ラースの森特別演習④
一夜が明け、暗かった森に光が差し込む。
朝の4時10分に俺は目を覚まし、顔を洗いに川へと向かっていた。
天幕とはいえ、わりとゆっくり寝れた気がする。
炊事場はあるのだが、起床予定時刻まで1時間近くある為、散歩を兼ね備えてるといったところだ。
川へと着いた俺は顔を洗い、格納魔法からタオルを取り出して顔を拭く。
今日からの班行動では、森のさらに奥地へと入っていく為、現在の拠点は完全に撤去して向かうこととなっている。
ラースの森特別演習は、軍との連携による演習なので、この森にも何人かの軍魔法使いが配置されている。
彼らは俺たちに悟られない様、各配置で透明化の魔法を使って隠れているのだが、透明化魔法が使われている場所には、空気中にすむオーブや魔素が寄り付かないので、ある程度可視化できる人間には効果はないのだが、見守られているというのは変わらない為、かなり安全と言えるだろう。
そんな事を思いながら空を見上げていると、起床時間10分前となったので、慌てて拠点へと戻る。
拠点へと戻ると、既に何名かの生徒は起きていた様で、天幕の外へと出て来ていた。表情は強張ってる。
男子天幕の近くへと戻ると、同じ班でもあるミハが、絵に描いたような緊張面で右手と右足を同時に出して歩いていた。
そんなベタな……
俺はたまらず
「緊張するの早いし、しすぎだし」
と声をかけると
「ひゃう!!」
という情けない声と共にミハの背筋がビクッとなる。
「イブ君かぁ……脅かさないでよぉ」
「右手と右足同時に出てたぞ」
「それくらい緊張するよ……今日からは6人だよ! 6人! 何かあったら自分たちで対処しなきゃいけないし」
「6人もいれば十分だろー、なんとかなるさ」
「なんとかって……」
と、 先生が
「5時ですー。みなさん起床してください」
と、起床コールが入る。
「行こう」
と言いミハと共に残りの男子を起こしに行く。
全員の起床が確認された後、天幕の撤収に、ゴミの回収を終え、再度、セルーニョ先生の元へと整列をし、事後の指示を仰ぐ。
「では、これより各班の拠点を発表していきます。発表された班の代表者はこちらに進路指示結晶があるので取りに来てください」
セルーニョ先生は、淡々と各班の拠点を発表していき、俺たちの代表者アリアが進路指示結晶を受け取る。
戻って来たアリアの後ろに整列をしている俺は、後ろから進路指示結晶を覗き込む。
アリアの耳元で、「北か」と呟くと
「びっくりするわね!! 見せてって事前に言いなさいよ!」
アリアは耳を押さえながら慌てて俺から離れる。
そんなびっくりするかね……
「ごめんごめん」
適当に謝る俺に、顔を赤らめ フシャーー 体格の音が聞こえそうなくらい威嚇をするアリア。
すかさず先生から
「1班。まだ話している最中なので騒がないでくださいね」
と、注意を受けてしまった。
「現在10時なので、これより班行動を開始します。終了時にはリーダーへと結晶を用いて指示を出します。緊急時にも各リーダーは結晶で連絡をするようお願いします。他に質問なければ、リーダー引率の元拠点へと移動してください」
特に質問をする生徒はいなかったので、自動的に第1班の俺たちから、前へと進んでいく。
俺たちの拠点は、ここから直線距離にして1000メートル、入り口からだと、1番奥地の拠点となった。
昨日までと打って変わり、緊張感のある移動で、班員達も一言も喋らずアリアの背中を追っていく。俺とアリア以外、魔力感知魔法を使えない(教わっていない)為、皆からして見れば今この瞬間に、魔獣に襲われても不思議じゃないのだ。
すると、その空気を変えるべく
「皆んな! 大丈夫だよ!! 私たちの班はアリアさんもいるし、先生だって近くにいてくれるんだし!!」
ミハは相変わらずビクッとなっていたが、アリスとミーシャは確かにといった表情で笑っていた。
場の空気が一変し、そこから皆んなでたわいもない話に火をつけていった。
15分ほど進むと、ようやく進路指示結晶が光る。木に囲まれた空き地、拠点とはいっても、要はここで寝泊まりしてくださいってだけで、支給品が用意されているとかではない。
「よし、それじゃあ早めにやることやってしまいましょ」
アリアが指揮をとる。
「ミハ君とシャーロットさんはみんなが座るための椅子の用意と薪の準備。アリスとミーシャは、この近くで木の実か山菜をできるだけ集めて、私と彼で魚でも持って来るわ」
「はーい!」
俺以外の4人が元気よく返事をする。全然納得行ってないぞといった表情の俺を無視してアリアが続ける
「皆んなの魔素は把握しているから、不確定要素が発生した場合直ぐに行くから信じて耐えて。アリスとミーシャはあまり遠くに行かない事、じゃあ皆んなよろしく」
各々が割り振られた仕事へと取り組んでいく。
「私たちも行きましょ」
飄々とした表情で奥へと進んでいくアリア。
役割分担に関してはリーダーの意見が絶対な為、アリアがリーダーの時点で文句は言えない。それでもどちらかを拠点に置いておくのが道理じゃないんですかねえ……なんて事を考えながら渋々、アリアの後についていく。
「ねぇ、この辺の川ってそもそも魚とかいるのかしら」
「いるにはいるんじゃない?でっけえのは分かんないけど……もういっそその辺の魔獣でも持って帰ろうぜー。その方が簡単そうだし」
「それ食べるの……?」
「焼けばうまいよ?」
「結構ワイルドなのねあなた」
すると、目の前に水源地が見え始め、その奥には洞窟が見える。
「あの中からの水っぽいし、魚とかいるかもよ」
「そうね。行ってみましょ」
俺達は、暗視魔法を使いながら洞窟の奥地を目標に歩き出す。