2-12 魂裁
「いいだろう。男に二言は無い」
その言葉は一分前の言葉よりもずっと重みがあり、それと共に信頼みがあった。
「ですが数が明らかに多すぎます。どこからこんなに出ているのかは謎ですが、本当にこれを一人で、ですか?」
狼の数は見るだけでも十匹を超え、最初の木の門で見た狼の数よりも明らかに増えている。
一体発生源はどこから来ているのかは分からないし、そのままだと埒が明かない。
「ああ、俺も少しばかり疑問を感じていてな」
ハルトは大剣を両手で持つと地面にその大剣を突き刺し、そこから光が出てくる。
「なぜ、狼の数が先程より増えているのか」
光はやがて地面に広がり俺とハルトを囲んでいる狼の大群の周りをさらに囲んだ。
「なぜ、狼は一つの方向からしか来ないのか」
今度は光がどんどん上に上がり、天井ができる。
もう内側からは出られない常態だ。
「そして最後に、なぜ、」
出来上がった光の檻とも言えるこの空間で光がさらに明るさを増し、暗い森の中なのにも関わらず草原の真昼のような明るさになった。
「なぜ、さっきから狼は戦ってもいないのに傷がついてるのかーーー『魂裁』」
その瞬間、光は明るさは最大限にまで達し、明るすぎて目の前でなにが起こっているのかわからなくなった。
だがやがて光の檻が消え、光の明るさが収まってようやく周りを見回せるようになると、そこには今まで俺とハルトを囲んでいた狼たちが全員、倒れていた。
いや、倒れていない。
もう狼たちは全部、死んでいた。
「な………!?」
数秒で情報量が尋常でないほど入ってきてつい混乱してしまう。
「こ、これ全てハルトさんがやったのですか!?」
その答えはもうわかりきっていたが、それでも念のためハルトに聞いてみる。
「ああ、俺が全て殺した。ま、本当は賭けだったけどな」
「賭け……?」
今までのことに賭け要素なんてあったか……?
素人から見ればただただ狼たちを光で包んで確実に殺したように見えたのだけど……。
「俺がさっき打ったのは『魂裁』といってだな、普段は『不死人』とか『奇動物』どかいう再生能力が高い敵に打つ技で、それ以外に打ってしまうと逆に体力を上げてしまいデメリット、つまり相手にとってメリットになってしまうんだ」
ほら、お前ももう立てるだろ、とハルト。
確かに光の檻の中にいる前といたあとで体の重さが格段に違っていた。
俺は手に力を入れてその場で立つ。
「では、逆に再生能力が高い敵に打つとどうなるのですか?」
そして一番気になっていた質問をぶっかけてみる。
「その場合は相手の魂だけを消してそれ以降二度と復活ができない体質へと変化させる。つまり、この技は魂を二つ持っていたり、一度死んでから蘇った奴らを裁き、二度とその過ちを繰り返さないように作られた正義の技だな」
ハルトは自慢げに説明した。
いや、だけどこの技は自慢げに説明するのも全然納得ができる。
相手の魂を消す、つまりはゲームでいう、『不死特攻』ってやつか。
だけどやっぱりどこが賭けだったのかがわからない……。
「へえ、便利な技ですね……。それで、それのどこが賭けだっのですか?」
俺は一応ハルトにごまをすっときながら質問してみる。
「そういや、その説明がまだだったな。えー……どこから説明すればいいか……」
ハルトは大剣をしまいながら首をかしげた。
「ジロー、お前は狼をひと目見て一回蘇生された物と見分けることができるか?」
今度はハルトが俺に問いかけてくる。
「え?それはなにか蘇生された印があれば見分けられそうですけど……」
「それが無いんだ。その上で考えてみろ」
「……無理です」
そんなの素人では無理ゲーすぎるだろ。
「そうだろう?だから初めは狼が蘇生されたものとは気づかなかったから『魂裁』を使う気はまんざら無かった。だが、あいつらは最初から傷を負っていたんだ。それも、あいつらの急所である頭に、人間でしかできない技術の傷のつけ方で」
「……!それは傷がついて死んだ後に誰かに蘇生されたから……」
「そういうことだ。ものわかりが良いな」
なるほど。もし狼たちが一度も蘇生されていなければ強化されて戦況は変わっていた。そこが賭けだったのか。
にしても周りの情報だけでそんな最適解を出せるなんて何者なんだ?
