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(元)オネエ淫魔と堕天使と、毒という名の狂気(2)

 





(あぁ……あぁっ……!エイス……とっても、とーっても可愛い人ですね……♡)



 エイダの欲と記憶を消し、睡眠毒で姉を眠りにつかせた彼を見て……アリスは心の中でほくそ笑む。





 《全知》を持つアリスにとって、エイダの性質も、エイスの性質も、こうなる未来も全てが分かっていた。

 エイダが、エイスにバレないように監視魔法を使っていることも。

 ジャンだけでは満足できなくなって、数十人に及ぶ青年を拉致して、自分好みに調教しているのも。

 真実を隠しているのも、全部知っていた。

 どう行動すれば、この光景になるかも分かっていた。


 竜というのは異常だ。

 だから、竜というモノはその強い力に比例して、何かしら狂っているモノなのだ。

 だから、双子も狂っていた。

 狂ってる本人は自覚していない。

 けれど、アリスは分かっていたのだ。



 支配欲、所有欲、独占欲。



 双子の性質は、まるっきり同じだということを。

 違うのはある一点のみ。



 エイスはただ一人を支配したくて、エイダは沢山の人を支配したかった。


 エイスはただ一人に愛されたくて、エイダは沢山の人に愛されたかった。



 だから、エイスはアリスに執着した。

 だから、エイダは自分の弟を支配したくて。

 それだけじゃ足りないから、あの元騎士候補生ジャン……ジャン以外の青年達も含めて、彼女は自分を愛するように調教した。


 もし、彼がエイダと同じように沢山の者達を支配したがっていたら。

 この結末にはならなかっただろう。


(うふふっ、ごめんなさいです。エイス)


 アリスは心の中で謝罪する。

 先に知らないと傷つくことがあるかもしれないと言っておきながら……一番エイスが傷つくだろう真実を隠した。

 エイスには、自分の姉の本当の姿を見て欲しかったから、隠した。

 アリスが告げることじゃないと、思っていたから。

 他人の言葉で……自分の片割れの本当の姿を知るなんて、受け入れられないモノだから。



 …………なんて、建前を繕っても、その本心は違う。



 アリスは……エイスに心の底から傷ついて欲しかったのだ。



 エイスを更に傷つけるために、真実を隠した。


 傷ついて悲しんで欲しいから。

 傷つくことで、姉に裏切られることで……エイスの心の均衡(拠り所)が、崩れ落ちて。

 アリスという存在への執着心が高まると分かっていたから。

 その絶望の中に、自分が側にいることで……更に自分に依存して欲しいから。

 アリスはその可愛らしい顔の下に、醜い欲望を隠しながら……悲しみを浮かべる。


「…………エイス……ごめんなさい、です……」

「…………アリス……?」


 急に謝ったからか、エイスは驚いた顔で少女を見る。


「アリスの所為でエイスが傷ついたのです。アリスが、エイスと会ったから……」

「違うっ!アリスの所為じゃないっ!」


 エイスは慌てて少女を抱き締める。

 離さないように、離れないように。


「アリスの所為じゃない……全部、姉さんが悪いんだ。姉さんが、アリスを殺そうとするから……オレのモノに手を出そうとするから」

「でも……でもでもっ……アリスは、もう……エイスの側にいない方が……」

「駄目だっっ!そんなの、許さないっ!」


 ギリッと音がしそうなほどに強く肩を掴まれる。

 アリスは痛みに顔を歪めながら……彼を見上げる。


「アリスはオレのだろ?なんで離れるんだ?姉さんがいるから?」

「…………ううん、違うのです……アリスが、エイスに毒を使わせたから……エイスの心が、傷ついてるって思って……」

「大丈夫だから、オレは傷ついてないよ。それどころかアリスが離れていく方が、傷つくんだ……止めてくれ。離れるなんて。オレの側からいなくなるなんて……オレ……オレ……」


 狂ったようにアリスの名を呼ぶエイス。

 離れていかないでと懇願するエイス。

 そんな彼を見て、アリスは優越感に心の中で浸る。


(あはっ……!アリスも、これを求めていたのです。アリスを、アリスだけを独占してくれる人を──……)


 誰にも求められず、虐げられてきたアリス。

 アリスは、自分もまた狂っていることを知っている。



 誰かに求めて欲しい。


 支配して欲しい。


 ただ、自分だけを大切にして欲しい。


 そのためならば、他の何を犠牲にしようと……構わない。



(………エイス……きっと、アリスとエイスが出会ったのは運命なのです。でもね?アリスは醜いお化けさんなので。もっともぉ〜っと……貴方に欲しがって欲しいのです)


