遭難しました。
まさか、異世界に来てまで遭難するとは思わなかったよ。
そもそも、自分が遭難すると思ってる人間の方が少ないんじゃないか?
でも、実際今の僕がその状況なんだよな……
遭難したからには、自分の足で森から抜け出さなきゃならないんだよね。
ルミリアさんは、森は広くて魔族の国とは離れてるから安心、って言ってたけど、その広さが裏目に出た感じだね。こうも広くちゃ、どのくらい歩いたら出られるのか分からないじゃないか。
果たしてとんでもない方向に歩いてって、魔族と出会ったりして。
それはないか。ないよね?多分。
魔物を従えて、意味の分かんない言語でしゃべる蛮族とは、絶対で会いたくないんだけど。
でもまあ、直近の課題は遭難したこの状況から、どうやって街に戻るかなんだよね……
で、遭難した時に真っ先に心配すべきは食料なんだろうけど、僕にはいらない心配なのだ。
何てったって、マジックバッグの中に大量の食糧があるんだから。
ちなみに水も、抜かりなく貰ってあるからね。宿の井戸から。
なんかこのマジックバッグ、思ったものが取り出せる仕様になってるみたいなの。
だから、大量に入れた水を取り出すには、コップを持った手を中に突っ込んで「水ほしい」って思えばコップ一杯の水が手に入るのですよ。
逆に言うと、それ以上は一度に取り出せないってことでもあるんだけどね。
でも今回は、その素敵使用に助けられたよ。
マジックバッグには感謝だわ。さすが神器。
そして、水をマジックバッグにストックしていた自分にも感謝。まじ神。
これによって生き延びられる。
こんな感じで、食料問題は解決してるから、しばらくは何とかなるでしょ。
じゃあ次はどこに行くべきか、って話なんですけども。
僕はどっちに行ったらいいのでしょーか。
皆目見当もつきませんねー。困りましたねー。
…うん、分かってた。誰も反応してはくれないよねー。
というか、こんな森の中で心の声に反応してくる奴がいたら、そっちの方がホラーだわ。
でもまあ、行先の件はどうにかなるでしょ、きっと。
だって僕、運がいいもの。運が良ければ大抵の事は何とかなるって。
だから、行先は、この棒で決めたいと思います!
ヒュー、パチパチ(脳内サウンド)
しーん…(現実)
……。なんだよこの、想像と現実の隔たり!
自分が虚しくなってくるじゃないか、やめてくれよ!
…………ごほん。気を取り直して。
この棒が倒れた方に向かって歩こう。
天が運に味方するんだから、きっと大丈夫。
だって、天に味方された運が、僕についてるんだから!
(その割にはこっちの世界にさらわれて、その上ゴブリンに襲われてるって?
……気が付かなかったことにしよう。うん、そうしよう。)
棒を倒して、その方向に歩く。
その途中で、自分が通ったところに目印をつけるべきか?と思い立ったので、ナイフを取り出して木の幹や葉っぱに傷をつけていく。
こうしたら、自分の来た道をたどってスタート地点に戻れるもんね。
…まあ別名、『振り出しに戻る』ともいうけど。
……でも、どっちから来たかすら分からないよりはましだと思う。
そう思うことにしよう。
そんなことを考えながら歩いていくと、ついに日が暮れてきた。
夜森の中を歩き回るのは危険だというし、この辺で晩御飯を食べて、寝るか。
それにしても、森の深くまで歩いてきたのに魔物との遭遇がなかったのは、運がいいおかげかな?
自分の運の良さに疑問を持っていたことも忘れて、思いっきり手のひら返しをする僕。
座るのにちょうどいい木の根っこを見つけたので、だいぶ前と同じく電池を使って薪を作る。
そしてご飯を取り出すためにマジックバッグを漁る。
さて、今日のご飯は、ハンバーガーでいいか。
食べ終わったけど、少し物足りない。
今日こんだけ歩いてきて、昼ごはんも抜いてるんだからお腹がすくのは必然。
だから、もうちょっと食べよう——とマジックバッグにのびる魔の手を意志の力で叩き落とす。
いつまで続くか分からない遭難生活なのに、初日から食料を無駄に消費してたまるか!
しぶとく残ってる空腹を紛らわすために、もう寝よう。
でも、どこで寝ればいいんだ?
地面で寝たら、朝起きた時には魔物に食われて天国なんてことになりかねない。
じゃあ、テントみたいなのを作るかって言ったら、今から材料を集めるのは無理。暗すぎて危ない。
そうなると、やっぱり木の上で寝るしかないのかな……
寝相が悪いとそれもまた一発であの世行きのような気もするけど、他二つよりはまだましか。
そう考えて、木の上に登る。
筋力が付いたからか、思ったより簡単に登れた。
じゃあおやすみなさい。起きた時に生きてますように。




