表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

第八章 疑惑と涙と ー前編ー

 森の中で例の討伐員の気配を感じた。

 物陰から(うかが)うと地面に倒れていた。

 かなり気配が弱まっているから遠からず核になって異界(むこう)へ戻るだろう。

 ()の時、足音が聞こえた。

 討伐員を見付けたのだろう。

 慌てた様子で駆けてくる。

「しっかりして。具合、悪いの?」

 少女が助け起こしながら問い掛けると、

「腹が空いただけだ……」

 討伐員が弱々しく答えた。

 少女は急いで袋の中から木の実を粉にして固めた団子を取りだした。

(これ)、木の実で出来てるから、お肉は入ってないよ」

 討伐員は少女に渡された団子をあっという間に平らげてしまった。

「ね、村においでよ。()の辺には食べられるもの無いし……」

 話の途中で討伐員は意識を失った。

 団子一つでは到底(とうてい)足りなかったのだ。

 少女は最初、討伐員を引きずって行こうとしたが自分一人の力では無理だと判断すると村へ走っていった。


 人間達に()って村へ運ばれた討伐員は少女に説得されたのか村に住み着いたらしかった。

 ()の辺は多少食料に余裕が有るので割と他所(よそ)者に寛容だから討伐員も村に()ぐに受け入れて(もら)えた(よう)だ。

 村で農作業などを手伝いながら時々現れる()ぐれ者を討伐していた。

 流石(さすが)に任務だけは真面(まとも)に出来るらしい。

()の木の実を集めれば()いのか?」

「うん、でも、少し残しておいてね」

如何(どう)して?」

「全部()っちゃうと鳥が困るから」

 少女の言葉に討伐員は納得した(よう)に頷いた。

 鳥は飛べるのだから此処(ここ)に無ければ他の場所に行くだけだろうに、相変わらず人間は馬鹿だし、(それ)に納得してしまう異界の者も愚かだ。

 まぁ、馬鹿な人間と愚かな異界の者という組み合わせは案外お似合いなのかもしれない。


 夕方に()り、六花と五馬は公園の出口で別れた。

 六花が五馬の背中を見送っていると、

「あれ、五馬ちゃん。偶然だね」

 綱が声を掛けているのが見えた。

 実際は隠れて見張っていたのだろう。

 でなければ季武が「鬼と戦っても大丈夫な場所」などと言う訳がない。

 綱と五馬が行ってしまうと季武が姿を現した。

 予想通りだったので驚かなかった。


「八田と(なん)の話してたんだ?」

 季武が並んで歩きながら訊ねた。

「最近、綱さんが余所余所(よそよそ)しいから嫌われたんじゃないかって……」

「そうか」

「五馬ちゃんは綱さんの恋人の生まれ変わりなんだよね?」

「……(おそ)らく違う」

 季武は目を()らせた。

「じゃあ、恋人じゃないのに、その……」

()まん。昔ならもう結婚してる年だし、(あいつ)、手が早いから……」

 季武が困った(よう)に謝った。

 季武達は幾度(いくたび)綱の修羅場に巻き込まれたか分からないくらいだし、頼光がブチ切れて刀に手を掛けた時は自分もとばっちりで斬られるんじゃないかと(きも)()やしたくらいだ。

 思い出すだけで頭痛がしてくる。

「あ、別に、季武君が謝る事じゃ……。その、合意の上だったんだし……」

 六花が慌てて言った。


「でも……違うなら、やっぱり恋人捜すよね?」

「……痕を付けるのは本当に掛け替えのない相手だからだ。他の人間では代わりには()らない。綱は痕を付けた相手が三人()るが、(それ)でも、()の三人に対する想いの強さは俺と変わらない」

