表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

4話 奴隷紋

その日の夕刻、城内謁見の間で教皇ビンシェントはドーヴァ国王に謁見した。


「ご苦労であった。奴隷紋の効力は?」


「はい。かなり細かく紋を施しました。


普段は所有者と奴隷という個人での契約なのですが、今回は難しいものでありました。


しかし宜しかったのですか?シーフの能力は活かしたままで?

シーフというステータス自体、まだ解明されておりませんが…?」


「うむ。」

国王がそう言うと側近のディネツが代弁するように


「シーフの能力で問題を起こしてくれた方が、処刑を大義名分として行えますから。」


「しかし、実際にシーフの能力というのも、我々が及ばないところも…。」


「理由は後でどうとでもなります。施した奴隷紋がしっかりと効力を発揮していれば、陛下及び王族の皆様方、ドーヴァ王国及び国民に害が及ぶこともございません。国外にも逃げられない。歯向かうだけで痛みが起こり、いずれ考える事もしなくなる。

誠に奴隷紋とは酷なものですね?」


「そうでございます。奴隷がする奴隷紋は本来もっと単純なものです。所有者に対するものだけですから。しかしこの度の奴隷紋は、奴隷紋ではなく、もはや奴隷魔法陣と呼べるものです。あれだけ大きい紋を人の体に施したのも初めてでございます。」


「大儀であった。が、これは国の秩序、正義の為。個人を貶めるものではない。あくまでシーフという悪なるステータスが悪いのである。

だから生かすのだ。召喚されて魔物と戦うのであるならば、この国に貢献するならば何ら問題はないのだ。」


「そうでございます。陛下の慈悲のお深さに感銘を受けました。」




城内、ゼニアの部屋。

ゼニア、メクニア、レイラの3人。


「私の世界にも奴隷紋はあったが、あんなに大きなものは初めて見たよ。」

ゼニアは言った。


「そうねぇ。ユーマには、なんだか可哀そうだけれど、シーフっていうのが盗人っていうレッテルしかない世界だから仕方ないのかしらねぇ。」

メクニアも言った。


「レッテル…?どういう事であろう?」

レイラがメクニアに尋ねた。


「私の世界には、ちゃんとシーフっていう職業があったわ。斥候とも言われてて、敵が何処に何人いるか、罠がどこに仕掛けられてる、とか。ダンジョン探索にはうってつけの人材だったわ。

確かに盗人みたいなイメージはあったけど、だからこそ彼らは慎重に生きていたわよ。」


「私の世界にも斥候とは言われなくてもそういう存在は確かにいたわ。

それならばユーマの言っている事も間違いではない…?」

レイラは言った。


「でも実際こちらの世界に、斥候っていう概念や職業がないのだし、この世界のステータスとしてシーフとなるのだったら、私がそれは違う、とは言えないでしょうね。それでもし何かあっても、私は責任取れないわ。まだ私達自体だって信頼なんて言葉はないでしょう?」


