審議開始です…
さて、独房から引き出されたはいいんだけど、僕はどうすればいいんだろう?
この鬼さん、信じられないほど無口でさ、……正直言って、めちゃくちゃ怖い。
これから起こるであろうことに関してもそうだし、今になって自分の置かれている立場を理解してきたってのもある。
そもそもなんでこんな事になってんだろう?
そこについての不満を言いたくなったものの、何とか踏みとどまる。今変なことを言って、いたずらに生存確率を下げるのは得策じゃない。
だからと言って黙っているのもこう辛いものがあるし…
と、悶々としているとついに大きな扉の前に立たされた。見るからに豪華な装飾が施されたその扉。
……ここで僕の判決が下されるんだろうな。そんなことを思っていると、鬼の人が振り向いた。
「この先は神聖な場所である。くれぐれも粗相をしないこと。もし不埒な考えを起こしたなら、古代魔術による結界が発動する。
私はこの扉の奥に進むことのできる身分ではない。これより、一人で進め。」
鬼の人。
何で僕がそう呼んでいたかというと、その人がフルフェイスの兜をしてるせいで顔をみえなかったからなんだけど。(唯一つのだけが兜から出てたからね、鬼の面みたいだったんだ)
彼は、今、その兜を外してその扉に深々と礼をした。
…そんなに大事な扉なのかな。
ふと興味を持った僕だったけど、「早くいけ」と、鬼の人(たぶん鹿系の種族の人だと思う)に言われたら、そりゃいかない訳にはいかないでしょ。
背中がチクチクするし。主に突きつけられた槍の先で。
そして扉を開け、進んでいく。
中は無骨な石造りかと思ったら、案外調度品が飾られていたりと高貴な感じが漂ってくる。
今更ながらこの街に入ったことを後悔してるけど、僕の心は古代魔術とやらで公開されてるんだから、変なことを考えるよりはこう考たほうがいいよね。
……なんて今思ったことまで筒抜けだったりするの!? せっかくの策略、崩壊中。
ふう。一人で漫才をしてるうちに、大分落ち着いてきた。引き換えに、僕の心がダメージを受けた。
……何と虚しいんだ、僕の漫才は。
そしてこの長い通路の終わりも見えてきた。こっからが、正念場だ。
より一層、気を引き締めて通路の端に辿り着く。
そこには観音開きの扉があって、それが勝手に開いていく。
自動ドアか? と期待しながら入ると、ただ両側に人が立っているだけだった…と思ったら扉に取っ手がない。やっぱりこれ、自動ドアなんだ。
すこし嬉しくなる。そして自分の目の前に広がる、その光景を見た僕は、くらっと来た。
主に現実に引き戻される勢いのせいで。
僕の目に映ったもの。
まずは、リース。そしてその両隣に座る、高貴そうなお方々。
後部屋の真ん中に鎮座した、…これギロチン? まさかね。ちらっと見てすぐ目をそらす。
以上三つ。
それと僕しかない殺風景な部屋は、いやでもこの裁判…なのか?
(もう僕のこと殺す気満々じゃん!? ギロチン…いや僕は何も見ていない、でもよく見たら、それの横に執行人みたいな人がいる…いや、やっぱり僕はそんなもの見てない)
あぁ、死刑の執行儀式みたいに思えてきた。
とにかくこの部屋は僕に、この裁判から逃げ出せないんだな、ってことを伝えてくる。
…リース、助けて。
懇願する目で見たけど、アイツ「どうしようもないわね、これでも私精一杯やった方だから」って的な目で見てきやがたあぁもうだめだ。
頭の中が今更やってきた死の恐怖によってかき混ぜられて、一足先に語彙がお亡くなりになっている。
……いや待って、僕死ぬ気ないから。「一足先」じゃないから!
と、支離滅裂な思考をしている僕の耳に、リースの声が聞こえてきた。
「それでは、双方、名を」
そのリースの声に答えて、右端にいるオーガさんが名乗った。
右目が切り傷で開いていない、ムキムキの怖そうな人だ。
「我が名、ル・ドルブ。鬼人族元首として、ここにいる」
次はその隣の猫の獣人さん。
僕はこの人を知っている、確かこの前リースの部屋に呼びに来てた人だ。
確か名前は…
「我が名、カナル・リオン。魔王様の側近であり、獣人族族長としてここに席を頂いている」
次の人。あ、これは分かりやすい。
手が羽になってる、ってことはハーピーさんだ。
「我が名、アルセーナ・アンビー。見ての通りの鳥人族長よ、よろしくね!」
…元気よくよろしくって言われても僕、もうすぐ死ぬかもなんですが…
いや、せめて自己紹介の間だけでも考えないようにしよう。僕の心の平和と、恐怖と気絶からの逃走のために。
そして次の人…は、リースの左の人だ。この人にはぱっと見の特徴はない。
しいて言うならば、少し骨太でずんぐりむっくりした見た目ってことだ。
「…ライ・ジナルだ。亜人種連合代表だ」
そして最後の人が、自己紹介をする。
「ミネルバ・ミャフェイトンです。魔人の末裔ですぅ」
この人だけは、(目が赤く爪が長く色白という特徴を除けば)メグルたち人間と見分けがつかない。
ふとその人の言った「魔人」という存在に引っかかりを覚えるが、まあいいかとばっさり切り捨てる。
そして最後に、リースが名乗る。
「我が名、レンツ・イヴリース。先代、レンツ・ヴァーリトンの娘にして、今代の魔王である。
被告、名を名乗れ」
形式ばった喋り方をするリースに吹き出しそうになるも、何とかこらえて言う。
「アイバ・メグルです」
「ではこれより、第1039回元老院を開廷する」
リースのその宣言に、僕の運命(物理)の審議が始まった。