 とは言え最後の部分に関しては正直自信が無い。

 イナが生まれ変わるまでの間でさえ他の女に手を出したいと思った事の無い季武からすれば、恋人が()るのに他の女にも手を出す綱の心理は理解出来ない。

 だが、そもそも季武の(よう)態々(わざわざ)痕を付けてまで同じ相手を捜し出して毎回添い遂げてるのが異例なのだ。

 綱は季武の真似をしただけかもしれない。

 だから綱が季武ほど執着しているかは分からない。

 (ただ)、一応(あと)を付けた三人は他の女性よりは大事にしている。


「じゃあ、五馬ちゃん、振られちゃうんだ……」

「…………」

 季武には答えられなかった。

 下手に嘘を()いて六花を傷付けたくない。

 そう思うと何も言えなかった。

 綱が女を振った事は無い。

 別れるのは自然消滅や股掛(またが)けされてるのに嫌気が差した女が別れを切り出した時くらいだ。

 痕を付けた三人以外になら振られた所で気にも止めないが、()の三人は(どれ)だけ綱に腹を立てても別れたりはしない。

 だから今回も振る事はないだろう。


 だが……。


 六花は季武の沈黙で答えを(さと)った(よう)だった。


 季武と六花がマンションへ向かって歩いていると、季武の懐から、

「来た!」

 綱の声がした。綱が場所を告げた。

 綱の言った場所までは少し離れている。

()まん」

 季武はそう言うと六花を抱えて地面を蹴った。

 一瞬でビルの屋上に飛び上がると其処から屋上伝いに綱の言った場所に向かった。


「貴様ら! 今日こそ異界(むこう)へ送り返してやる!」

 綱の周りを酒呑童子と茨木童子、それに大量の鬼が取り囲んでいた。

 大鎧姿の綱が髭切(ひげきり)太刀(たち)を抜いた。

「ほざけ!」

 茨木童子が刀を振り上げて斬り掛かってきた。

 綱が髭切で受ける。

 鍔迫(つばぜ)り合いをしている綱の脇を狙って別の鬼が突っ込んできた。


 ()の鬼を(はば)(よう)に貞光が立ち(ふさ)がると大太刀を振るった。

 鬼が真っ二つになって消えた。


 季武は綱達が戦っている場所の近くのビルの屋上に立つと、六花から手を放して弓を構えた。


 金時が酒呑童子の刀を(まさかり)で受けた。

 背後から金時に斬り掛かろうとした鬼の背に複数の矢が突き刺さった。鬼が消える。


 酒呑童子が鉞を押し戻した反動で後ろに跳びさすると、地面を蹴って真っ直ぐ金時に突っ込んできた。

 酒呑童子の刀を鉞で(はじ)く。

 金属の火花が散った。

 金時が鉞を真横に振り払った。

 酒呑童子が後ろに跳ぶ。


 茨木童子と綱が斬り結んでいる。

 綱と茨木童子が鍔迫(つばぜ)り合いになった時、矢が飛んできて茨木童子が後ろに跳んで()けた。

 綱が懐に飛び込んで髭切を突き出した。

 茨木童子が翼を広げて真上に飛んだ。

 其処(そこ)に矢が立て続けに飛んでくる。

 茨木童子は地上へ降りると綱に斬り掛かっていった。


 貞光が大太刀を振るう度に鬼が消えていく。

 季武が綱と金時の死角から斬り掛かろうとする鬼を次々に射貫(いぬ)いていく。


 綱と鍔迫(つばぜ)り合いに()った茨木童子が右足を蹴り上げた。

 綱が後ろに大きく跳んで()ける。

 茨木童子が着地の隙を狙って突っ込んできた。

 季武が茨木童子を狙って立て続けに矢を放った。

 茨木童子が斜め後ろに跳んだ。


 酒呑童子が渾身の力を込めて金時を後ろに弾き飛ばした。

 金時が空中で体勢を立て直す。

 金時の着地場所に向かっていった鬼が何本もの矢を受けて消えた。

 金時の足が地面に着く前に貞光が酒呑童子に大太刀を振り下ろした。

 酒呑童子が後ろに飛び退()く。

 其処(そこ)へ金時が斬り込んでいった。

 酒呑童子が更に後ろに跳んだ。


「今度こそ覚悟しろ!」

 綱がそう言った時、突如(とつじょ)土埃(つちぼこり)が巻き上がって視界が(さえぎ)られた。

 鬼の気配が一斉に消える。

 ビルの上に()た季武は他の三人が鬼に攻撃されないか注意深く見ていたが残った鬼達も酒呑童子達と一緒に撤退した(よう)だった。


 酒呑童子達が撤退すると季武は六花を抱えてビルから飛び降りた。

「五馬ちゃん」

「はい」

 綱が声を掛けると五馬が建物の陰から出てきた。

「五馬ちゃん、大丈夫?」

 六花が五馬に駆け寄った。

「うん、有難う、六花ちゃん」

 五馬は笑顔で答えた。

「綱さんも皆さんも有難うございました」

 五馬が綱達に礼を言った。


 季武は五馬が隠れていた場所を見た。

 そんなに離れてないのに、やはり気配に気付かなかった。

 鬼と戦う時は人間を巻き添えにしない(よう)に人の気配には細心の注意を払っている。

 ()してや今日は五馬が()るのを知っていた。

 なのに本人が返事をするまで気付けなかった。

「五馬ちゃん、怪我(ケガ)は無い?」

 綱が訊ねた。

「大丈夫です。でも(なん)で皆さんが此処(ここ)に……」

 季武は五馬の質問には答えず、

「八田はもう帰れ。綱」

 と綱を(うなが)した。

