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第九章 涙と光と ー前編ー

 討伐員が武器を一閃すると真っ二つになった()ぐれ者が消えた。

「おい」

 別の討伐員が声を掛けた。

 ()の隣にもう一人()た。

 今()ぐれ者を切った討伐員より先に来ていた二人だ。

「村に住めと言われてるだろ」

「無駄だって。幾度(いくど)となく言ってるんだが聞かないんだ」

 片方がお手上げと言う(よう)に言った。

「イナを見付けたら住む」

()の人間はずっと前に死んだんだろ」

「そろそろ生まれ変わってる(はず)だ」

「名前も姿形も変わってるんだぞ。分かる()……」

「俺の(あと)が付いてる」

 二人が呆れ顔をした。

「前世の事は何も覚えてねぇんだぞ。お(めぇ)の事も含めて」

「全然違う性格に()っててがっかりするかもしれないぞ」

「姿形だって違うんだし」

(それ)でも()い、もう一度イナに会いたい」

 ()の言葉に討伐員は諦めの溜息を()いた。

「好きにしろ」

 と言うと討伐員達は其々(それぞれ)の村へ帰っていった。


 (しばら)くして少女の足音が聞こえた。

 自分に会いに来たのだ。

 (しか)し今出ていったら討伐員に見付かってしまう。

 気配を消したまま隠れて様子を見ていた。

 少女は討伐員を見ると、はにかんだ笑みを浮かべた。

 討伐員が目を見開いた。

 自分が〝見えた〟事で少女がイナ――今は違う名前だが――だと気付いたのだ。

 普段は人間を無視している討伐員が少女に近付いていく。

 ()(そば)まで行って自分の気配を確認すると少女に話し掛けた。

 討伐員は少女の村に住み付いた。

 イナの生まれ変わりを見付け出したと知った他の二人は驚愕(きょうがく)していた。


 貞光達が部屋へ戻ろうとした時、

「所で、お前ら」

 季武が声を掛けた。

(なん)だ」

「貞光が六花の家に行ったってどう言う事だ。猫を見なかったって言ってたな。(つま)り家の中まで入ったんだな」

 季武の言葉に三人は顔を見合わせた。

「何が有った」

 三人は再度視線を交わした。

「ネットイジメだよ」

 金時が渋々応えた。

「何?」

 季武が気色(けしき)ばんだ。


「落ち着け。サーバーのログも生徒達の記憶も全部消した。誰も覚えてないしネット上の痕跡も全部消した」

「待て、お前達三人で其処(そこ)まで出来る(はず)が無い。小吏(しょうり)()らせたな。鬼が関わってたって事か?」

 三人は三度(みたび)顔を見合わせた。

「そうか、鬼か土蜘蛛の可能性が有ったのか」

「どう言う事だ。()ぐれ者が関わってるかどうかも分からないのに小吏が動いたのか」

「いや……ネットイジメは自殺の危険が有るだろ」

「人間の自殺に小吏は関与しないだろ」

「他の人間ならな。けどお前は前科が有るだろ」

「六花ちゃんがイジメの所為(せい)で自殺したりしたらお前が何仕出(しで)かすか分からないから」

 季武は反論出来ずに黙り込んだ。


「あ、(これ)、お前に知られたって聞いたら傷付くから黙ってろよ」

「自殺未遂を知られると傷付くのか?」

「未遂までいってねぇよ」

「気付いて()ぐ六花ちゃんに連絡したから」

「スマホが有るのに何故(なぜ)直接行った」

 季武が言った。

()し自殺しようとしてたらスマホじゃ止めらんないじゃん」

()(かく)()ぐに連絡して記憶もデータも全部消すからって言って落ち着かせたから」

(それ)とお前にも内緒にしとくって約束した」

何時(いつ)の話だ」

「五月下旬だ」

「二ヶ月近く前じゃないか!」

 季武は大声を出したが、()ぐに溜息を()いてソファに座り込んだ。


(つま)り、ずっと続いてるんだな……」

「ネットは監視してるが、今の(とこ)六花ちゃんの悪口とかは無いぞ」

 季武は六花の体操服が切り刻まれてた事を話した。

 頼光が節約しろと言ったのを聞いてペットボトルのお茶すら遠慮しようとするくらいだ。

 季武が新しい体操服を買って渡したら屹度(きっと)恐縮するだろうし(それ)(また)切られたりしたら更に気に病むだろう。

 かと言って()った(ヤツ)を捕まえて弁償させても六花の事だから其奴(そいつ)に申し訳ないと考えるに違いない。

「確かに六花(イナ)ちゃんはそう言う性格だよな」

()の話を聞かせたのは失敗だったな」

「宝くじか何かに当たって大金が入ったって言って渡すのは如何(どう)だ?」

(それ)より渡したらロッカー(のぞ)いた事がバレるじゃん」

(それ)は気にしないだろ。俺の目の前で番号を合わせてたくらいだし」

「そうか?」

 綱が疑わしそうに言った。

「GPSで居場所検索されても平気なんだぞ」

 貞光の言葉に綱がそう言われてみればと言う表情に()った。


「問題は俺達の金の有る無しより、中学生の小遣いで買えない(よう)なものを渡される事を気にするんじゃないかと思うんだ。特に何度も切られて()の度に渡されたりするのはかなり負担に()ると思う」