「確かにその通りだね。レイラ、君の気持もわかるけど、まず私達は人の事よりそれぞれやるべき事をやっていくしかないんじゃないかな。」


「わかっているつもりだ。別にユーマの肩を持っている訳ではない。ただ、一方的過ぎるように見えた。彼の話を聞いてもいないで良いのか、と。」


「エルフって本当に真面目というか頑固というか…。アンタもそんなんじゃ目を付けられるかもしれないわよ。」


「私は私だ。誰に言われて従う訳ではない。それがエルフの生き方だ。それで目を付けられるのなら仕方ない。相手が誰であっても戦うまでだ。」


「レイラ。君の愚直さは少し危険だね。気を付けた方が良い。」

ゼニアは微笑みながら言った。





胸の痛みで目が覚めた。


気が付けばさっきまでいた牢にいた。


麻の服を捲ってみた。


魔法陣の様なものがそこに刻まれている。


ああ、さっきのは夢じゃなかったんだ。


ズキズキする。


まだ生きてるんだな。


俺はビンシェントが俺にこの奴隷紋を施された時を思い出した。


「くそ!」


その瞬間、体全部に電気みたいな激痛が走った。


俺は体をうねらせ、気絶しそうになった。



その瞬間に察した。


奴隷紋



俺はドーヴァ王の顔を思い浮かべ、言葉だけ


「殺してやる」


するとまた、激痛が体中を駆け巡った。


無理だ。


嫌だ。


耐えられない。


具体的にするだけで、思ってない思いでも言葉にするだけで反応する奴隷紋。



俺は絶望感を感じた。


これからどうすれば良いんだろう。


俺はこれから何をして生きていくんだろう。


わからない。


自分が。自分自身が。




たぶん、次の日。


俺は牢を出された。


手枷足枷を外された。


階段を上っていき、城内にある厩舎の隣の大きな水桶の前で、体を洗い、支給された服を着て、客間に通された。


そこには武具防具が整い、真っ当な準備をしているゼニアとレイラ、魔導士、といっても俺から見ると魔女の様な格好をしているメクニアがそこに居て、騎士団団長ロキアと、副団長のギレイ、そして部下数人がいた。


「ユーマ。」

ゼニアが言ったが俺は無視をした。


申し訳ないが、誰も信じられない。目を合わせたくない。

メクニアもレイラも。

話したくない。

言葉にしてしまうと、なんだかもう自分の拠り所が無くなってしまいそうで怖い。

そしてもし何か思った時、またあの奴隷紋が反応されたらと思うと怖い。


ロキアは話し始めた。


「早速だが、勇者様達にはそれぞれ前線に行ってもらう。この国が、魔物がどうなっているのか、見てもらう方が早いからだ。


ロキアはドーヴァの地図を広げ話した。


「ここ王都シナウから近いすぐ北西の前線・レジナにはゼニア様と私が。

そしてもう一つ近い北の前線・アネイにはレイラ様。

レジナより西の砦・セルカにはメクニア様。

そして、国内最西の砦・チェニには副団長のギレイとユーマに行ってもらう。

各自検討を祈ります。」



俺だけ呼び捨てか。


笑えるほどハッキリしている。


戦った事なんてない。


死刑より、名誉の戦死を祈ってるのがわかる。


最悪どうせ、俺はこのギレイって男に殺されるのかな。



俺は副団長ギレイを見た。


団長ロキアとは正反対の、悪い顔してるな。


まぁ、良い。もう考えてもどうしようもない。思うな。思ったらまた…。


諦めよう。



ロキアとギレイは先に外に出た。


レイラは俺に話しかけようとしてるが、俺は何も言わずに外に出ようとした。


「ユーマ。」

ゼニアが呼び止めた。


「その、君が本当は何を思っているか私にはわからない。ただ、私達は騙されない。君の思い通りにはいかない。これから君が何を盗もうと、私達はそれを守る。つまり、もしも君が私達の何かを奪おうとするなら、容赦はしない。」


俺はゼニアを見る事もなく部屋を出た。


部屋に残されたゼニアは


「あいつ、何を考えてるんだ?話も聞かず。逃げる算段でも考えてるんだろうね?卑怯者のシーフが。」

そうメクニアとレイラに言った。




ゼニアは何を言ってるんだ?


