余熱
「レオナ・ベガ です。よろしくお願いします」
クラス中がざわつく。
彼女が可愛いということもあるが、この短い期間に2人の転校生が来るということも相まってコソコソ話が目立つ。
俺の隣の席のシャーロットも 「珍しい事もあるんだね」と苦笑い。
「はい! 今日からレオナさんが編入することになりました。皆〜、仲良くしてあげてね!」
そんな空気お構いなしにシェリー先生が明るくそう言う。
小柄ではあるが、自席へと向かう彼女の堂々とした立ち振る舞いと、美しい長い髪の毛に皆目を奪われる。
かく言う俺も自然に彼女を目で追う……つもりはないのだが、彼女がグングンと俺に近付いてくる。
「え?」
俺の前でピタッと止まり、大きな瞳を閉じて微笑む。
「イブ様、今日からよろしくお願いします」
クラス中から、悲鳴に近いような叫び声と 男達の怨念のこもった驚きの声が聞こえる。
おいおい……。
その様子を見たレオナは 「また後で」と言い、座席へと戻った。
ホームルームが終わり、クラスの生徒達の押し問答を掻い潜り、レオナの手を引いて逃げるように廊下に出る。
初めてアリアと話した螺旋階段の下へと到着し、あの時とは逆の問い詰める側として、レオナの背中の壁に手を置く。
「ちょっと君。どういうつもりなのかな?」
「あ…… イブ様」
「ん?」
「ちょっと……近い……かもです」
彼女の頬は赤みがかり、俺から目線を逸らす。
やりづらいな……
「ごめんごめん。前に似たようなことがあってさ」
そう言い、俺は壁から手を離し普通に彼女と会話をする。
「朝の挨拶は何だったのかな? お陰で朝から注目の的なんだけど」
「あ、申し訳ございません。イブ様に挨拶をと思い」
「挨拶は、ホームルームが終わった後でも良かっただろ」
レオナはしゅんとなり、「申し訳ございません」と謝る。
「名前も様じゃなくて普通に呼んでくれ」
「はい。では何とお呼びすれば」
「普通にイブでいいよ。呼び捨てで呼びづらかったら君でもいいけど」
「は、はい! 承知しました。イブ……くん」
レオナの顔がもっと赤くなる。
あんなに堂々としていた癖にすごいシャイなのね。
彼女は別に俺に悪戯をしたかったわけでも、周りに注目してもらおうとしたわけではないんだろうな。
「話し方は周りと統一してね」
「はい。承知しました」
ひとまずこれで良いとして、後は周りの誤解をどう解こうか。
妹? いや、苗字が違うし、双子にしたら顔が似てないしな。
似てるのは身ち……ごほんごほん。
っていうか、その辺の設定とかは事前にアレフ校長が決めてくれたりしないもんなのかね。まさかの丸投げは荷が重いぞ。
「イブさ……くん」
レオナは目を瞑り考え込む俺を心配そうに、申し訳なさそうな顔で見つめる。
「ああ、いや俺とレオナの設定をどうしようか考え」
話途中の俺の口をレオナが慌てて塞ぐ。
「失礼します。通行人……ですが、気配消しを使用して近付いてきてます」
気配消し!?
抑魔結晶をつけているとは言え、俺の魔力感知にはまだ反応はない。
そう言えばアレフ校長が、もしもの時を考えて、彼女には抑魔結晶を付けさせないとか言ってたっけ。
「おそらくこの学校の生徒だと思うのですが、聞かれない方がいいと思いまして」
そう話すレオナの手をポンポンと2回たたく。
息ができない……
レオナは慌てて俺の口から手を離す。
彼女は再度頬を赤らめ
「もももも申し訳ございません!緊急だったもので」
「大丈夫大丈」
笑いながら彼女の方に視線を移すと、美少女が2人に増えていた。
「あ、アリア……や、やっほー」
空気が凍りついたような……
アリアは俺からプイッと顔を逸らし、レオナの方を向く。
「アリアさんって言うんですか? 何故わざわざ気配消しを?」
レオナは冷静にそう聞く。
「別に、クラスで一躍話題のお熱いお二人が相引きするのが見えたから何してるんだろ〜くらいのテンションで見にきただけだけど?」
どこか怒ったような声でそう話すアリア。
苦手なんだよなこの空気。
「そうだったのですね。大丈夫ですよ。私とイブさ…君はただの……ただの…」
ん?ただの?
「ただの?」
俺の心の声とアリアの返答が重なる。
レオナは慌ててこちらにきて、俺の耳元で 「設定どうしましょう」と言った。
うおーーーい!バレバレだよ。アリアの顔がどんどん怖くなるよー!
汗をかきながら、場を和ませようと言う一心で、「生き別れの妹ですって可愛く言って」とレオナに耳打ち。
レオナは親指を立て、ぐっとポーズ。何もぐっとじゃ無いんだけどね……。
「ごほんっ。生き別れの」
「いいわ。聞こえてたし」
もっと空気悪くなっちゃったじゃん。
耐えきれず俺は間に入ることを決意する。
「アリア、レオナは俺が昔行った街で会った子で、その時に偶然彼女を助けたらしくてさ」
「へぇ。それで何で 様 なんて呼ばれてるのよ」
「結構ギリギリの状況だったらしくて」
無比を知っている彼女ならこれで戦争を連想してくれるのではないかと言う淡い期待を込め、そう話す。
アリアは俺の目をジーーッと見つめ、軽くため息をつき、「そうなのね」と言った。
アリアも黙ったことで、3人とも黙ると言う気まず過ぎる状況になってしまった。
「アリアさん。私とイブ君はまだただのクラスメイトです」
ん?まだ?
「アリアさんの考えているような恋仲ではありませんよ」
レオナは真剣な顔でそう答える。
「ちょっっ、別にそんなこと考えてないけど……
て言うかまだって何よ! まだって」
「恐らくアリアさんと同じ 感情 かと」
「だから! 同じって何よ!!」
これはびっくり。瞬く間に立場が入れ替わった。
今度はアリアの顔が真っ赤になる。
「2人とももうそろそろ授業始まるから帰ろう」
「はい!」 「わかってるわよ!」
2人の声が被る。
タイプは違うけどこの2人仲良くなれそうだな。
予鈴の音とともに3人で教室へと向かった。