ラースの森特別演習⑦
アリア視点です!
むかつくむかつくむかつく―――
泣き跡を洗い流すために川まで歩いてきた私は、膝をつき顔を軽く洗う。
すっかり泣き虫になっちゃったな。
昔から、多少の嫌な事程度では泣かなかったのだが、1ヶ月前のお父さんとお母さんの件から、直ぐに涙腺が緩んでしまう様になってしまった。
今回のことも、客観的に見たら、私のしている行為って言うのは稚拙極まり無いけど、私にだって出来る事はあるでしょ。何も、全てを話せって言ってる訳じゃないし、何かあった時に助けてあげれるくらいの情報くらいくれても良いじゃない。
私の時は、ズカズカと入って来たくせに。
深く深呼吸をした後、班に戻ることを決断する。
魔力感知的にあいつが責任を感じて、一晩警戒要員として残っているんでしょうね。流石に少し話をしよう。
私がその場に立とうとした時―――
ブーーーーーーーーーーーー
緊急時にしかならないはずの緊急ブザーが辺りに響き鳴った。
何……これ
演習中止ーーー 演習中止ーーー!! 直ぐに近くのオースティン関係者の元へ集合せよーー
と、続いてアナウンスが入る。
私の今いる場所から、皆んなの所までは魔法を使えば、10秒ほど、私は直ぐに魔法を展開しようとするが……
バキッ バキキキキ
私の後方の木が激しくこちらに向かって倒れてくる。
木を倒しているであろう主は迷わずこちらへと向かって来た。
狙いは私か……
2秒足らずで音の主が姿を見せる。
「あれぇー? 無比って少年兵って聞いてたけどー? まさかの女パターン??」
長い黒髪にがっしりとした体。魔素は今まで見た魔法使いの誰よりも強大で、禍々しい。
「あんた、なんの話をしてるの? 私になんか用?」
「おぉー。嬢ちゃん気が強いねぇー。嬢ちゃん、名前は?」
ヘラヘラととぼけた様な問答に少し気が抜ける。
「なんであんたなんかに話さなきゃいけないのよ」
「はぁーー。多分ハズレだなこりゃ。マスターも人が悪いなぁ」
いまいち何を言っているのかは分からないが、こいつは人を探してここに来たの??
「誰かお探しなのかしら?」
「あん? だから無比だって、むぅぅひぃぃ」
「無比って、何年前かの戦争の? 戦死って話を聞いたことがあるけど」
その大男はきょとんとなったかと思えば、直ぐにがははと笑い始める。
「無比が戦死だって? バカいっちゃいけねえなあお嬢ちゃん。死霊魔法使いを殺した魔法使いを、誰が殺せるんだよ。殺せないから無比なんだぜぇー?」
「まっ、絵空事は勝手にしたらいいと思うけど。私に用がないならもういっていいかしら?」
大男は少し考えたが、直ぐに決断を告げる。
「いーや。ダメだな。嬢ちゃんがピンチだと思えば、無比は必ずやってくる。俺が嬢ちゃんのところへ来た理由は、1番魔素がでかいからなんだぜぇー。つまりあいつは正体を隠しているんだ」
「正体を隠している……?」
「あぁ、多分なぁー。自分の都合で、誰かがピンチの時に来ないヒーローがどこにいるんだよ。あいつ絶対に来るぜぇー」
すると、私の魔力感知に、莫大な魔素を纏った何かが、突然現れたかの様に湧いて来た。
「ほぉらぁなーー! きただろぉー!!」
「転移魔法!?」
「いーや、違うなあ。抑魔結晶だろうなぁー。この森にいることは、うちのマスター曰く確実だぜぇー」
頭の中がこんがらがる。抑魔結晶? いるのは確実? 心当たりは1人しかいない。
目の前の大男に視線をずらす。
この男の魔素はかなりなもので、今さっき発生した魔素よりも恐らく大きい。
「何か協力できるかもしれないでしょ!」
自分の言った言葉が脳裏によぎる。
考える前に体が動いていた。
「贈り物!!」
「あん?」
大男はこちらに振り返るが、私の魔法の方が早い!!
倒すことは無理でも、せめて少しでも消耗させれれば……
私の固有魔法 贈り物 の影響で、あたりの魔素が私を包み、私の魔素へと凝縮する。
「森羅万象!!」
地形を利用した魔法、森羅万象。
巨大化した根っこが、大男へと襲いかかる。
どごぉーーーーーーん!!
轟音と共に、土煙が舞う。
「おーーおーー。活気盛んだねぇー」
なっっ
あいつを踏み潰したはずの根っこは、丁度人一人分サイズの穴が空いており、大男には傷一つ付いていない。
「なんでっっ」
「切り取ったんだよ。ところで嬢ちゃん……今のは攻撃ってことでいいのかなぁー?」
大男は地面を蹴り上げ、一瞬で私との距離を詰める。慌てて、親指で空をなぞり魔法を発動させようとするが、
「ごふっっ」
大男の右の拳が私の腹をえぐる。
一瞬、意識が飛ぶほどの凄まじい威力。息もできない。
「やっべぇー。力入れすぎちった。大丈夫かぁー?嬢ちゃ」
空から激しい雷が、大男を包む。
薄れゆく、意識の中、誰かが私を抱き上げる。
お腹が暖かい。
みるみると痛みが引いてゆく。意識も同時に遠ざかる。
顔は見えないけど、誰かは分かる。
私は掠れた声で、
「遅いのよ……ばかっっ」
と言うと、そいつは泣きそうな声で
「ごめんな」
と言い、転移魔法を唱える。
光が、私を包み込み、体がふわっと浮くのがわかった。
絶対勝ちなさいよ!イブ!!
心の中でエールを叫び、安心で完全に意識を失った。