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異世界で必要なものは運だけでした。  作者: 白昼夢
一章 異世界転移と同族のいる街
9/72

宿が決まりました。

いっぱいあるね、宿。地図で見たけどどれが良いのやらわかんないや。


こう言うときは地元の人に聞くべきかな。

誰に聞こうか周りを見渡して、暇そーにしてる屋台の人を発見!

売ってるタコヤキモドキを買うついでに聞いてみた。


「この街で一番いい宿?そりゃあ金剛亭だけど…

 あそこは1泊金貨百枚だよ、そんなにお金あるのかい?」


金貨ひゃくまい。ってことは金貨100枚。

それっていくらだ?

金貨1枚が大体一万円だから、ひゃくまんえん!?


1泊ひゃくまんえんって値段設定おかしいでしよ。


と思ったら、貴族さま御用達の宿らしくて、泊まってるのはほとんどが貴族か大商人なんだって。


なんでも領主様が有名なんだって。

あと、剣聖さまがこの街に住んでるから観光気分で貴族が来たり、顔を使いたい商人とかが来たりするらしい。


で、「僕の泊まれそうな宿はありますか?」って聞いて教えてもらったのが『鹿涼亭』。


「料理も美味しいし安いって評判だよ」


だってさ。

もう日も暮れてきてるから、教えてもらえてよかった。




カランカラン


「いらっしゃい」


「泊まりたいんですけど」


「1泊銀貨2枚」


「はい」


チャリン(お金を渡した音)


「鍵持ってけ」


⋯店番してるくせに無口すぎるよ!

そんなんでよく宿やってけるな。


少し呆れながら階段を登る。

僕の部屋は…一番奥か。しっかり鍵も付いてる。

部屋は思ったより狭いけど一人だったら十分。

調度品は備え付けの暖炉と、ベッドと、窓際に机があるくらいだな。

部屋の中があったかいと思ったら、暖炉に火が燃えてるからか。


靴を脱いでベッドに飛び込んで、なんともなしに天井を見上げる。

日本では見る機会のないような煤けた木の天井が目に入った。


「そっか、知らない世界に来たんだ…」


今までは何処か夢の中にいるようで、実感できていなかったんだ、と気がつく。


同時に心細さがやってきて。


「母さん…」


つい声に出てしまう。

母さんと交わした最後の会話が思い出せない。

その時までは幾度も繰り返される日常だったから。


それがもう記憶の中だけのものになってしまうかもしれない。


そう思うと胸中に後悔の念が押し寄せてくる。

歪んだ天井が僕を嘲笑っているように感じて、

部屋に満ちる静寂がやけに耳につく。

日が落ちて暗くなった部屋に、暖炉の火だけがチラチラと燃えている。


ああ、母さんに日頃からもっと感謝を伝えておくべきだったな。


早くに死んだ父さんの分も働いて、女手ひとつでここまで僕を育ててくれた母さん。


2人で誕生日を祝ったことも記憶に新しい、

どうして僕は、当たり前の幸せが、与えられることを当然のように感じていたんだろう。


嗚咽が漏れて、あとからあとから涙が溢れてくる。

学校では大して目立ってなかったかもしれないけど

僕を気にかけてくれる人もいた。


考えたことなかったな、今まで。

クラスメイトに会いたいなんて。

母さんが恋しいなんて。

学校はめんどくさいと思ってた。

母さんを鬱陶しいと思ったことすらあった。


でも。


今は、母さんの声が、また聞きたい。







いつかうちに帰れる日は来るのかな。


……………


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