけでもない。酔っ払いが多いし、そりゃあんまり募集かからないよなと心の中で思う。


「誰か新しい子来ると良いですね」


 なんて思ってもないくせに、すらすらと口から出た。



 11時半、家に帰ってお風呂も入らずベットに横たわった。また携帯を見たら、同級生が就職先の愚痴を吐いていた。きつい、つらいとずっと言っていてそりゃそうだと思う、労働が楽なわけないんだから。トークアプリを開くと彼女との恋愛相談が送られていた。それに目を通し、当たり障りない返信を考える。


 12時、目覚ましをセットし電気を消した。明日は2限からゼミが入っている。朝おきて、シャワーを浴びれば良いだろう。真っ暗な中寝る前に一服する。なんとなくつまらなそうな動画をラジオ感覚で流しながら考える。僕が生きている意味はなんだろう。彼女がいるわけでもない、就活を頑張っているわけでもない、勉学に励んでいるわけでもない。他の同級生はみんな何かを頑張っている。未来に向けて現実的に考えている。僕がこの世界に存在している意味はあるのだろうか。


 いけないいけない、寝る前に色々考えると眠れなくなるんだ。ホットアイマスクを着け、ラジオに集中する。いつの間にか眠りに落ちていた。

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