イヴリース視点:会話
鬼人族の人を殴って気絶させてしまった……
少しの間やりすぎたことに対して反省して、即心を入れ替えて次の聴取対象を見つけに行く。
この時間だと、…お昼ご飯の準備のために、厨房には人がいるだろう。
そう判断して厨房に向かう。
すると途中で、レオンがこっちに来た。
レオンは、猫の獣人で私の側近? 参謀? みたいな扱いの人。
種族的な特性もあってか身体能力が高くて、しかも頭の回転も速いからお仕事の時に頼りにしてる。
よし、聞いてみよっと。
「ねえレオン、ちょっと聞きたいんだけど。」
「ああ、よかった魔王様。探したんですよ。
何でも、この後大事な用があるとかで、お部屋で待っていてほしいそうで」
「そう。お父様が言ってたの?」
「ええ。なので、すぐにでもお部屋に戻って頂けると助かります」
そう言いながら二階へと歩いていくレオンの後をついていく。
部屋にたどり着くと、「絶対にお部屋から出ないでくださいね。絶対ですよ!」と言い残して行っちゃった。
そこまで言われると気になるわね。
ぜひとも言いつけを破って部屋から出たい、と思ったんだけど……
扉があかない。
アイツ、オートロックで外からしか開けられないようにしやがったわね…!
許さないんだから! 扉を開けた瞬間に拳の一つでも打ち込んでやるわ!
そう決意して扉の前に立ち、開くのを今か今かと待ち構える。
しばらく待って、足音が聞こえてきた。そして扉が動く。
レオン、よくも私を閉じ込めたわね? この罪は重いわよ……!
そう思いながら腕を固めて、顔面に拳をたたきこもうとして——。
あっ、この体勢だと顔面に拳を叩き込めないじゃない! ミスった!
「何すんだ!」
「それはこっちのセリフよ!
魔王たる私を部屋に閉じ込めて、一体何するつもり、な…の……?…」
言ってる途中で気が付く。
レオンじゃなかった。ヒートアップしてて気が付かなかったけど、この人はレオンじゃない。
ちょっと待って。
………私、今、全く関係ない人を拘束してる?
やばっ、謝ったら許してもらえるかな?
もし私の知らない人だったらやだな、そう思ってよく見てみるも、その人には何の特徴もなかった。
獣人特有の耳も、リザードマンの鱗も、私たちみたいな翼も何もない。
そんな種族は、魔族にはいない。
この人は、あれだ。
「人、間…?
ここにはいないはずなのに……」
そう、この何の特徴もない、という特徴を持つ人類種。
それは、お伽噺の中でしか見たことも聞いたこともなかった、人間。
この森を超えた先に、住んでいると言われる破壊の権化。
ヤバい、距離を取らなきゃ。
いつ攻撃されても不思議ではない。何せ、伝え聞いてきた話では魔物よりも恐ろしい、意思疎通不可能な野蛮な種族だってんだから。
そう思って飛び退り、ソファの向こうに飛び込んで恐る恐る覗き見る。
今まで、人間と仲良くしたいと思ってたけど、いざ対面してみると恐怖心の方が湧き上がってきちゃって、それどころじゃない。
それでも、ここで暴れさせるわけにはいかない。
この城を壊されてしまえば、いざという時に籠城することができなくなってしまう。
一周回って冷静になった頭でそこまで考えて、口を開きかけた時。
「あ……悪魔…?」
そう言われた。人間に。
考えるより先に体が動く。
手に触れたクッションを掴み、即座に投げる。
そんなことを言うやつは、誰であろうと乙女の敵よ! ついでに、私の部屋に入ってきたことも許さないからね。
そんな思考のもと投げたクッションは、見事に人間にクリーンヒットして、1メートルほど吹き飛ばす。
「いや、どんなパワー!? そして、なんの嫌がらせ!?」
「なんの嫌がらせだと!? そんなの分かり切ってるでしょ!
人を種族名で呼ばないで! あと、人の部屋に勝手に入ってくんな、この蛮族!」
言ってから気が付く。
あれ? この人間、意思疎通ができる、と。
でもそんな気付きも、次に放たれた言葉の前に霧散した。
「じゃあなんて呼べば良いんだよ!? 名前も知らないのに、呼びようがないじゃねえか!!
