ポーカーフェイスだからって
「能美さん、好きです!」
「……ゴメンなさい」
告白、玉砕。悲劇的な失恋。
だが二人を取り巻くクラスメートたちは皆、それを見て一様に笑い転げている。好きだと告げた、相良くんでさえそうだ。
「ごめん能美さん! 今の嘘! 残念だった?」
明るく、朗らかな笑みを浮かべる相良くんに向かって能美さんは黙ったままだ。そのポーカーフェイスっぷりから陰で「能面」と呼ばれている彼女だが、それは今も健在で……笑い転げている同級生たちに対し、じっと白い目を向けているのだった。
◇
「先生、相良くんが明日の授業は『教室』ではなく『理科室』に来るようにと言っていました。本当ですか?」
一言一言、丁寧に尋ねる能美さんに理科教師は苦い顔で頷く。
あの嘘告白をされて以来、もはや何回目になるかわからない能美さんの「確認」。能美さんは、相良くんから何か言われたらそれをわざわざ本人の元へ赴き「確認」しに行く。事情を知らない者は全員、困惑するが能美さんは自分の身に何が起こったのかを素直に答えてみせる。
「だから、私は相良くんを信用できません」
そう言い切る能美さんに、ほとんどの者は同情し……相良くんに「嘘告白で女子を傷つけたクズ」という噂が付いて回るようになるのも時間の問題だった。
「能美さん、もうやめてよ! 悪かったって思ってるからさ!」
そんな相良くんお叫びに、能美さんは相変わらずのポーカーフェイスで「どうせ、それも嘘でしょ」と吐き捨てる。相良くんはその背中を、慌てて追いかけた。
――実を言うと相良くんは能美さんのことを女子として意識はしていた。
それを友達にからかわれ、反論しているうちにあんな取り返しのつかない嘘をつくことになってしまった。
自身の行動を後悔した彼は、必死に能美さんの許しを請おうとするが伸ばした手は強い力で振り払われる。その動作には無表情だけで隠し切れない、強い嫌悪感が滲み出ていた。
「――顔に出ねぇからって、何をしても怒らないと思ってんじゃねぞクズが」
低い声で口にされた、能美さんのその言葉に相良くんはたじろぐ。
淡い恋心が砕け散った。周囲の人間からも後ろ指を指されるようになった。そうして相良くんはポーカーフェイスとは程遠い、暗い表情を浮かべ――能美さんからの、冷たい視線に耐える日々を送ることになったのだった。