「六花ちゃんはそう言うの気に病むタイプだよな」

「買うのが駄目(ダメ)なら(くじ)の景品で当たったって言うのはどうだ? 俺達じゃ女物は着られないからあげるって言えば……」

「体操服が景品の(くじ)引きたがる(ヤツ)なんか()るか?」

「むしろ殺到するだろ」

「お前が渡したら気にするって言うなら他の誰かに渡させたらどうだ?」

「他の誰かって誰だ。八田は()ないんだぞ。鈴木って(ヤツ)は論外だし……」

何方(どっち)にしろ恋人でもない男から贈られた体操服なんて気持ち悪いだろ」

「匿名で贈れば()いじゃん」

「友達が()ないんだぞ。俺達だってバレるに決まってるだろ。暗示が効くならなんとでも()ったんだがな」

 季武が言った。

「……親から渡させるのは如何(どう)だ?」

 考え込んでいた貞光が言った。

「え?」

「六花ちゃんの親は暗示に掛かっから適当な口実付けて親から渡させりゃ()いんじゃねぇか?」

 四人は話し合って六花の母親から渡させる事にした。


 昼休み、季武と六花は何時(いつ)もの(よう)に屋上に()た。

「え、お客さん?」

 六花が聞き返した。

「ああ、(しばら)(うち)に泊まる事に()ったんだ。だから料理をもう一人分作って欲しい。礼として何でも聞いて()いから」

「そんな、お礼なんて()いよ」

「いや、頼光様や客が気にするから遠慮なく聞いてくれた方が()い」

「そう言う事なら……」

 何を聞いても()いと言う事は客も異界(むこう)の人なのだろう。


 もしかして歴史に名前が残ってる人かな。

 歴史上の人なら資料に残ってない話を聞けるかもしれない。


 六花の胸が期待に(おど)った。


 放課後、季武と一緒に頼光達のマンションへ行くとリビングに頼光と同い年くらいの男性が()た。

 やはり格好良(かっこい)いと言うか(すご)い美形だ。

 落ち着いていて上品な印象の男性だった。


 異界の人って美形ばかりなのかな。

 でも見た目を変えられるって事はこう言う外見を自分で選んでるんだよね。


「六花ちゃん、平井(ひらい)保昌(やすまさ)だ」

 頼光が紹介した。

(よろ)しく」

 保昌が微笑んで言った。

 声も低く落ち着いていて(やわ)らかい。

「……もしかして、藤原保昌(ふじわらのやすまさ)さん、様ですか?」

如何(どう)して分かった?」

 保昌が意外そうに訊ねた。

「以前、頼光様が保昌(ほうしょう)……様って言ってた事が……。それに、平井に住んでいたから平井保昌(ひらいのやすまさ)とも呼ばれてるって資料で読んだので……」

「だから安直過ぎると言ったんだ」

 頼光が(それ)みろという顔で睨んだ。


「部下達が藤原保昌(ふじわらのやすまさ)なんて学校では習わないって言ってたんだがなぁ」

 保昌がおっとりとした口調で言った。

「『今昔物語集』とかに、いくつか話が載ってますよ」

「六花、今時『今昔物語集』を読んでるのは古典好きくらいだ」

 季武が言った。

「『今昔物語集』を読んでなくても和泉式部……さんの結婚相手ですし……」

弾正台(だんじょうだい)帥宮(そちのみや)は日記で有名みたいだけど、橘道貞(たちばなのみちさだ)や私は普通は知らないと思うがなぁ」

「普通はな」

 貞光が、ぼそっと呟いた声が聞こえて六花は赤くなった。

「でも、正式な結婚相手は保昌様や道貞さんですよね?」

「まぁそうだけど、日記には書いて(もら)えなかったからねぇ」

 保昌が微苦笑(びくしょう)を浮かべた。


「もしかして、坂上田村麻呂さかのうえのたむらまろ……さんとか、藤原利仁(ふじわらのとしひと)さんも異界(むこう)の……」

本当(ホント)に良く知ってるねぇ」

 保昌が苦笑(にがわら)いした。

「大江山の時は保昌様もご一緒だったんですよね?」

「そうだけど……伝承って()の程度残ってるの?」

「えっと……」

 保昌の問いに六花が答えようとすると、

「伝説は伝説ですから!」

「かなり脚色されてるよな!」

「色々間違ってるとこ有りますから!」

「創作がかなり入ってますので」

 四天王が口々に六花を遮った。

 保昌は、どうやら訊かない方が()(よう)だと気付いたらしく(それ)以上は突っ込んでこなかった。

 六花も、伝承に残ってる話はされたくないらしいと悟って口を(つぐ)んだ。

 頼光達は普通に話してくれているから(おそ)らく保昌に聞かせたくないのは事実ではなく伝説の方だろう。

 六花は昔の都の話など当たり障りのない事を聞きながら夕食を作った。