あと、部屋に入ってきたのは不可抗力だ! お前が引きずり込んできたんじゃないか、被害者はこっちだよ!
この暴力ゴリラ!!」
ぼ、暴力ゴリラ…?
言葉の暴力を受けて一瞬固まった私は、油を注がれた火のごとく燃え上がる怒りのままに動いた。
今までで一番と思えるほどのスピードで人間に接近し、その顔を掴む。
「あん!?人間、私の目を見て言ってみなさい、もっかい、同じことを!!」
後で思い返しても、かなりの威圧感だったと思うんだけど、人間ときたら、ふてぶてしくも言い返しやがった。
「近い近い近い!!
そしてその注文はムリ。……今言ったこと、覚えてないから」
かっちーん、と来た私は、そのまま拳を打ち込もうとして気が付く。
あれ? 人間を全力で殴って殺したら、ぐちゃぐちゃになって種族の判別がつかなくなって、そしたら私捕まっちゃうんじゃね? と。
仕方がないのでその辺に落ちていたクッションを拾い、滅多打ちにする。
そうしてるうちに怒りも収まって来た。
「ふん。参ったか」
「参った参った。うん、ホントに………ゴリラ(ぼそっ)…」
「あんだとてめえ!?全く反省してないじゃない!この人間!!」
素直に降参してくれたから、怒りを収めようとした瞬間のゴリラ発言よ!
確かに今腕力で解決したのはゴリラっぽかったけどさ、……っぽかったけどさ。
図らずも認める形になっちゃって、何で私は魔法を使わなかったの? と後悔した。
そしたらもっと楽に制裁を加えられたのに。ゴリラっぽくもなんなかったのに。
畜生! 半ば八つ当たり気味に人間の胸ぐらをつかみ、揺さぶる。
人間は全く動じない。どころか、「一つ言っていい?」なんてぬかしやがった。
……でもまあ、こっちにも非はあるし…。まあ、言い訳くらい聞いてあげないこともないか。
「弁明なら聞くわよ?」
「それでは。……人間って言うな、僕には、メグルっていう立派な名前があるんだよ!
ついでに初対面の人間をフルボッコにすんな、この悪魔!」
弁明どころか、全く反省してない人間の、厚顔無恥な発言。
っていうか、また言ったわね、悪魔って!
そう思って、感情のままに言い返す。
「フルボッコにした件は反省しないわ。あと、クッション使ってやったでしょ。素手だったらこんなもんじゃないわよ?
そして、私にも、イヴリースっていう、立派な名前があんの!!この高尚な魔王様の事を、種族名で呼ぶんじゃない!」
「あぁん!?お互い様だろうがリースちゃん?
……って待って、お前、魔王なの!?」
勢いよく言いきって、慌てたように今更な確認をする人間…メグル。
ふん、ざまあみろってのよ、少しスッキリしたわ。
あ、でも、『シバ』と混同されるのは嫌ね。
「リースって呼ぶな馴れ馴れしい。
あ、勘違いしないでよね?私、魔王だけど魔王じゃないから」
「……??」
あっ、頭にハテナがいっぱい浮かんでる。
ついでに、この辺で少し意趣返ししてやるのも悪くないわね。
恩着せがましく説明してやろうっと。
そんなことを考えてると、メグルの頭にビックリマークが浮かんできた。
まずい、私の言おうとしたことに気が付いたか? そしたら意趣返しできなくなる。
そう思ってると、的外れなことを言い出したメグルに、ずっこける。
「魔王の娘だから、まだ魔王じゃないってこと?」
「ちゃうわい、れっきとした魔王よ私は!
もし知りたければ、頭下げたうえで『お願いします』って言えたら、教えてあげてもいいわよ?」
「この……お願いします(ぼそ…)…クソッ、弱みに付け込みやがって」
「んん?聞こえないわよ?もっと大きな声で」
しょうがないわね、私は優しいからせつめいしてあ・げ・る。
取り敢えず何も知らないメグルには、魔族のお伽噺を教えてあげた。
ついでに、こんなの常識だよ、とか、知らないんだー、メグルってバカ? とか言ってやったら、あっちも言い返して来たから全く話が進まなかったじゃない。




