首の皮一枚でつながりました。
「知ってた。
私達魔族は人間に悪感情を持ってるって言ったでしょ。
そもそもここに来た時点で真っ当な人じゃないってことくらい分かるわ」
「そうだったのか…」
「ま、私は別にそんな感情はわかないけどね。話してて悪い人じゃなさそうだったし。
だから今すぐどうこうしようとかは思わないわ」
「………。…!…やった、助かったありがとう!」
良かった、これで、今すぐ牢屋行きは免れた。
セーフ。
首の皮一枚のところでつながったぞ!
…だけど、これで安心してもいられないんだよな。
リースの言動見てると、このお城にはほかにも人がいそうだし。そいつらに見つかった時のことも考えないと。
「……メグル、そろそろ放してくれない?」
その声で我に返ると、……どうやら僕は、嬉しさのあまりリースに抱き着いてしまってたみたいだ。
「ごめんっ!」
慌てて離れると、顔を赤くしたリースが言ってきた。
「……前言撤回。メグルは悪い人じゃなくなかったわ。
…スケベ!アホ!間男!!」
はい、反省してます。ごめんなさい。
……ん?
「…リースさん、ほか二つは認めるとしても、アホはなくないっすかね?」
「あんたはアホじゃないのよ!?
誰にも声を掛けずに街に入って来たことでしょ、お城に不法侵入して、あまつさえ部屋をのぞいて回った事でしょ、そして何より、このかわいいイヴリースちゃんを、会ってすぐにキズモノにしたじゃない!?
それをアホというのよ!!」
「あーにが傷物だぁ!?たかが抱擁くらいで一々大げさなんだよ!!」
「全く反省してないわね!?
なに?また殴られたいわけ!?」
パキポキ指を鳴らしながら近づいてくるリース。
圧がすごい。なんか、ソウレンさんを思い出すな。
「おいやめろ!こっちだって刀を抜きたくはないんだよ!!」
「ほー?素手では私に勝つ自信がないと……?
やーい弱虫!!」
「てめえ言わしておけば……
剣聖の弟子である僕をなめてかかった事、後悔させてやる!」
売り言葉に買い言葉。もうこうなったら止められない訳で。
アイツに目にもの見せてやる……!
そして(醜い争いの後)かろうじて勝ったのはリース。
リースの部屋はめちゃくちゃになっていて、その中央でリースに馬乗りになられてる僕。
みじめだ…
「このか弱い乙女に負けた今の気分は?」
「最悪……」
そしてがばっと起き上がって、その拍子に振り落とされて転げてるリースに指を突き付ける。
「冒険者歴3週間のこの僕をなめるなよ!?」
「言ってることがさっきとまるで違うじゃん。さっきの自信はどこ行ったのよ、『剣聖の弟子』さん?」
「くっ、忘れろや!」
「絶対忘れないわよ。ずっとからかってやる!!」
そこまで話したところで、部屋の扉がノックされた。
「魔王様、お城の門まで来てください」
ヤバい!!
これはマジでヤバい!!
この人に、僕がいることを見られたりしたらまたややこしいことになる!
どうしよう!?さっきのケンカの余波で部屋がぐちゃぐちゃだ。
物が散乱している部屋に不信感を持たれたり、片づけようと入ってこられたりしたら僕は終わる!
ぬぐう……かくなる上は、最後の手段だ。
「リース、この不法侵入の間男のことを、匿ってくれ!!頼む!」
「………」
すんごく冷えた目でこっちをにらみつけてくるリース。
頑張って目をそらさないようにしてたら、ついに折れてくれたらしい。
リザードマンらしきモチーフの、頭部を全部覆うタイプのマスクを渡してくれた。
「……何とかしてあげるから、取り敢えず当たり障りのないことで会話してなさい」
「……了解」
こんなので何とかなるのか?という不安はある。
でも、どうしてもだめなら、魔王様の権力に縋って、何とかしてもらおう。
そこまで考えたところで、部屋の外からもう一度呼び掛けられる。
「急にお部屋に閉じ込めたからと言って拗ねないでくださいよ」
「拗ねてなんかないわ」
リースがそう答えて、扉に向かう。
そして開け放つと、そこにいたのは猫の獣人だった。
でも、……うん。なんかなー。
猫の獣人と言っても、男の人だったから反応に困る。
ムキムキの細マッチョに、猫耳としっぽが付いているというこの違和感。
どうにかならないもんですかね。
「おっと。あなたは?」
その人に聞かれて、返答に困る。
流石に、馬鹿正直に「不法侵入してきた、人間です。異世界から来ました」
とは言えないわな。
さて、困ったぞ。
黙っていると、不審に思ったのか(普通思うよね)鋭い目つきを向けてきた。
「あなたの種族と名前を答えなさい。
……魔王様を害してはいませんでしょうね?」
「名前はメグルです。種族は、……」
言い淀んでいると、横からリースが助け舟を出してくれた。
「メグルはそんなに悪い人じゃないから大丈夫。
暇だったから、廊下を通りかかったところで捕まえて、ちょっとの間話し相手になってもらってたのよ」
「そうでしたか。…魔王様は、そのおかげで私たちがどれだけ大変な思いをしたかご存じないようで」
「…?何があったってのよ」
「人手が足りなくて、冗談抜きで魔物の手も借りたいぐらいだったってのに!何でここで貴重な労働力を捕まえてたんですか!」
「…なんかよくわからないけど、ごめんなさい」
「分かればよろしい」
獣人さんはそう言っているけど、僕にも何のことだかさっぱり分からない。
下に行くために廊下を歩きながら、小声で獣人さんに聞いてみた。
「何があったんですか?」
「あなたは途中からいなくなっちゃったから知らないと思うんですけど、魔王様の誕生日パーティーの準備をしていたら、大通りに並べるはずのテーブルとテーブルクロスの準備を忘れていることが発覚したんすよ……」
「た、……!。大変でしたね…」
誕生日!?と叫びかけて、何とか取り繕う。それからリースの方を振り返る。
こいつ、今日が誕生日だったの!?
そんなこと一言も言ってなかったじゃん。
「?どうかした?」
「誕生日おめでとうございます、魔王様」
「ああ、そういえばそうだったわね。ありがとう」
結局忘れてたんかい!
って突っ込みたかったけど、さすがにこの獣人さんの手前そんなことは言えなかった。