 季武は六花をマンションまで送り届けると貞光に待ち合わせに少し遅れると連絡した。


 季武は前に()ぐれ者討伐に来た公園に来ていた。

 以前気配を感じた場所へ向かう。

 隠形(おんぎょう)()ると植え込みの中へ入った。

 低木の影に元は白かったと思われる黒い鞄が落ちていた。

 ()ぐれ者に喰われた時に飛び散った血で黒く染まったのだろう。

 ()して白い小石に見える骨の欠片。

 肉片も付いていたのかもしれないが、小さいから土と木の匂いで腐敗臭(ふはいしゅう)に気付かれなかったか、ネズミか虫に食われてしまって臭わなかったか。

 骨から(かす)かに綱の気配がする。

 エリの痕は鎖骨の辺りだから骨まで綱の気配が()み付いていたのだろう。

 エリが此処(ここ)で喰われたのだ。

 人間と異界の者の気配が入り交じっていたのは()所為(せい)だ。

 季武は溜息を()いた。


 月曜、六花は四天王のマンションで料理を作っていた。


 季武君達は何も言わないけど五馬ちゃんはもう……。


 五馬が生きている可能性が有るなら綱が捜している(はず)だ。

 だが最近は綱もマンションに()る。

 (おそ)らく見込みが無いか、死んだとはっきり分かっているから捜してないのだろう。


 多分、私の(ため)に黙っててくれてるんだよね……。


 ふと、ゴミ箱に捨ててあるスナック菓子の袋が目に入った。

 パッケージに印刷された茶色い塊を見て五馬が持っていた小石(スコリア)を思い出した。

「あの、スコリアって知ってますか?」

「スナック菓子の?」

「女の子だぞ、イギリスのお菓子に決まってんじゃん」

「火山噴出物(ふんしゅつぶつ)だろ」

 貞光が呆れた(よう)に言った。

「そうです、火山から生まれる石です」

(それ)も何かの伝説と関係あるの?」

 金時が訊ねた。

「いえ……普通の石とは違うんですよね? 私、見分けられないので……」

「探してるって事? 今の中学で地学なんて習う?」

「そうじゃないんです」

 六花は口籠(くちご)もった後、ちらっと綱に視線を向けた。

 目が合った綱が不思議そうな顔をした。


 綱さん、あの石の事、聞いてないのかな……。


「六花ちゃん、前にも言ったけど俺達は傷付いたりしないから」

 金時にそう言われて六花は(わず)かに躊躇(ためら)った後、

「五馬ちゃんがスコリアを大事にしてたんです。前に住んでた所に沢山落ちてたって言ってましたから、其処(そこ)で拾ったものだと思って」

 と思い切って言った。

 四人が視線を交わした。

「スコリアが落ちてるのは一番近くても伊豆だよ」

 金時が答えた。

「この辺には無いんですか?」

「火山が()るのは関東平野の周辺部だから」

 季武が言った。

「火山弾は重いから相当な大噴火じゃないと東京(ここ)まで届かないんだよね」

「そう言う噴火は直近(ちょっきん)で何万年か前の箱根くらいだよ」

「箱根は軽石らしいしな」

 金時、綱、貞光が補足した。


「一番近いスコリア丘は伊豆の火山だね。噴火したからって必ずスコリアを噴出するとは限らないから」

「六花、他に何か八田と火山に関する話はしたか?」

「酒呑童子と八岐大蛇の他にって事?」

「火山の石の事だ」

「黒曜石も火山で出来るって」

「黒曜石は持ってた? (ある)いは見た事は有るって言ってた?」

「スコリアだけです。見たって話も聞いてませんけど……」

「八岐大蛇は溶岩だって言ってたよね?」

 金時が言った。

(それ)も五馬ちゃんと話した? 大蛇(おろち)に付いては何か言ってた?」

 綱が訊ねた。

「八岐大蛇の尻尾から出てきた草薙剣(くさなぎのつるぎ)は黒曜石のナイフの見立てじゃないかって事と、大蛇ってホントに()たのかなって事くらいです」

 お湯が沸騰した音に、六花が鍋に目を向けると四人は再度視線を交わした。


 六花は季武に送られて自宅マンションに帰ってきた。

()まん、一寸(ちょっと)スマホ貸してくれるか?」

 季武は六花のマンションの前に着くと頼んだ。

 六花は()ぐにポケットから出して渡した。

「返すまでは(これ)使っててくれ」

 季武は自分のスマホを渡した。


 季武はマンションへ戻るとスマホの通話履歴とメールをチェックした。

 六花は何度か五馬にメールやLINEでメッセージを送っていたが返事は一度も来ていなかった。

如何(どう)かしたか?」

 綱が画面を覗き込んだ。

一寸(ちょっと)待ってくれ」

 季武はGPSで五馬のスマホを検索した。


 出た!