まあそんな事はどうでもいいか。
「これで数は大分減っただろう。もう少しでこの依頼も終わりを迎えるぞ」
風が強く吹く。それは少しだけ寒くて、それでいて自分を押しているようにも感じれた。
「そうですね。共に頑張りましょう」
俺は一度深呼吸し、歩みを始める。
今回はハルトが先に歩いてなかったので、俺が前に立つ。
目的地は狼がさっきからずっと来ている森の奥。
ここからでは暗くて上手く見えないが、先に進めば狼が蘇生されていた原因がわかるはずだ。
「ーーーたとえ苦の極地に立とうが最後には制覇して王手を打つ。それが喜の極地への唯一の行き方ーーー」
歩いてる途中、ハルトが一人ながらに呟いた。
「俺の爺さんが言ってた言葉だ。将棋が上手くて、話には将棋の言葉がよく使われていたんだ。だが、『王手』の言葉を使ったのはこの言葉だけだった」
俺は将棋に関してはあまり詳しくない。
前に上司と会社の押入れで見つけて試しにやってみたら無事ボコボコにされて以来、やろうとも思っていない。
「当時の俺は思ったさ。苦と喜はあるのに、なぜ怒と哀は無いのか。普通なら別の疑問を抱くんだろう。おかしいだろ?」
確かに、なぜ将棋の言葉で表すのかどかもっと質問があるはずだな。
「おかしくはありませんよ。別の観点から見れてるのでむしろ良いかと」
森は進むにつれ道が狭くなっていると思いきやかなり歩きやすかった。
なんだか、人間が通るのを先に知っていたかのような道だ。
「お世辞ならいらないぞ?……やがて俺は爺さんにそのことを尋ねた。その時、爺さんはなんて言ったと思う?」
そんなこと急に聞かれてもわからない。
怒と哀……どちらも良い言葉とは言えないな。
そんなこと言ったら苦も同じか。
「……なんて言ったのですか?」
ハルトは顔についた血や泥を手で拭きながら言った。
「ーーー怒の哀を感じる時は詰んだ時だけだーーーだってさ。訳がわからないさ。怒と哀も苦よりかは楽だろう?」
詰み。
確か将棋では逆転のしようが無い状況、だっけな?
「……ですが、私は怒る時は目的地が見えなくなりますし、哀しい時は目的地を見疑ってしまいます。『詰み』とは喜がどこにあるかわからないことではないのですか?」
ふと思ったことを無意識に口に出す。
なんだか、この事は絶対伝えたかった気がした。
「そうか……フッ、そんな考え方もあるのだな。ありがとう。また、前へ進む意味を見つけれたよ」
褒められた。俺は深く考えていなかったのだけど、あちらからはかなり深く見られていたそうだ。
ま、あちらがいいならいいか。
さて、少し進んだが前には何も無い……ん?一つだけ建物っぽいのが……。
「ハルトさん、先に何かありますよ。もう少しで着きそうです」
「わかった。警戒しながら進んでいこう」
先の何かに近づいていく。
それは一つの小さい民家だった。
「民家、ですね。村の住民は全員避難しているそうなので多分誰もいないと思いますが」
誰かいますかー?と民家に向かって声を出してみる。
「………い」
……いまなにか人がいた?
もう一度大声を出してみる。
「……はーい……」
「どうやら、中に誰かいるらしいな」
ハルトも中に人がいることに気づいていた。
「避難できなかった人だとしたら救出しなければ、ですね。中に上がりましょう」
ハルトにそう言い中に入る。
中には一人の中年の男がいた。
殺気は感じれない。
「……大丈夫か?」
ハルトは男に話しかけた。
男がなにも話さずハルトにしがみつく。
「……そうか、疲れているんだな。もう大丈夫だ。安心しろ」
男一人の救出。
この行動が後の戦況に大きく影響することを、当時の俺達はまだ知るよしもなかった。