「行こう、五馬ちゃん」

 綱は頷くと五馬と一緒に帰っていった。


本当(ホント)に見鬼なんだな」

 貞光が綱と五馬の背中を見送りながら言った。

 茨木童子達は言うまでもなく、貞光達も姿を(あらわ)してなかったのに五馬は普通に話し掛けた。

「綱は話すかな」

 金時が言った。

「話さなきゃオレ達まで来た理由が説明出来ねぇだろ」

「鬼に関しては何か言うかもしれないが(それ)以上の話はしないだろうな」

(なん)でだよ」

 貞光の問いには答えず、

「俺は六花を送っていく」

 と言うと六花とマンションへ向かった。


 マンションに戻った四天王の報告を受けると、

「綱の恋人が狙われたのか」

 頼光が険しい表情で言った。

「我々を狙っているのは間違いない(よう)です」

「全員同じ学校に移りますか?」

「賛成!」

 綱が手を上げると、

「お前は駄目(ダメ)だ」

 頼光が即座に却下した。

「でも俺の彼女ですよ」

 綱が不満そうに言った。

「転校するとしたら名前は如何致(いかがいた)しましょう」

 金時が訊ねた。

「名前に問題でも有るのか」

「民話研究会と言うものが有って歴史――と言うか、昔話に詳しい生徒が何人も()(よう)なんです」

(おそ)らく()の研究会に所属してる生徒の(ほとん)どは……」

「今の議題が頼光四天王(おれたち)だから全員知ってるぞ」

「えっ! そうだったの!?」

 綱が驚いて声を上げた。


「お前、五馬ちゃんから聞いてなかったのかよ」

「民話なんか興味ないし……」

()の子は民話研究会に入ってるのか?」

 頼光が訊ねた。

「はい」

「お前達全員、()の子と会った事が有るのか?」

「六花に俺の友達を紹介して欲しいと頼んできたと言うので三人を紹介しました」

「四人揃って会ったんだな」

「はい」

「なら、お前達が頼光四天王と同じ名前の四人組だと知っているな。なのに民話研究会で()の話が出てる事を言わなかったのか?」

 四人は顔を見合わせてから綱が頷いた。

()の話はしたくないとか、するなとか言った訳ではないんだな」

「はい」

「お前達は何か聞かれたか?」

 頼光が季武達に訊ねた。

「いいえ」

 三人が同時に否定した。


(しか)し鬼と戦ってる所を見られたんだろう。頼光四天王と同じ名前の四人組が鬼と戦ってるのを見たのに全く(それ)に触れなかったのか? 民話研究会に入るほど昔話が好きなのに」

 四人は再度顔を見合わせた。

「そういや変だな。六花ちゃんは()く四天王の話するもんな。()の前も源融(みなもとのとおる)の話してたし」

「え、俺?」

「お(めぇ)じゃねぇだろ」

「でも俺の先祖って事に()ってるんだろ」

「実際は縁もゆかりもねぇだろうが」

「民話研究会で綱の先祖が光源氏のモデルだって話が出たらしくて、綱が五馬ちゃんに話したら喜ぶのにって言ってました」

 金時が綱を無視して言った。

「そっかぁ」

 綱が満更(まんざら)でも無さそうな顔をした。

「言っておくが御堂様(みどうさま)がモデルだったって説も有るんだからな」

 頼光が綱を横目で睨みながら言った。

 御堂様(みどうさま)こと藤原道長(ふじわらのみちなが)は人間だが、頼光は(みやこ)()た頃、道長に(つか)えていたので今でも様付けで呼んでいた。

「誰がモデルだったか聞いてないんですか?」

 金時が訊ねた。

 道長は紫式部の雇い主でもあった。

 道長なら紫式部から聞いて知っていたかもしれない。

「物語なんぞに興味は無いからな」


 そう言えば都に()た頃、頼光は()く妻達から物語の続きは()だかとせがまれてうんざりしていた。

 当時は『源氏物語』と言うタイトルは付いていなかったが、頼光の上司が作者の雇い主だと知っていたから、続きが出る度に妻達から早く手に入れて欲しいとせっつかれていたらしい。

 頼光は雑魚の()ぐれ者退治はしていなかったが、人間界の官職に()いていて()の仕事をしながら道長にも(つか)え、更に異界との連絡役もしていたから多忙だったのだ。

 季武に「お前は妻が一人で羨ましい」としょっちゅう(こぼ)していた。

 貞光と金時も妻は一人だったが彼女達は頼光の妻達と同様、物語の続きを欲しがっていて二人も手に入れる(ため)奔走(ほんそう)していた。

 (ただ)、一人分で()い貞光や金時と違い頼光には複数の妻が()たので()の分苦労していた。

 八重も強請(ねだ)ってこなかっただけで多分読みたかったんだろうと今になって思う。

 頼光や貞光達が苦労していると言う話をしていたから黙っていたのだろう。

 当時気付いて()れなかったのが悔やまれる。


「まぁ、名字は季武以外は特に珍しくないから変えなくても()いだろう。問題は名前だな」

「頼光様、四人が同じ学校に集まるのは得策では無いと思います」

(なん)でだよ。()いじゃん」

「綱も俺も一人の所を襲われてる。(おそ)らく各個撃破(かくこげきは)を狙ってるんだ。四人が揃っていたら敵も大勢で掛かってくるでしょう。(それ)では人間の巻き添えが出ます」