「八田のスマホの電源が入ってる」

 五馬が持っているとは限らないが少なくとも電源は入っている。

「え!」

 綱はスマホを取り出して五馬に掛けようとした。

「待て。電源が入ってる事に気付いたってバレる」

 季武は綱を止めた。

「八田のスマホの場所が分かりました」

 季武は頼光に報告した。

 頼光と四天王、(それ)に保昌と保昌の部下達はGPSの示す場所に向かった。


 GPSの場所に近付いた時、酒呑童子と茨木童子の気配を感じた。

 かなりの数の鬼も()る。

 ()の前はうっかり近付いてしまって酒呑童子達に気付かれてしまったので今回は離れた場所から完全に気配を消してきた。


 保昌達は離れた場所に(ひそ)んでいた。


 スマホが有るのは高級マンションだった。

 部屋までは分からない。

 多数の鬼が入れる場所と()ると(それ)なりに大きい家か、部屋が広いマンション、後は倉庫くらいしかない。

 倉庫は人の出入りが有るし一戸建ては窓から中が見える。

 隠形で自分の姿は消せても血や人間の肉体を見えなくする事は出来ない。

 家の中で人を喰えば室内が血で()まる。

 鬼が見えなくても家の中が血塗(ちまみ)れだったら騒ぎに()ってしまう。

 そう言う意味では中を覗かれる心配の無いマンションの部屋は鬼にとっても都合が良いのだ。

 ()の時、ガラスが砕ける音と共に鬼達が降ってきた。


「気配は消してたのに!」

「鬼に知らせた(ヤツ)()るんだ」

「土蜘蛛か!」

 最初の鬼は地面に足が付く前に頼光に真っ二つにされて消えた。

「全員、気を抜くな!」

「はっ!」

 綱、貞光、金時は鬼に斬り掛かっていった。

 季武は街灯の上から弓で鬼を狙い撃ちにし始めた。


 茨木童子が空から季武に斬り掛かってきた。

 季武は跳んで()けると、弓を背に戻して腰の刀を抜いた。

 刀と刀がぶつかり合い火花を散らした。


 綱は酒呑童子と斬り合っていた。


 貞光と金時は次々に鬼を斬り伏せていったが鬼は後から後から降ってくる。


「金時! 穴を塞いでこい!」

 頼光が叫んだ。

「は!」

 金時がマンションに向かって駆け出した。


 茨木童子が空に飛び上がって金時の方に向かおうと季武に背を向けた。

 季武は茨木童子に向けて刀を投げ付けた。

 刀に翼を切り裂かれた茨木童子が落ちる。


 季武は脇差を抜いた。

 茨木童子は季武が払った脇差を(かろ)うじて()けると金時を追うのを諦めて季武に向かってきた。


 茨木童子が刀を思い切り振り下ろした。

 季武は(それ)を脇差で横に(はじ)くと()のまま斜めに斬り下ろした。

 脇差の切っ先が茨木童子を(かす)めて体液が噴き出した。

「ーーーーー!」

 茨木童子が逆上して吠えた。


 鬼の増援(ぞうえん)途絶(とだ)え、金時が飛び降りてきて酒呑童子に(まさかり)を振り下ろした。

 酒呑童子は咄嗟(とっさ)に飛び退()いたものの左腕を斬り落とされた。

「貴様!」

 酒呑童子が憤怒(ふんぬ)の表情で金時を睨んだ。


 季武の脇差を刀で受け止めて動きの止まった茨木童子に貞光が大太刀を斬り下ろした。

 茨木童子が真っ二つに()る。


 綱が酒呑童子に向かって真っ直ぐ突っ込んでいった。

 酒呑童子の腹に綱が髭切を突き立て、金時が鉞で首を切り落とした。


 同時に、

「ーーーーー!」

 土蜘蛛の断末魔の叫びが聞こえた。

 保昌達が核を狙っていた土蜘蛛を討伐したのだ。


