(元)オネエ淫魔と堕天使は、支配関係に浸りながら生きていく。
以上で完結です。
お付き合いいただきありがとうございました。
明日からはシリーズ四作目の更新が始まります。
もし興味がありましたら、そちらもよろしくお願いします。
では、またお会いしましょう。
アリスと出会って半年──。
エイスにとってこれほど満ち足りた日々は今までなかっただろう。
互いを求め合い、独占する、依存する関係。
自分だけのモノを愛おしみ、慈しめる。
半年前よりも、一ヶ月前よりも、昨日よりも……アリスという存在を失いたくなくなる。
それはとても幸せで……。
「どうしたんです?」
「……ん?」
宿屋のソファに座っていたエイスは、膝によじ登りながら質問してきたアリスの手を取る。
食事をマトモに食べているからか、最初よりもふんわりとした身体。
その頬を撫でながら、エイスは微笑んだ。
「アリスは半年で凄く変わったなぁと」
「うふふっ、そう言ってもらえて嬉しいです」
本来なら早々に箱庭に戻っても良かったのだが……アリスはずっと閉鎖した世界で生きてきた。
世界を見て回ってからでも遅くないと判断したからこそ、二人はそんな風にゆっくりと世界を見ながら暮らしてきた。
とても幸せで、楽しい半年だった。
まだ、半年。
だけど、半年。
そろそろ……ずっと後回しにしていた問題に向き合わなければならない。
アリスはエイスの肩に顎を乗せながら、ゆったりとした声で話し始めた。
「…………そういえば……ハイドラ王国という国で、とある少女を探しているそうなのです」
「…………ふぅん?」
「なんでも、その少女がいなくなってから……その国を拠点していた上位冒険者パーティーがいなくなって。魔物達に国が襲われて、大混乱!加えて、天候不良が起きて大飢饉……タイミング的に、少女がいなくなってからそういうことが起き始めたから、少女がいたからこの国が安泰だったのかと思い始めたらしく……彼女を探してるみたいなのです」
「………………」
エイスはそれを聞いてアリスが何を言おうとしているかをなんとなく察する。
つまり……。
「その、ハイドラ王国の奴らが近づいてきてるのか?」
「はいです。それに、上位冒険者パーティー……ううん、アリスを監視していた天使族達も、です」
…………エイスはそれを聞いて息を吐く。
逆によくここまで見つからなかったとも言えるだろう。
「アリスは、どうして欲しい?」
「アリスが望むのはエイスといることです。だから、もう充分なのですよ」
「…………アリス」
「それに、ずーっと時間が経ってからまた世界を旅してもいいのです。なぁんにも、問題ないのです」
アリスは満面の笑顔で答える。
…………エイスは、自分の考えを理解してくれる少女の頭を撫でる。
「なら、全てを捨てて俺と共にラグナ様の箱庭に行こうか」
「はいなのです!」
邪竜の造った箱庭は天使族なんて入れやしない。
人間達に見つかりやしない。
竜の血を覚醒させたエイスは、やろうと思えば天使族も人間達も滅ぼすことができるだろう。
しかし、そんな時間があるならアリスと共にいたい。
余計なことに時間を割きたくない。
だから、エイスはアリスと一緒にいるために邪竜の箱庭に帰ることにしたのだ。
「じゃあ、行こうか。アリス」
「はいです!エイス、ずーっと一緒ですよ!」
「あぁ。ずーっと……一緒だ」
アリスを抱き上げて、エイスは微笑む。
アリスも微笑む。
こうして、二人は……闇に消えていく。
二人でいる時間が減るくらいなら、全ての問題を無視する。
全てを捨てて、二人だけでいれる時間を増やす。
自分だけのモノを支配したい元オネエ淫魔と、誰かに求められて支配されたい堕天使の少女は……支配関係に浸りながら。
こうして、更に依存しあうための世界へと、共に旅立っていった──……。