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ミステリショートショートシリーズ

飛び立つ鳥へ、まずキスを

こう、散々書いてみてはいるけれど。

上手くいったなあと、思った試しがない。


男の子とやりとりしているのは、何日くらいになるのだろう。

何でも、


「小説を書いてみようよ」


という話だ。


いきなりやって来て、そんな話を持ち掛けられた。

彼は書くのは、文学ではなく。

二次創作のジャンルが好きだという。


実際の、好きな方面は違うらしい。

歴史の話が、特に多い。


「最近はね、チャリング・クープマンスっていう人の名前を憶えたの」


と男の子が言ってきたのは、昨日。

大体いつも夕方頃にやって来て、時間にして、十分か十五分くらい居て。

去って行く。

下校途中に、ここへ寄るのかな。


名前は聞いたことがない。

ちなみに、私にも名前はない。


いつから、なかったか。

本当はあったかもしれないが、唯一ちゃんとある脳みそから、その記憶が消えてしまっている。







湾岸線。

船着き場のある港が近く。


増える輪ゴム?

どうでもいいものばかりが、積み重なった工事現場。


少女の居場所はそこだった。

長年使った肢体は、そこそこ綺麗な状態ではあるものの。

経年劣化は否めない。


「ねえ、人を殺したことはある?」


それが、少年の口から出た。

最初の質問だった。


「髪が黄色いから、そうだね。天津って呼ぼう」


これまでも何とか、いろいろな名前で呼ばれたことはあったと。

少女の脳には、記憶が残っている。


ただ型番のせいなのか、本来留まるはずのデータとしての記憶が、残りにくくなっている。

それも、経年劣化のせいか?


芸術マネジメント配属であった少女。

文化系の型番UP3109にとって、殺しというのは縁遠いものだった。


ただ、その芸術マネジメント方面で人間の役に大いに立ったと思ったら、いつの間にかスラムに居た。

何年目になるだろうか。







京浜東北線。

鳳凰の飾り。

上海譲りの天津飯の、美味しい通りがある。


工事現場近くで目立つものと挙げるとするなら、こんなところだろうか。


「人を殺したことはないけれど」


と型番UP3109、あだ名は天津になった、は言った。


「それで小説のネタになるの?」


「まあ、ならないね。だってさ、大して面白くもない」


少年は肩をすくめる。


「僕は二次創作が好きかな」


「実際。確かに、ご執心な人は居るわね」


「じゃあ、この場所では七不思議とかない? そういう話が面白いんじゃない?」


「そうねえ、あなたが来たことが私にとっては、第一に不思議かな」







そうして少年が来てから天津―UP3109―に、不思議に思えることが増えたのも事実である。

スラムと、上海譲りの天津飯が美味しい通り。

その繁盛している通りを隔てる、鳳凰の飾り。


その赤い羽根がなくなったり、また出たりすること。


工事現場の輪ゴムの数が、頻繁に変わる。

これは、少年が犯人かもしれないと判断しても、おかしくはなさそうだが。


それから、血の痕だ。

最近雨が多いからか。

それとも、頸部、脚部など?

自分からのオイル漏れで、か。







少女自身の七不思議に思う点なら、他にもあった。

自分のような型番UP、いやそれ以外のアンドロイドも、大量に出ては消える現象。


一応、日本の中の独立した国という位置づけの、とある街の、その一角の工事現場。


「鳳凰の件はあんまり。七不思議に思えないけれど、実際に行ったりするのが早いね」


ということで、少年と手に手をとって出掛けるようになって。

たぶん数十日目というところか。


それから少しおしゃべりをして、小説を書いて、短い彼の滞在時間の間に小説を渡す。

何でも彼はそこらを放浪しているとかで、少女の書いた小説もその間に。

いろんな人に配ったりするのだとか。


出掛ける場所は、鳳凰近くが多くなった。

赤い羽根がないネタ。

鳥に関する題材、ジャンルが自然、頻繁に。

増える。


一応の国際都市。

空港も目立つ。港も近い。

その辺に、鳥が集まる機会も多い。







人殺しは、そういう部署の担当になっていない限り。

秩序的にも、行うことが難しい。


そういう縛りが、経年劣化を日に日に感じている、天津―文化系UP3109―の脳にも。

スラムに来た今も、残っている。


ただ、血の痕くらいはあまり、珍しくもない。

船着き場での、魚の匂いに照らせば。







少年はいつしか、大量の紙を抱えてやって来た。


天津とあだ名がついて、方々出歩くようになり。

工事現場に寄り着かない人とも、視線を交わすくらいになったある日。


その日は、書くどころではなかった。

読むのに忙しい。


「これからまた、遠くに行くことになったよ。だからさ、今まで書き溜めたやつ。プレゼント」


全て二次創作だ。

ただ、少女がざっと読む限り。


本当に二次創作と呼べるのか、疑わしかった。

そう見えない。

あまりにも、わざとらしい表現がない。


「本当に、アニメのキャラクターに会って、書いたみたいな感じがする」


と少女が言うと、


「そういうこともあるかもね」


と少年。

肩をすくめる。


「もう、ここへは来ないの?」


と少女。


「また来るよ。ただ、余計に知識が入用になっただけ。ところで、鳳凰の飾りだけれど」


と少年が言う。


「赤い羽根の飾り。なんでなくなったか、分かったよ」


ふいに、ラジオの電波。

湾から出た、船の事故らしい。


「一隻爆発―――――」


そう伝えている。


「ええと、なんで?」


片手間に、少女は訊いた。


「僕が、取ったから」


そう言う少年の服の裾は、血で濡れている。


「生存者は少年一名―――――」


とラジオ。

     

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― 新着の感想 ―
僕の頭では内容を理解するのがちょっと難しかったです でも雰囲気は素敵でした 終わり方も衝撃的な感じでどういうこと!?なにがあったの!?ってなったので内容をちゃんと理解できていたらもっと楽しめただろうな…
2025/01/01 16:56 あけましておめでとうマン
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