 ()の瞬間、頼光達の周囲で大量の鬼の気配が湧いた。

 頼光達は多数の鬼に取り囲まれた。

 確実に(とど)めは()したものの核が異界(むこう)に戻ったか確認する間も無く鬼達を迎え撃つ事に()った。


「はっ!」

 貞光が大太刀を()ぎ払って鬼を両断するのと季武の矢が別の鬼に(とど)めを刺すのは同時だった。

「終わったな」

 頼光が言った。

「私達は異界(むこう)へ行って核の確認をしてくる」

 頼光はそう言い残すと保昌と共に異界へ戻った。


 季武は六花のスマホを取り出した。

「五馬ちゃんのスマホ探すのか?」

「ああ」

(これ)、ベランダに落ちてた」

 金時が懐からスマホを出した。

 季武が試しに掛けてみると金時の持っているスマホが振動した。

 画面に六花と表示されている。

「室内じゃなくてベランダ?」

 綱が言った。

「連中に気付かれない(よう)に外から置いたんだろ」

「外からって十五階……」

 金時は言い掛けて口を(つぐ)んだ。

 異界の者なら何階だろうと外から上がれる。

 ()してや土蜘蛛なら造作(ぞうさ)もない。

 誰も口には出さなかったが最早(もはや)疑い(よう)が無かった。


 大江山でも(さら)われた人間全てが()ぐに喰われていた訳では無かったから捕まったものの最近まで無事だった可能性は有る。

 だが此処(ここ)で喰われたならスマホは室内に落ちていた(はず)だ。

 四人のスマホが同時に振動した。

 綱が画面を見た。

「一旦マンション(うち)へ帰れって」

 綱の口調から核が戻ってないのは明らかだった。

如何(どう)すんだよ! 二度も同じ手を喰らったなんて、オレ達の方が頼光様(あのひと)に核にされんぞ」

 貞光が頭を(かか)えた。

「どうせ核にされても()ぐに再生されて人間界(こっち)に戻されるだろ」

 金時はそう言って溜息を()いた。


「抜かったな」

 頼光が厳しい表情で腕を組んでいた。

「保昌様は……」

「向こうで叱責(しっせき)を受けてる」

 季武以外の三人が同情する(よう)な表情を浮かべた。

 元々保昌達は土蜘蛛から核を守る(ため)掩護要員(えんごよういん)だ。

 (それ)があっさり奪われてしまったのだから今頃相当(しぼ)られているだろう。

(また)一から()り直しですか」

「そうなる」

 頼光と四天王は溜息を()いた。


 頼光が部屋に戻り、季武も部屋へ行こうとした時、

「季武、お前()だ告白してないのか?」

 綱が声を掛けた。

「六花ちゃん、落ち込んでるんだろ。お前に好きだって言われたら喜ぶぞ」

「六花は八田が死んだかもしれないって時に嬉しい事が有ったりしたら八田に申し訳ないって考える(はず)だ」

「なら逢引(デート)如何(どう)だ? 俺がデートプラン建てて()るよ。都内には()い場所一杯(いっぱい)有るんだぞ」

 綱が言った。


 此奴(こいつ)、女子に近付けない(よう)に見張られてたのに、しっかりデートスポット調べてたのか……。


 季武は半ば呆れて綱を見た。


 昼休み、季武と六花は何時(いつ)もの(よう)に屋上に()た。

「え、日曜日?」

 六花が聞き返した。

()い店が有るからお前を連れてってやれって」

如何(どう)して?」

「食事の礼だ」

「そんなの()いよ」

「見返りなしじゃ気軽にリクエスト出来ないって言ってたぞ」

「……高いお店じゃないよね?」

「綱が調べてた店だから学生向けだろ」

