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ミステリショートショートシリーズ

飛び立つ鳥へ、まずキスを

掲載日:2025/01/01

こう、散々書いてみてはいるけれど。

上手くいったなあと、思った試しがない。


男の子とやりとりしているのは、何日くらいになるのだろう。

何でも、


「小説を書いてみようよ」


という話だ。


いきなりやって来て、そんな話を持ち掛けられた。

彼は書くのは、文学ではなく。

二次創作のジャンルが好きだという。


実際の、好きな方面は違うらしい。

歴史の話が、特に多い。


「最近はね、チャリング・クープマンスっていう人の名前を憶えたの」


と男の子が言ってきたのは、昨日。

大体いつも夕方頃にやって来て、時間にして、十分か十五分くらい居て。

去って行く。

下校途中に、ここへ寄るのかな。


名前は聞いたことがない。

ちなみに、私にも名前はない。


いつから、なかったか。

本当はあったかもしれないが、唯一ちゃんとある脳みそから、その記憶が消えてしまっている。







湾岸線。

船着き場のある港が近く。


増える輪ゴム?

どうでもいいものばかりが、積み重なった工事現場。


少女の居場所はそこだった。

長年使った肢体は、そこそこ綺麗な状態ではあるものの。

経年劣化は否めない。


「ねえ、人を殺したことはある?」


それが、少年の口から出た。

最初の質問だった。


「髪が黄色いから、そうだね。天津って呼ぼう」


これまでも何とか、いろいろな名前で呼ばれたことはあったと。

少女の脳には、記憶が残っている。


ただ型番のせいなのか、本来留まるはずのデータとしての記憶が、残りにくくなっている。

それも、経年劣化のせいか?


芸術マネジメント配属であった少女。

文化系の型番UP3109にとって、殺しというのは縁遠いものだった。


ただ、その芸術マネジメント方面で人間の役に大いに立ったと思ったら、いつの間にかスラムに居た。

何年目になるだろうか。







京浜東北線。

鳳凰の飾り。

上海譲りの天津飯の、美味しい通りがある。


工事現場近くで目立つものと挙げるとするなら、こんなところだろうか。


「人を殺したことはないけれど」


と型番UP3109、あだ名は天津になった、は言った。


「それで小説のネタになるの?」


「まあ、ならないね。だってさ、大して面白くもない」


少年は肩をすくめる。


「僕は二次創作が好きかな」


「実際。確かに、ご執心な人は居るわね」


「じゃあ、この場所では七不思議とかない? そういう話が面白いんじゃない?」


「そうねえ、あなたが来たことが私にとっては、第一に不思議かな」







そうして少年が来てから天津―UP3109―に、不思議に思えることが増えたのも事実である。

スラムと、上海譲りの天津飯が美味しい通り。

その繁盛している通りを隔てる、鳳凰の飾り。


その赤い羽根がなくなったり、また出たりすること。


工事現場の輪ゴムの数が、頻繁に変わる。

これは、少年が犯人かもしれないと判断しても、おかしくはなさそうだが。


それから、血の痕だ。

最近雨が多いからか。

それとも、頸部、脚部など?

自分からのオイル漏れで、か。







少女自身の七不思議に思う点なら、他にもあった。

自分のような型番UP、いやそれ以外のアンドロイドも、大量に出ては消える現象。


一応、日本の中の独立した国という位置づけの、とある街の、その一角の工事現場。


「鳳凰の件はあんまり。七不思議に思えないけれど、実際に行ったりするのが早いね」


ということで、少年と手に手をとって出掛けるようになって。

たぶん数十日目というところか。


それから少しおしゃべりをして、小説を書いて、短い彼の滞在時間の間に小説を渡す。

何でも彼はそこらを放浪しているとかで、少女の書いた小説もその間に。

いろんな人に配ったりするのだとか。


出掛ける場所は、鳳凰近くが多くなった。

赤い羽根がないネタ。

鳥に関する題材、ジャンルが自然、頻繁に。

増える。


一応の国際都市。

空港も目立つ。港も近い。

その辺に、鳥が集まる機会も多い。







人殺しは、そういう部署の担当になっていない限り。

秩序的にも、行うことが難しい。


そういう縛りが、経年劣化を日に日に感じている、天津―文化系UP3109―の脳にも。

スラムに来た今も、残っている。


ただ、血の痕くらいはあまり、珍しくもない。

船着き場での、魚の匂いに照らせば。







少年はいつしか、大量の紙を抱えてやって来た。


天津とあだ名がついて、方々出歩くようになり。

工事現場に寄り着かない人とも、視線を交わすくらいになったある日。


その日は、書くどころではなかった。

読むのに忙しい。


「これからまた、遠くに行くことになったよ。だからさ、今まで書き溜めたやつ。プレゼント」


全て二次創作だ。

ただ、少女がざっと読む限り。


本当に二次創作と呼べるのか、疑わしかった。

そう見えない。

あまりにも、わざとらしい表現がない。


「本当に、アニメのキャラクターに会って、書いたみたいな感じがする」


と少女が言うと、


「そういうこともあるかもね」


と少年。

肩をすくめる。


「もう、ここへは来ないの?」


と少女。


「また来るよ。ただ、余計に知識が入用になっただけ。ところで、鳳凰の飾りだけれど」


と少年が言う。


「赤い羽根の飾り。なんでなくなったか、分かったよ」


ふいに、ラジオの電波。

湾から出た、船の事故らしい。


「一隻爆発―――――」


そう伝えている。


「ええと、なんで?」


片手間に、少女は訊いた。


「僕が、取ったから」


そう言う少年の服の裾は、血で濡れている。


「生存者は少年一名―――――」


とラジオ。

     

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