 アリスはエイスの身体に抱きついて、話す。


「………エイス……アリスも……アリスも、エイスと離れたくないのです……エイス……」

「……………アリス……」


 醜い欲望を隠して、無垢な少女のフリをして。

 思考を犯す言葉()を吐く。


「でも……アリス、まだ天使族達に命を狙われてるから……エイスが傷ついちゃうかもしれないのです……!だから──……」

「…………大丈夫。オレがなんとかするよ」

「そこまでエイスに迷惑はかけれないのです!アリスはエイスに迷惑をかけたくなっ……」

「駄目だっっ!」


 エイスは叫ぶようにして言葉を遮る。


「何があろうとオレがなんとかするから。だから、アリスはオレの側にいるんだよ。ずっと一緒だって言っただろ?裏切るの?アリスまで、オレを見捨てるの?そんなの、許さない。オレから離れるなんて許さない。許さない、許さない、許さない……」

「……………エイス……」

「どうすればアリスは離れていかない?精神を壊せばいい?そうすれば離れるなんて考えつかない?」


 狂気に満ちた瞳。

 狂ったような言葉。

 それを見て……アリスは嬉しさに身体を震わせる。

 そこまで自分に執着してくれるエイスという存在に、愛おしさを感じる。

 本当は離れる気なんて一切ないが……離れるような素振りを見せるだけでここまで狂うなんて。

 まだ出会って少しなのに、これほどまでにアリスに執着するのは……やはり竜特有の異常性だろう。


「アリスが大人だったら、妊娠でもさせて絶対に離れられないようにするのに……あぁ、そうだ。今の内から快楽に溺れさせれば良い?オレ達淫魔はそうやって人を堕落させて……トリコにしていくんだから。そうすれば、アリスはオレから離れられなくなるよな?」


 竜の血を引いていても、エイスは淫魔として生きてきたからか、そんな淫魔らしい考えに至る。

 それを聞いて、アリスは微笑んだ。


(…………うふふっ♡自分が持ってる力の全てを使ってまで、アリスを側に置こうとするなら……もう安心安心、大丈夫なのです)


 アリスはエイスが、そこまでして自分を支配しようとするのを見て。

 もうエイスが、自分を絶対に離さないと確信して……彼の手を取り、その甲にキスをした。


「…………エイス……そんなことしなくていいのです」

「…………アリス……?」

「アリスは、そこまでエイスがアリスを離したくないと思ってくれるなら。その思いに報いたいのです」

「……………」


 アリスはエイスに両手を広げて、満面の笑みを浮かべる。


「迷惑をかけるかと思いますが、アリスと一緒にいてくれますか?ずっと、ずぅ〜っと……ね?」

「…………あぁ……あぁ!」


 エイスは、その言葉にポロポロと子供のように涙を零しながらアリスを勢いよく抱き上げる。

 エイスが青年で、アリスが少女。

 しかし、その精神は真逆。

 子供みたいな支配欲を持つエイスを操っているのは、《全知》の力で大人の精神を得たアリスで。

 アリスは、自分の思い通りになってくれたエイスが……可愛くて、可愛くて仕方ない。



 支配したいエイスと、支配されたいアリス。



 しかし……どちらが本当に支配しているのだろうか?



「…………大丈夫……アリスはずぅーっと……オレのモノだよ。離さない……」

「………エイス……アリスのこと、離さないで下さいね?」


 蕩けるような笑顔を浮かべるエイス。

 その瞳に宿る執着ねつに、アリスは嬉し過ぎて泣きそうになる。


「オレの、アリス」




 エイスは優しく少女の頬にキスをした──。






 ◇◇◇◇◇





 優しい光が差し込む部屋──。



 エイダがゆっくりと目を開くと、そこは()()()()()()()()()だった──。


「あれ……?ボク、何してたんでしたっけ?」


 エイダは、エイス達が宿を出た数刻後──。

 誰もいない部屋を見てキョトンとする。

 どうして自分がここにいるか。

 自分が何をしていたか。

 思い出せない。


「ううん?なーんか記憶がポケポケしてるっすねぇ〜……?」


 実際、エイダは弟によって支配欲と記憶……つまり、支配欲に関することと竜の血に関すること、アリスのことを消されている。

 竜の血を引くという自覚がないエイダは、ただの淫魔と同じだった。


「うーん……まぁ、分からないっすけど、お腹空いたっす!ちょっと男漁りでも行くっすかね!」


 支配欲に関する記憶をなくした彼女は、支配欲を満たすために調教した青年ジャン達の記憶も失くしている。

 だから、これ以上……彼女によって、消え去る青年達はいなくなることだろう。



「美味しそうな奴、いないっすかねぇ〜?」





 エイダは楽しそうに笑いながら、闇に溶けて消え去った──………。







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