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7話 魔錬

ハムルが戻って来なくなった次の日。


俺は起きてから筋トレと魔錬を繰り返した。


魔錬は、俺が作った感覚の言葉で、魔気を感じる、魔気を身体中に巡らせる事。


筋トレといっても、腕立てしたり腹筋したり、鉄格子にぶら下がってみたり。


あとは狭い牢の中で反復横跳びやその場駆け足や。


思いつく事は何でもしてみた。




昨日の夜、考えた。


整理してみた。



俺は転移した。


日本人の武田勇真はもうここでは通用しない。

日本人の常識はここでは必要ないものが多い。


俺のシーフっていうステータスは変えられない。

ただステータスに気になる部分があった。


ユーマ(タケダ)

18歳

人族

レベル1

ステータス シーフ 斥候

・レベルアップに応じて転職ステータス可能。

・レベルアップに応じて二次ステータス獲得可能。



・レベルアップに応じて転職ステータス可能。


つまり、レベルを上げれば転職、ステータスを変えられるかもしれない。


それならシーフから抜けられるかもしれない。


奴隷紋を取ってもらえるかもしれない。



・レベルアップに応じて二次ステータス獲得可能。


シーフの他に、何かしらの能力が得られるという事か。



もしかしたら、転職した場合、シーフからは、奴隷紋からは逃れられるかもしれないが、それがメリットのあるステータスになるか、選べるのかもわからない。

転職せずに二次ステータスを獲得できた場合、シーフのままなのかどうか。


わからないけど、まずはやらなければいけない事は


レベル上げだ。


俺はゲームはやれなかったが、RPGの常識ぐらいはわかっている。


魔物を倒すと、経験値が上がる。


だけど、このステータスには数値化がされていない。


どれくらい倒せば良いのか、そういった事は示されてはいない。


でもとにかく魔物を倒さないといけない。


その為には戦わないといけない。


俺には戦う術がない。だから鍛えるしかない。


そして、魔力を高めるしかない。



ひとつ気になった事があった。


俺がワーウルフに噛まれて気絶する前に見たステータス。


・団員31名とパーティ編成


これが示されていた。


あの時チェニ隊の、俺以外の人数だ。


パーティ編成?


パーティってグループみたいな事だよな。


勝手にそうなるのか?


よくわからない。



奴隷紋。


とにかく誰かに怒りを覚えたり、憎しみを持ったりするだけで反応する。


勿論手を出したりしても、だった。


感情が表に出るだけで、なる。


行動にすると、なる。


だから言葉にしても、なる。


思うだけなら、ならない?


だとしたら、頑張ってコントロールしなければいけない。


あの電撃は、そう慣れるものじゃないし、続けてたら耐えられない。


アンガーマネジメント。


大学の選択授業で取った心理学でちょうどやった。


俺は変わらなければいけない。


ハムルの為にも、必ずお兄さんのセムルを探し出して伝えてあげたい。


たった1日しか話していないのに、俺に手を差し伸べてくれた人。




次の日。


俺はドーヴァ国王に謁見する事になり、また厩舎横で体を洗い、与えられた服を着せられ、謁見の間に連れられていった。


謁見の間には3人の転移者もいた。


玉座にいるドーヴァ国王に側近のディネツは


「揃いましたね。」


そう言うと、もう一人の側近ジュレイが


「勇者の皆様。この度は各前線に行ってもらいましたが、いかがでしたでしょうか?」


「恐れながら。魔物自体は有象無象おりました。倒せぬ魔物は今のところおりません。ただ、レベルが中々上がりません。何か方法があるのでしょうか?」


ゼニアがそう言った。


「勇者ゼニア。そなたは今レベルはどれくらいか?」


「3でございます。」


「たった1週間で3か。凄いものだな。」


「す、すごいもの、なのでしょうか?」


ゼニアはかなり戸惑っている感じだった。


「上がりにくい。これが我々がずっと昔からステータス保持者達から聞いている共通の認識です。

ステータス保持者のレベルが上がるのは最初は半年だったりするくらいです。

1週間で3というのは異例です。流石勇者様です。」


側近ディネツは言った。


「そ、そうですか。ならば…仕方ありません。」


ゼニアが戸惑いながら言うと国王が


「何か、思うところでも?」


「いえ、レイラはレベルが6だというので。」


「6,だと!たった1週間で?」


国王は驚いていた。


微動だにしていないレイラは


「特に何も変わった事はしていない。


言われた場所に行き、魔物を倒しただけだ。


強い魔物がいたようには思えない。


ゴブリンやコボルト、ボア、ベア、ウルフ


皆と変わらないと思うが。兵士の方もそう言っていた。」


レイラはゼニアに冷たく言い放った。


「問題があるのか?勇者ゼニア?」


「いえ、決してレイラが何かズルといいますか、私達の知らない事をやっているなどとは思っておりませんが…。」


「心の声が丸聞こえになってるわよ?」


笑いながらメクニアは言い


「私もレベル3よ?結構魔法ぶっ放したんだけどねぇ。


それより…


国王様?私の言った事覚えてますか?色々協力していただけるって。」


側近のディネツは


「何かございますか?」


「ずっと前線で働いてもねぇ。それでまたこちらの王城に戻ってもねぇ。


できれば、王城近くでも良いから、住めるところがあると良いかなぁ、なんて。


誰か、従者みたいな方がいれば、何とでもなるでしょう?