「綱さんがわざわざ調べてくれたの?」

「自分で行く(ため)だ」

「え、五馬ちゃんと行こうと思ってたお店って事?」

 六花が痛ましそうな表情を浮かべた。


 しまった!


 綱と五馬に同情しているのだろう。

 季武は胸の中で舌打ちした。

「多分、八田と付き合う前からだ。女を口説(くど)いたら()ぐ連れていける(よう)に」


 そう言えば綱さんって女ったらしなんだっけ……。


「女に近付かない(よう)に見張ってるんだが隙を見ては口説こうとするからな」

「……見張ってる? 痕を付けた恋人がいるんでしょ。その人だったらどうするの?」

()の時はそう言うから」

「そっか」

「で、行けそうか?」

「そう言う事なら」

 綱からは丸一日のデートプランを渡されていたが()の様子では六花は楽しめそうにない。昼食後に喫茶店に行くだけにしておいた。


 季武は五馬の話をすべきか迷っていた。

 六花が五馬を心配しているのは分かっている。

 (ただ)、季武達に負担を掛けたくないから何も聞いてこないのだ。

 ()し鬼に喰われてしまっていたら五馬が死んだと告げなければならない。

 (たった)一人の友達が死んだと訊かされるのも悲しいが、(それ)を告げる方も(つら)いだろうと気を(つか)っているのだ。

 死んだと言われなければ生きてるかもしれないという希望を持っていられると言うのも有るだろう。

 (しか)し五馬は()ず間違いなく()ぐれ者だ。

 四天王は酒呑童子以外にも昔から多くの()ぐれ者を討伐してきたから恨んでいる者は大勢いる。

 (おそ)らく()の中の一人だ。

 エリの痕を付けていた事から考えても六花から季武の気配がするのに気付いて四天王に近付く為に仲良くなったのだろう。


 五馬が鬼と手を組んでいたと訊かされれば利用する(ため)に友達の振りをしたのだと知って心を痛めるに違いない。

 だから出来れば教えたくない。

 いっそ死んだ事にしてしまおうかと思ったが五馬は自分の死を偽装(ぎそう)してない。

 再び姿を現す可能性が有る。

 五馬の死を悲しんだ後に生きてる姿を見たら季武に嘘を()かれたと知って更に傷付くだろう。

 (それ)に死んだと思っていた五馬が生きている姿を見て混乱した心の隙を突かれて利用される恐れも有る。

 五馬が六花の前から消えたままで()てくれれば(これ)以上六花は傷付かずに()む。

 (たった)一人の友達が()なくなったのは(つら)いだろうが傷は最小限に(おさ)えられる。

 だが人間側に付いている季武でさえイナ以外の人間の感情には斟酌(しんしゃく)したりしないのだ。

 ()して人を喰いに来てる()ぐれ者が人間の気持ちを思い()ったりはしないだろう。

 六花が初めて五馬と下校した翌日の事は()く覚えてる。

 見た事もないくらい(はしゃ)いでいた。

 相当嬉しかったのだ。

 出来る事なら教えたくない。


 ()のまま八田が二度と姿を見せないでくれれば……。


 外見が違えば六花は五馬だと気付かない(はず)だ。

 五馬の見た目で出てこないでくれるだけで()い。

 (それ)だけで六花は(これ)以上傷付かずに()む。


 六花に気付かれずに討伐出来れば(それ)に越した事は無いのだが……。


 放課後、六花をマンションに送り届けた季武は、中央公園に入って隠形に()ると歌壇の低木の(かげ)に五馬のスマホを置いた。

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