2-5 『鋼鉄の牙』
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時は今に戻る。
武蔵は最初の威勢こそ心強かったものの、巨大な狼に苦戦を強いられている。
「(くそっ!いったいどうすればこいつを倒せる!?『連斬撃』は一つひとつの威力が低く通じないし、だけど今の俺には『連斬撃』しか打てねえ!ん?待てよ……)」
巨大な狼の攻撃を防いでいるばかりの武蔵がなにかに閃いた。
「ないなら自分で創ればいいのか!」
そう言っている間にも攻撃は続く。
それを防ぎつつも、武蔵は刀に力を込めた。
「クソっ!創ればいいといったものの、今はこいつをどうにかしねえといけねえじゃねえか!」
巨大な狼を倒すには新しい技を創る必要があり、その新しい技を創るには巨大な狼をひるませて隙を作る必要がある。
「(誰か、もう一人でも来てくれれば……)」
武蔵がそう思った瞬間だった。
刀に力を込めすぎて、巨大な狼の爪の攻撃を反応するのに少し時間がかかってしまった。
その瞬間が命取り。
「(あ、やばい……終わっ……)」
その爪がムサシに当たるーーー直前に、一匹の狐が、天狐が、その攻撃を跳ね返していた。
「ふう……危機一髪、だったな」
「は……?」
急に現れた二足歩行の人語を喋る狐に、武蔵は混乱してしまった。
「おっと、そういや説明がまだだったな」
すまないすまない、と天狐。
「我の名は天狐。ミナ殿の従魔で、お主と共にこの狼を討伐しろとの命令だったのだが、その狼は此奴で合ってるな?」
天狐は巨大な狼を見ながら武蔵に尋ねる。
巨大な狼を普通の『狼』と呼んでる所から、武蔵は天狐がかなりの実力者という事を察した。
「ああ、そうだ。俺達の標的はあのデケェ狼だ」
「承知した。では、先陣を切らせてもらうぞ」
そう言って、天狐は巨大な狼の方へゆっくりと歩いていく。
この時、巨大な狼は感じていた。
天狐の実力を。
そして、巨大な狼は感じることができなかった。
天狐のーーー殺気を。
こちらへとゆっくり歩いてくる殺気ではない恐怖。
そんな恐怖に耐えられなかったのか、巨大な狼は武蔵と戦っていた時よりも更に速く攻撃を仕掛けた。
爪を最大限に使い、天狐の懐に入って腹に刺して致命傷を負わせるーーー筈だった。
天狐はその前に刀を鞘から抜かずに構え、巨大な狼の爪に向けて叩いたのだった。
最初は巨大な狼に痛みこそ無かったものの、やがて巨大な狼の自慢だった爪が粉々に割れ、使い物にならなくなった。
「ふん、そんなやわい爪など、刀身を見せる価値もないぞ。もっと我を楽しませてみろ、あの時以上に」
そんな天狐の挑発に乗ったのか、巨大な狼は一回大きな声で叫び、今度は鋭く、白銀の色をした牙を剥き出しにした。
「ほう……まさかお主が『鋼鉄の牙』の二つ名を持つ狼だったとは。だが、お主の『鋼鉄の牙』はまだ未熟。百年前、つまりお主の先代の方がもっと美しかったぞ」
『鋼鉄の牙』。
狼の集団の中でも一番の狩りの才能を持つ狼に与えられる二つ名。
この二つ名を与えられたからには集団を率いれ、自分が頭領として一生を全うしなくてはならない。
牙を白銀の色にするには先代の頭領との決闘に勝利し、血肉を食する必要があり、その輝きは百戦錬磨の狼に相応しいと言われている。
「だが、こちらも一度は負けた身。今回は我も手加減はせんぞ」
そう言い、天狐は刀を鞘から抜いた。
「いざ尋常に、勝負」
刀を鞘から抜いた瞬間、刀身から炎が舞い上がった。
「さあ、いつでも来い『鋼鉄の牙』」
天狐は炎が舞い上がったままの刀を構え、『鋼鉄の牙』をまっすぐと見た。
『鋼鉄の牙』も負けじと構え、同じく天狐をまっすぐと見る。
互いが互いを見つめ合い、時間が濁流の様に早く流れていくような気がした。
それを天狐の後ろから見ていた武蔵は、何もできずにそこに立っていることしかできなかった。
「(天狐もかなりの実力者だが、『鋼鉄の牙』って奴も半端ねえ……どちらにせよ、俺が手出しできるような勝負じゃねえぞ、これ……)」
武蔵が自分の弱さを実感していると、強い風が吹き、木の葉が一つ木から落ちる。
それが、天狐と『鋼鉄の牙』との勝負開始の合図だった。
初めは『鋼鉄の牙』が先行攻撃に成功し、天狐の様々な所に切り傷ができた。
「(早い……!早すぎて見えなかった……!)」
天狐の体の至る所から血が出る。
が、『鋼鉄の牙』が振り返り天狐を見ると、天狐は斬った後の姿勢になっていた。
それに気づいた瞬間、『鋼鉄の牙』の体から大量の血が一気に出た。
武蔵は何が起きたのかすら分からなかった。
「ふん、先に攻撃できたからって勝った気でおるな、若蔵が」
今度は天狐が振り返り、『鋼鉄の牙』に軽い説教の様な事を放った。
『鋼鉄の牙』は一気に大量の血が出た反動でその地にそのまま倒れた。
「安心せい。炎で既に血は止まっておる。お主はまだ死なんよ」
天狐の言葉が『鋼鉄の牙』に届いていたのか分からないが、難は去ったようで天狐は刀身から炎を消した。
「牙は折れなかったか……流石は頭領。そこだけは褒めてやるぞ」
天狐が一人混じり言葉を吐いた。そして、
「さて、今度はお主だ」
と、武蔵に対して刀を向けた。
「な……?」
「お主の刀捌きはまだ三流。今の戦いもろくに理解できなかったみたいだな」
疑問の顔をした武蔵に、天狐が呆れた様に言い放った。
「まだ時間もある。これから『鋼鉄の牙』が目覚めるまで、お主には我の技術を伝授させ、最終的には一人で『鋼鉄の牙』を討伐してもらうぞ」




