夢を見つけた後、牢屋から抜け出しました。
元老院か。
聞きなじみのない言葉ではあるけど、意味は何となくわかる。
日本でいう、議会……この場合は裁判の場でもあるのか……みたいなものだろう。
僕は、そこで下される裁定を待つだけの囚人ってことだな。
「…その裁定っていうのはどうなると思う?」
「まだ分からないけど、多分死刑かな…」
「そうか」
そしておそらく、死刑になる、と。
死刑。
言葉の意味は分かるんだけど、その実感がわかない。
夢の中にいるような、そんなフワフワした感じだ。
……せめて、弁明の機会とかは与えてもらえないだろうか。
言い逃れをするつもりはないけど、僕の事を知ってもらいたい。
そして、人間が、思っているよりも怖くないのだと分かってもらいたい。
「僕はそこで、話すことはできないかな?」
「……難しいと思うわ。
人間がどんなことをしでかすつもりなのか、何しに来たのか。
今、それに関してあらぬ憶測が飛び交ってるわ。
そんな時に、得体のしれない被告人を、国の中枢が集まる元老院に連れていく意味がない。
みんな、メグルに怯えているのよ」
「……そこを何とか」
ここで「はい、そうですか」と引き下がったら負けのような気がする。
もちろん、死にたくないってのもそうなんだけど、それだけじゃない。
それだけじゃない、気がする。
それは、少し考えてわかった。
せっかくこんないい人たちに会えたのに、その人たちが、野蛮人だと思われているのが悲しいんだ。
こんなに時間がたった今も、人間との軋轢があることが悔しいんだ。
そうか。僕は。
——僕は、人間と魔族の、架け橋になりたいんだ。
魔族と人間。それは、元を突き詰めれば同じであり、一つの種族だった。
でも僕たちは、互いを、互いが嫌悪し、疑い、避け続けてきた。
そんな人類、という種を一つにしたい。
大戦で分かたれた種族としての絆を、結びなおしたい。
戦争で失った命が、怨念が、もう過去のものとなってしまった今だからこそ、できるのではないか。
人間の身でありながら、ここにきて魔族の温かさを知った僕だからこそできるのではないか。
そう思った。
だったら、余計にここで死ぬわけにはいかない。
ここは、なんとしてでもチャンスを掴みたい。
そのためにはまず、元老院の場で話すのが、第一条件となってくる。
「リース。
頼む、この通りだ。僕に、元老院での発言の機会をくれ」
リースと僕を隔てている格子の方へとにじり寄り、正座をして深々と頭を下げた。
もしも、もしもここで発言の機会をもらえなかったら。
僕は夢のスタートラインにも立てなかったことになる。
それだけは嫌だった。生まれて初めて、心の底からやりたいと思えることが見つかったんだ。
ここでくじけてたまるか。
その一心で、リースに頼み込む。
「頼む!」
「……はぁ。仕方ないわね。
魔王としての権限を使ってでも、発言の機会はあげるわ」
「ありがとう、恩に着るよ」
そう言って握手を求めて手を伸ばす。
格子の隙間からでも、腕位は出せるからね。
「あっ、メグル、格子に触っちゃダメ!」
唐突に、リースの制止が聞こえた。
その声に驚いた僕の肩が跳ね上がり、手の甲が格子に振れてしまう。
ヤバい、何か魔術的な仕掛けとかが施されてて、電流が流れてるとか、触ったら気絶するようになってんのかな?
早く手を引っ込めなきゃ。
そこまで考えて手を引っ込めるまで約1秒。
その間僕の手は格子に触れていたわけだけど……
「「……何も起きない(わね)」」
何にも起こらなかった。
リースがあんなに必死の形相で制止してくるから何事かと身構えちゃったけど、何もないんかい!
と思ってると、リースの独り言が聞こえてきた。
「おかしいわね…
この格子には、瞬間的に触れた人の魔力を限界まで吸い取って気絶させるような魔術が施されてるはずなのに」
「…………」
あっ、納得。僕もともと、魔力無いもんね。
そりゃこの魔術が効かない訳だ。
そんなことをリースに伝えると、
「はい!?メグル魔力ないの!?
ってことは、この独房の出入り口の、魔力吸収結界も役に立たない訳!?
これじゃあここに閉じ込めた意味ないじゃん!?普通に出入り自由ってこと!?」
『!?』を多用した返事が返って来た。
それにしても、出入り自由なのか。そうかそうか。
そう理解した僕は、物は試しだと出入り口の結界に触れてみる。
案の定何も起こらない。
結界から出てみる。
あっ、フツーに独房から出られた。
うん、これじゃあ僕を牢屋まで連れてきた意味ないね。
「メグル、どうしよう!?」
リースが頭を抱えてるけど、どうにもならないんじゃない?
パット見た限りだと、このフロアに並んでる牢屋、全部このタイプみたいだし。