私は、束縛されるのが嫌いなんです。お城か砦かって、私、奴隷じゃないから。」


俺を見ながら、メクニアは言った。


「確かにそうだな。ディネツ?」


国王が言うとディネツは


「かしこまりました。すぐにお近くでお住まいを提供させていただきます。

そして、従者も数人つけさせていただきます。

前線もずっとではなく、隊と連携を取りながらにさせていただきます。

他に何かあれば、従者に申し付けていただければ、出来る限りに。」


「それは良かった。張り合い無くすところだったわ。転移したは良いけれど、なんだかこれじゃあ王国の奴隷みたいな扱いだったので。」


「メクニア、それは少し失礼ではないか?」


ゼニアは言った。


「そうかしら?私は間違ってる事は言ってないと思うわよ?」


「しかし…」


ゼニアは言ったが


「良い。魔導士メクニア。出来るだけ其方の要望に沿うように申し付けておく。」


国王は言った。


「他の者も何かあれば言うが良い。従者も住まいも構わん。」


「私は出来ればこちらの城にて、皆様のお傍で、と。」


ゼニアが言うと


「それは頼もしい。勇者がいれば城も安全だ。」


国王は笑った。


「前線に住めないであろうか?」


レイラは唐突に言った。


「私は転移前から戦場で生きてきた。他に何も要らぬ。人付き合いも金も要らぬ。戦っているこそが私なのだ。」


レイラは言ったが、ディネツが


「前線の報告もございます。出来れば住まいはこちら王都にて願いたく。」


「わかりました。従者は最低限でお願いします。」



国王は俺に向かって


「そして、ユーマよ。怪我は癒えたな?」


「…はい。」


「前線に行く前に大怪我とは。ユーマは今の場所にて良かろう。従者も要らぬであろう。

前線にはまたおって予定を作ろう。騎士団も忙しいからのぅ。」


まわりがクスクス笑っている。



我慢だ。我慢。


ここでもし奴隷紋が反応したら、本当に死刑になってしまう。


「わかりました。」


側近のディネツが


「ユーマ。もう少し教養から学んだ方が良かろう。

子供の学校にでも行かれますか?」


また周りが笑った。


イラっとしてしまった。


すると、奴隷紋が反応し、電撃が身体を巡り、俺は倒れた。


その俺の様子に、謁見の間にいる全ての人間が驚き。ビビりながらもディネツが


「奴隷紋が反応した? ゆ、ユーマよ。反抗する気か!」


「す、すいません。あまり揶揄わないでください。

ほんの少しでも感情が出ると、こうやって奴隷紋が反応してしまうんです。」


俺は続けた。


「シーフでもなんでもいいです。城でも牢獄でも俺には変わらない。

ただ、イラっとさせないでください。

俺は裏切るつもりもだますつもりもないですし。

みたでしょう?

ちょっとした感情だけでこの反応なんです。

ゴブリンの前でもこうだったんです。

何も出来ませんよ。」


そう言ってようやく立ち上がり、


「俺は皆と違って用はないので牢に戻ります。」


そう言って一人で謁見の間を出て行った。


レイラはじっと背中を見ていた。


「やり過ぎ。どうなっても知らないわよ。」

メクニアはボソリと呟いた。


その後ろ姿を見てゼニアは薄ら笑いを浮かべていた。




牢に戻った。


見返してやる。


強くなってやる。


そう思った。


あまりに悔しい。理不尽だ。





俺はさっそくまた魔錬をした。


魔錬をして、筋トレや出来る限りのトレーニングをした。


1週間ほど過ぎると、瞑想しなくても魔気の流れを常に感じる事でき、手に集めてみたり足に集めてみたり、コントロール出来る様になった。

何より身体が疲れなくなったし、早く動けるような気がする。


魔力を全身に流しながら動くと、明らかに体が軽く早く動けるし、疲れない。


何より、体が太くなった。


そしてまた1週間くらい経つと、ずっと逆立ち出来たり、その場で宙返り出来たり、ほんの微かな音がわかったり、


なんというか、五感が鋭敏になっているのがわかる。


ハムルが言っていたシーフの特徴なのか、それとも魔力を伴う事で出来る事なのか。


思った事は、こっちの世界にないイメージを俺が持っているっていう事。


『気』の概念、血液とかの医学とか、映画や漫画で見たものが頭にあって、イメージしながら動くと出来るようになる。


アクション映画や忍者映画、時代劇、アニメ。


色んなイメージは頭に沸くほどある。


イメージ。


そうか。


試しにやってみよう。


俺は掌に魔気を集めて、掌の上に野球のボールに火がついているイメージを持ってみた。


すると、魔力が掌に抜けていき『火の玉』が出来た。


やった!出来た!


