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3話 シーフ

教会は静寂に包まれた。


「シーフだと?」

ドーヴァ国王は狼狽えている。

「は、はい。」

教皇ビンシェントも狼狽えながら答えた。


側近ディネツは

「シーフと言えば盗人。我が国だけではない。人族の国ではそれだけで国外追放、又は終身刑・死刑のステータス。それが4人の勇者様の中から出てくるとは…。」


どういう事?

俺はなんだかわかっていない。


「すいません。どういう事でしょうか?」

俺は素直に聞くしかなかった。


教皇は

「ステータスとしてシーフが出た場合、問答無用で捉えられ、死刑かずっと牢で死ぬまで生きるかしかない。国外追放の国はあっても、実際には他国で囚われたら即死刑しかないのが現状です。しかし…、まさか予言の勇者様から出るとは…。」


「ひっ捕らえろ!」

ドーヴァ国王は怒りに声に荒げた。


「ちょ、ちょっと待ってください。」

俺はわからないけど必死に抵抗するしかなかった。

国外追放?牢獄?死刑?

なんでだ。

勝手に転移されて、なんで捕まらなきゃいけないんだ。


俺はステータスと念じた。

目の前にステータス画面が現れた。


ユーマ・タケダ

18歳

人族

レベル1

ステータス シーフ 斥候

・レベルアップに応じて転職ステータス可能。

・レベルアップに応じて二次ステータス獲得可能。


シーフと書かれてるが、隣には斥候と書かれている。


斥候って確か、偵察したりするやつだよ。


「俺のステータス画面には斥候と書かれています。シーフと言っても盗人とかついてません!」


そう言ったが

「斥候?そんな言葉は知らん。誰か、知っておるものはいるか?」

ドーヴァ国王は言った。


誰も反応しない。


「しかし、シーフと書かれているのは間違いないのですね?」

教皇がそう言った。


「確かにシーフとは書かれていますが、盗人とは一言も書かれていません。」

俺は言った。


「この大陸。この世界では、シーフと言えば盗人以外あり得ませぬ。そして、このステータス自身も水晶を通してこの世界でしか使われていないはず。現に昨日までは皆様にこのステータス画面は出なかったはず。つまり、ユーマ様は、この世界でシーフとなっている、という事です。」


「そんな馬鹿な。でも実際俺のステータスには盗人とは書いてない!」


ゼニアは

「私の世界にもシーフはいた。しかし、こちらの世界と同じで盗人でした。

彼らはいつも狡猾でずる賢い。平気で嘘をつくし、平然と人を騙す。


昨日のユーマの表情や言葉もそうだったのではないか。

ユーマの話した世界など、始めからなかったのではないか。」


「噓じゃない。俺は嘘なんかついていない。

どうして!

何の理由もなく勝手に転移させられて、急に盗人呼ばわりされて。だったら元の世界に帰してくれよ。俺だって好きでここに来たんじゃない!おかしいよ、こんなの。呼ばれて捕まって。俺が一体何したって言うんだ。」


俺は感情的になった。


死ぬかもしれない。殺されるかもしれない。冗談じゃない。


ゼニアは

「そんな顔したって、シーフは平気で人を騙す。俺もあっちでシーフに騙されて死にそうになったこともある。油断できないし信じられない。」


全然話を聞いて貰えない。


俺がレイラを見ると

「昨日話した事も全て噓だったというのか…。」

そう言って俺を睨んできた。


騎士隊団長のロキアが

「ひっ捕らえよ!」

と言うと、騎士団が俺を囲み、大人数で取り囲まれた。


抗う気持ちなんかない。

そもそも抗える力なんかもない。


何かの間違いだ。一体なんで俺はこんな事に。


「牢獄に連れて行け!」

ドーヴァ国王は卑しいものを見るように俺に吐き捨てるように言った。


俺は騎士団数人に紐でぐるぐる巻きにされ、無理矢理歩かされた。




「しかし、この後どうされますか?」

俺が連れ去られた後、教皇ビンシェントはドーヴァ国王に尋ねた。


しかし国王は黙っている。


「もう既に4人の勇者が予言通りにこの地へ現れた、というのは昨日の時点で城下には広がっております。いずれは他国にも知れ渡る事でしょう。

しかし、4人と言って3人しかおらなければ、他国からあと一人はどうしたと、逆に勘繰られてしまいます。」

教皇は言った。


側近のジュレイは

「予言では、4人全員が大陸を平定するとは言われておりません。その誰か、とも言っております。」


するともう一人の側近ディネツが

「素直にシーフだったと言えば良いのではないでしょうか。」


すると教皇が

「しかし転移された勇者様でございますぞ?」

と言うと、ディネツも


「転移されたはしたが、シーフだったと。しかし隠しては外交的に問題がある。ならば、シーフとしてこの国、ひいては他国が納得する形にすれば良いのでは?」


ドーヴァ国王

「どのようすれば?」




メクニアはユーマが連れ去られてる時


(私の世界では、普通にシーフは斥候として多いに役にたったんだけどねぇ。

ダンジョンなんかでは居るか居ないかでかなり差が出るくらいなのに。

でも言える雰囲気じゃないわよね。まさか斥候ってステータスが無いなんて。

ユーマは気の毒だけど、居ても居なくても私は大丈夫だし、死刑にさえならなければ、いつか助けられる時もあるかもしれないわね。)