ああ、俺がシーフだからか。


シーフに騙されたって言ってたし。


俺が本当にシーフならね。


まるで他人事みたいだ。


俺はそう思いながら、一人の騎士団員に連れられて、そのままチェニ行きの隊に向かった。



「チェニ隊、出発!」


団員の声でチェニに行く隊は動き出した。


俺は馬車に乗せられたが、隊に合流し馬車に乗るまでも、団員達の視線は想像以上に痛く、まだまだ吐きそうな気持になってしまう。


馬車の中にギレイ副団長と二人きりだった。


偉そうに馬車に乗ってる、というよりは、俺の護衛、いや監視として乗車しているだけなのだろう。普段なら馬に乗って行くだろうに。


それがギレイから発せられる言葉でわかる。


「なんで俺まで馬車なんだよ…。」


「子守の為に騎士団でノシ上がってきた訳じゃねぇぞ。」


ブツブツと独り言のように言っていた。


俺はただもう何も聞きたくなかったし、嫌な想いもしたくない。


俺はただずっと外を眺めていた。


ただただ現実逃避。


今頃大学はどうなっているのだろう。


古い住んでたアパートはどうなっているんだろう。


ちゃんと電気とか消してたかな。


居酒屋の店長はドタ休すると凄い怒る人だったからな。


クビになっちゃったかな。


荷物仕分けの、あのおばさん、いつも俺に優しくしてくれてたからな。


古本屋のおじいちゃん。元気にしてるかなぁ。


つい前までの人生が消えない。


こっちが夢のはずなのに、あっちが夢みたいになってしまって。



隊は流石に軍隊だけあって移動が速いみたいだ。


大人数というより、小隊で動いてる感じだ。


街には、シアナを出る時も城壁で囲まれていて、この道中、他はほとんでが森か平原か丘か。


普通にチェニまでは2週間かかるみたいだが、1週間で着く予定だという。


だけど、着きはしないと思う。


魔物があちらこちらに出回っているからだ。


その都度倒し警戒し進んでいく、という事を繰り返している。



「おい、あんちゃん。」


馬車の中、ギレイに言われた。


「シーフってどんなこと出来るんだ?」


「…。俺はあの時水晶で初めてそのシーフっていうものになりました。

転移前までの俺は、武器も持ったことも無ければ魔物や、生き物を殺した事もない人間です。

俺に何かを期待されても困ります。

勇者と言われても、生まれたての赤ちゃんが戦場に行くようなものです。」


俺は久しぶりに声を発した。でも冷静に言った。


「…、そうか。じゃあ魔物に会っても、何も出来ないんだな?」


「実際、俺は武器すらありませんし。」


自分は丸腰だ、とアピールした。


「笑えるな。盗人勇者。本当は隠し持ってんじゃねぇだろうな?」


「教えてくださいよ?どうやって隠せるのか。」


流石に少しイラっとした。


その瞬間、体中に電撃が走り、俺は馬車内で悶絶した。


急に悶絶した俺に驚き、馬車内で構えだしたギレイだったが、俺が気絶しそうな感じでいると、


「おい、お前まさか今、俺に歯向かおうとしたのか?」


俺は答えられなかった。


「ハハハ。こりゃあ傑作だ。凄いなぁ。奴隷紋。」


ギレイは笑い出した。


するとギレイは俺のお腹に思い切り蹴りを入れた。


俺は痛みで腹を抑えうずくまった。


そしてギレイに目を向けた瞬間


また奴隷紋が発動した。


俺はまた激痛を体全身に浴びて、そして気絶した。


「笑えるな。」


気絶している俺に、ギレイはそう言った。



「おい、おい。」


ギレイの声で目が覚めた。


目の前にギレイの顔があって、俺は怖さのあまり身を捩った。


「おい。お前、あれ、倒してこい。」


馬車の中から窓の外を指差した。


そこには、団員数人が囲み、逃げ惑う「魔物」がいた。


「ほれ」


そう言ってギレイは俺に短剣の様なものを渡してきた。


「どっちにしろお前はこれから前線に行くんだから、やっておいて損はないだろう。」


俺はその短剣を両手に持ち、鞘を少し抜いてみた。


包丁じゃない。剣だ。


本当にやるのか。


やらなきゃいけないのか。


また何か言われて奴隷紋が反応するのは嫌だ。


やるしかないのか。



「ほら、早くいけよ。」


そう言って馬車の扉を開け、ギレイは促してきた。


気持ちが鈍る。


行きたい訳ない。


でも行かないと…。


そう躊躇してると、ギレイは先に馬車から出て、俺を外から引っ張り出した。


「おい!そいつ殺すなよ。勇者さんにやってもらうからな!」


笑いながら言った。


団員も


「早くしてくださいよ。じゃないとこっちが殺しちまう。」


そう言って笑っていた。


おれは無理矢理ギレイに引っ張られてその囲いまできた。


団員に囲まれている魔物は「ゴブリン」だった。


見た事ある。


緑色で小さくて、目が赤い。耳が尖っている。


「ほれ」


そう言って、ギレイは俺をその囲いの中に押し込ませた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