ただ、俺のイメージの火の玉ではなく、青白い炎の様な…、それこそ墓場で出てきそうな…、お化け屋敷に出てきそうな青白い方の火の玉だった。


熱くない。


俺が熱くないと思えば熱くない?


俺の魔気だから?


野球のボールよりかなり小さい。ゴルフボールよりも。


魔力が少ない?


何となくわかってきた。


消えろと思うと消えた。


魔力が無くなった感覚があった。


体内で作った魔力を体外に放出させると、その分の魔力が無くなる。


じゃあもっと魔力を身体に持てれば、もっと大きいものが出来る。


魔錬ももっとしないといけない。


筋力、体力、魔力、そしてコントロールする精神力。


やるしかない。




さらに1週間経つと、自分の中でもハッキリと違う自分がいる事がわかる。


俺は見張りに


「偉い人と話をさせて欲しい。」


そうお願いした。


半日経つと、側近のディネツが従者と共にきた。


「なんですか、こんなところに呼びつけて。盗人勇者の分際で。」


久しぶりに感じる嘲りの言葉。


俺はグッと堪え深呼吸した。


大丈夫だ。反応していない。


「すいません。俺に魔物と戦わせてください。」


「なんだと?行ってもゴブリン程度しか倒せないお前をか?

我が国は一丸となって国民が騎士団に入隊し日々魔物退治をしている。

お前の護衛をする為に割く団員などいない。」


「一人でかまいません。誰にも迷惑かけません。お願いします。」


ディネツは少し考えていた。


「駄目ですね。来週になれば他の勇者様達がお戻りになられる。それまではお前にかまっていられない。」


「それならばせめて、城下を散歩させていただけませんか?ずっと牢の中では体も気持ちも滅入ってしまって…。」


「お前の様な盗人勇者が街を歩いてみろ。それこそ何をお前がするかわからぬであろう。」



仕方ない…


俺はディネツに向かって


「殴る」


と言うと、ハッとしたディネツと同時に奴隷紋が反応し電撃が俺に走った。


「ハァハァ。この様に…、何も出来ませんよ。」


俺は膝をつきながらディネツに言った。


(この様子なら本当に何もできないだろう。むしろ民衆にシーフの盗人勇者の姿を見せられれば、余計にシーフの醜聞も伝わりやすいのでは?)


ディネツは少し考え、


「国王様に言上してみよう。しばし待ってろ。」


そう言ってディネツは従者と共に階段を上っていった。



芝居をうってみたがどうだっただろう?


まぁ、無理だとしても来週にはまたあの集まりがあるならそれでも良い。


やる事は沢山ある。




そう思っていたけど、数時間後に先程ディネツの横にいた従者が数人と降りてきた。

見慣れない聖職者もその中にいた。


「許可が下りたぞ。」


そう言った。


警備兵は俺を牢からだし、従者は俺に小さな布袋を渡してきた。


袋の中にはお金らしきものが入っていた。


「他の勇者様達も給金は貰っている。あなたの分だ。」


「お金か…。価値がわからないけど…。」


「この奴隷に聞け。」


従者の後ろには、俺と同じ様な服を着た獣人が太い鉄の首輪をして立っていた。


小さい耳がぴょこんと立っていて明らかに見た目はリスっぽい。

胸が少し膨らんでいる。女性なのか。

綺麗というよりは可愛い感じの人だった。


「これから奴隷契約をするから、少し血をいただく。」


従者の後ろにいた聖職者達が、その準備をした。


聖職者は俺の血を取るために指を少し切り血を出させ、小さなお皿にいれた。


その血の混じった皿で筆の様なもので、奴隷といわれてる獣人女性の胸元に奴隷紋を施した。


その獣人女性は悲鳴を上げて倒れた。


俺にも経験がある。激痛だ。


「この奴隷があなたの従者になる。奴隷だからちゃんとあなたの言う事聞きますから。」


そう言って、すぐにわかるようなイヤらしい顔つきで言った。


このクズ野郎。


本気でそう思った。


奴隷紋は反応して俺はその場で跪いた。


「くっ」


従者はそれを見て嘲笑い、


「本当に奴隷紋は怖いものですね。


奴隷が奴隷を飼う。笑うしかないですね。」


そう言って従者は歩き出した。


警備兵は俺に手枷足枷を付けた。


「こ、この格好で外へ出るのか?」


階段を上りながら従者は


「あなたはシーフ。盗人なのです。何か問題があれば責任は国になってしまいますから。」


そう言って登り去った。



問題起こしたら死刑、か。


とことんだな。



俺は地上に出て、大きな城の門を奴隷と二人で出された。

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