そう思っていた。




俺はなんでこうなっているんだろう…。


何も他に考えられなかった。


何処を歩いてるとか、何処に向かってるとか、何も考えが及ばない。


俺が何をしたって言うのだろう。


気が付くと、俺は地下の牢獄に連れて来られていた。


誰も居ない、ジメジメした牢。


俺はそこで手枷と足枷を付けられ、牢の中に入れられた。


鉄格子の金切り声が聞こえ、何も誰にも言われずに、監視兵を残し他に誰も居なくなった。


逃げる気も無いし、逃げる術も知らない。


俺はただの大学生。


出来る事は荷物の仕分けと料理を上手く運ぶくらいのアルバイト。


ああ、これ、長い夢なんだな。


だってそうじゃないか。


ただの日本の大学生が、何の理由もなくこんな牢獄に入れられるなんておかしいじゃないか。


海外旅行に言った覚えもない。


俺はキャンパス近くの古本屋に居たんだ。


日本に居たんだ。


なんでこうなった?


俺が何かしたって言うのか?


何かしなきゃいけなかったのか?


確かに有名大学には行ってないけど、後ろ指差されるような事してないだろう。


両親が居なかったから?


そんなの俺だけじゃないだろう。


わからない。何がどうなってるのかわからない。


夢なら早く醒めてくれ。





いつ、朝なのか夜なのかもわからない。


時間がどれくらい経ったのかもわからない。


カスカスした固いパンと、味のしないスープを何度か食べただけ。


服を脱がされ、麻っぽい服に着替えさせられ、シャワーの代わりに、鉄格子の外から水を掛けられるだけ。


何も考えられない。


ただ、自分がどうしてこうなったかなんて、きっと誰もわからない。



誰かが来た。


騎士隊数人が来て、俺は牢を出た。


抵抗する気は全くないのに、随分荒く扱われている。


足枷があるせいか、階段すら登りづらい。


どれだけ歩いたかわからないけど、どうやら地上に出た。


太陽の光がとても眩しく、視界が霞んで見えている。


太陽が真上の方にあるから、とりあえず昼間くらいなんだろう。


少し歩くと、馬車の荷台みたいのが見えたが、その荷台の上に牢の様な鉄格子が荷台の上で囲まれ、丁寧に天井まで鉄格子になっている。


ああ、結局牢屋だな。


俺はそこに乗せられた。


どこか遠くの、刑務所みたいなところにでも移送されるのか…。


死ぬのかな。


死ぬんだな、俺。


無力だ。


情けなくて涙が出た。


もう何も考えたくない。



すると、鉄格子の荷台の隣に、豪華な馬車3台が横に付いた。


そこには、服装も装備も豪華なゼニア、メクニア、レイラがそれぞれ乗っていた。


「ユーマ!」

ゼニアの声が響いた。


俺はどんな顔をしていたんだろう。


きっと、無気力で惨めで情けない表情だったんだろうな。


ゼニアは、見てられない、という哀れな表情をしていた。


メクニアもまた、驚いた表情をしていた。


レイラは目線すら合わさない。


でももう、ちょっとどうでも良くなってきた。


すると、ゼニア達の馬車が順々に進み出した。


俺はその3台とは少し離れてから進み出した。


今ので彼らとはお別れなんだな。


さよなら、とか言えなかったけど、もう良いや。



そんな事を思っていると、城内から大きな橋を渡って城下に出た。


大勢の人が道の両脇にいた。


ゆっくり馬車は動き、俺はそこで心が...。


「盗人!」

「にせ勇者!」

「死んじまえ!」


あらゆる罵声が明らかに俺に向けて浴びせられた。


天井まで剥き出しの、四方背中まで丸見えの鉄格子の中、


逃げ場もない。剥き出し。人の感情がダイレクトに突き刺さる。


穴があったら…、穴なんてない。


ドーヴァ王国の王都シナウ城下の大通りを、俺はひたすらに嘲笑と卑下と罵声の中で


ゆっくり見世物にさせられていた。


「カン!」という鉄格子に何か当たった音が鳴ったと思った矢先、小石が投げ込まれていて、俺はそれを頭に受けて血を流していた。


「罪人め!」

「早く死ね!」

「魔物に喰われちまえ!」



逃げ場はない。


どうしてこうなった?


もう、小石が当たってもあまり痛みは感じなくなった。


心が死んでいくって、こういう事なんだな。


聴衆の声は遠くに感じる。


どんどん遠くに聞こえる。


心が狭く、暗く、黒くなっていくのがわかる。


今、それを感じる。


人々の、敵意、蔑み、哀れみもない汚いものを見る様な目の数々。


その視線、それだけが残る。


この世界に誰一人俺の言葉を聞いてくれる人はいない。


こんな事なら早く死にたい。


もう嫌だ。もう良い。もう無理。


早く、早く…。



そして、大通りから、大広場、街の中心に来ると、


俺はそこに設置された舞台の上に立たせられた。


大勢の民衆がその舞台の前で、歓声なのかわからない怒号の様な声が聞こえる。


舞台の上には、王の側近のジュレイ、騎士団団長のロキア、副団長のギレイ、教皇のビンシェントと数人の聖職者、そして、ゼニア、メクニア、レイラが居た。


側近のジュレイが手を挙げると観衆が静かになった。


側近ジュレイ

「本日は、我が国に訪れてくれた4人の勇者を称え、ここにご紹介させていただきます。


ただ、残念なことに、その中で1人、シーフが居たという事も、国民の皆様にお伝えしなければいけません。


予言通りに来られた勇者の皆様方故、その1人を死刑にする事は、流石に良くないと、我が国王、タリウス・ストーニ・ドーヴァ王は言われました。

なんと慈悲深い国王にございます。


そこで、国民皆様の前で、このシーフなる勇者に、奴隷紋を施すことで、我が国王の慈悲に我々国民も留飲を下げたいと思いませんか?


盛り上がる観衆。


俺はこの観衆の前で、騎士数人に両膝を地につけ、上半身を裸にされた。



もうどうでも良い。


なんなんだ、これは。


何が勇者だ。


正義なんかない。


この民衆はなんだ?


人の話も聞かないくせに盛り上がってて。


なんなんだ。


俺が勇者であっても


この人達を守るの?


何の罪もない人間をこれだけあざ笑い、石を投げつけ、罵倒し、嘲笑するような人達に、何が慈悲だ、救いだ。


魔物から守る?


この人達を?


どうして?



シーフってなんだ。


たったそれだけで。


何もしてないのに。


それだけで。


突然俺はシーフにさせられて


突然俺は罪人になる。


理不尽。


理不尽過ぎる。


こんなんだったら、死んだ方がマシ。


本当にそうなの?


怖い。死ぬのが怖い。


じゃあどうする?


死にたくない。


死にたくない。


死ぬのは怖い。


でも、もうどうして良いかわからない。




教皇ビンシェントは何か儀式の様に俺の胸に大きな魔法陣を時間をかけて描いている。


そして教皇は側近のジュレイに頷くと、ジュレイは


「今ここに、かの勇者をこの国の奴隷勇者として生かし、国王の慈悲の元、魔物と戦い、この国に、国民の皆様に、一切の罪を犯さないよう、奴隷紋を施します。

皆さんにはそれを是非目撃し、かの勇者が問題を起こさない事を、ここで誓います。」


観衆は大いに沸いた。


俺は、


この舞台にいる人間に似た悪魔たちひとりひとりを睨んだ。


メクニアは少し目を伏せた。

レイラは目を合わせてから目を伏せた。

ゼニアは少し笑っていた。


俺は最後に、教皇ビンシェントを下から睨んだ。


「…、申し訳ない。」


ビンシェントは小声でそんな感じの言葉を発した。


そんな言葉、もうどうでも良いし、遅い。



ビンシェントは呪文を唱えると


俺の胸に描かれた魔法陣が輝き


死んだ方がマシくらいの痛みが全身を覆った。


胸いっぱいに描かれた魔法陣が、ほんの少し煙を上げて輝きが消えた頃、


俺は、武田勇真はきっと死んだ。



ユーマは気絶した。




王城。国王の部屋。ドーヴァ国王と側近ディネツ。


「これで国内外にアピール出来たな。」


「仰せの通り。民衆の中に諸外国のスパイ、関係者がいたと思われます。我々に隠す意図も無く全てを見せる事で、我が国に他意がないというアピールに成功したと思われます。そして、陛下のお慈悲で生かす、という思惑が国民に知れ渡れば、我が国の忠誠心もまた向上するものと思われます。」


「あ奴は、その為に転移された、生贄としての勇者、であるな。」


「ですね。盗人勇者。まだまだ使い道もあるかと。」


「そうだな。存分に使うとするか。」


そう言ってドーヴァ国王は微笑んだ。

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