 季武の言葉に頼光が納得した(よう)に頷いた。

 結局、今まで通り学校へ通うのは季武だけと言う事で話が(まと)まった。


 数日後の放課後、季武と一緒に玄関に向かった六花は靴を取り出そうとしてメモ用紙に気付いた。

「季武君!」

 メモを開いた六花は驚いて季武に見せた。


〝八田五馬は預かった。新宿駅西口前に来い〟


 季武は目を見張ったが、()ぐにスマホを取り出すと他の三人に連絡した。


 六花のマンションの前まで来ると、

(それ)じゃ」

 と言って季武は駅に向かって駆け出した。


 綱達が新宿駅西口のロータリー前に駆け付けると酒呑童子と茨木童子が鬼達を従えて待っているのが見えた。

 酒呑童子と茨木童子は人間に目もくれていないが手下が側を通り掛かる人間を喰っていた。

 突然(そば)()た人の身体の一部が無くなったのを見た人間が悲鳴を上げているが、一人や二人の叫び声など新宿駅前の喧噪(けんそう)の中では()き消されてしまう。

 綱が舌打ちして人払いの方法がないか考えていると、ロータリーの方からバスが飛んできてデパートの三階の壁にぶつかった。

 綱が目を()く。

 壁とガラスが割れ破片が路上に降り注ぐ。

 道を歩いていた人間達が悲鳴を上げて逃げ出した。

 綱は急いで髭切を納刀すると、人間が下敷きにならない(よう)に落ちてきたバスを受け止めた。


 丸腰になった綱に茨木童子が斬り掛かってくる。

 ()の前に貞光が立ち(ふさ)がった。

 貞光が茨木童子の刀を受け止める。

「綱、()のバスで入り口塞げ! 中から出てこられない(よう)にしろ!」

「一台じゃ……」

 綱が言い終える前に更に二台のバスが飛んできてデパートの壁にぶつかって落ちてきた。

 綱は大急ぎで出口を塞ぐ形でバスを横たえると落ちてくるバスの下に急いだ。

 もう一台は金時が受け止めた。

「季武がこんな無茶したのか!?」

 綱がバスを置きながら言うと、

「俺じゃない」

 と言う声が上から聞こえてきた。

 同時に複数の矢も降り注ぎ、何体かの鬼が消えた。


「え、じゃあ……」

 (また)バスが飛んできて逃げ(よう)とした鬼を(はじ)き飛ばし歩道を塞ぐように止まった。

 ()の直後、デパートと、道路を隔てた所に建っている別館の二階を(つな)ぐ空中回廊が崩れて瓦礫(がれき)()りもう一方の歩道も(ふさ)がれた。

 土煙の中から膝丸を手にした頼光が悠然と出てきた。

 バスと瓦礫で駅前の広い歩道にバリケードが出来た。

 (これ)でもう人間の心配をする必要は無い。


「貴様ら! 覚悟しろ!」

 綱はそう言うと髭切を抜刀した。

此度(こたび)こそ返り討ちにしてくれるわ!」

 茨木童子が斬り掛かってきた。

 綱が髭切で受ける。


 金時が鬼を(まさかり)で両断した。鬼が消える。

 貞光の大太刀が鬼を切り裂いた。

 季武の矢が鬼を貫く。


 酒呑童子が頼光に刀を振り下ろした。

 頼光が振り上げる膝丸の鎬で酒呑童子の太刀筋を()らし、上から斬り下げた。

 酒呑童子が後ろに跳ぶ。

 頼光が更に踏み込んで横に払う。

 再度後ろに跳んで()けた酒呑童子に季武の矢が降り(そそ)いだ。

 酒呑童子が刀で矢を払いながら、突っ込んできた頼光を()ける為に三度跳んだ。


 綱と茨木童子は互いに刀を押し合って一旦離れた。

 綱は不透(すかさず)茨木童子に身を寄せて髭切を突き出した。

 茨木童子が髭切を弾き、返す刀で横に薙いだ。

 綱が後ろに跳んで()ける。

 茨木童子が綱に駆け寄ろうとした所に季武の矢が降ってくる。

 茨木童子が後ろに跳ぶ。


 酒呑童子と茨木童子が背中合わせで頼光と四天王に囲まれる形になった。

 他の鬼は貞光と金時に殲滅(せんめつ)され、残っているのは酒呑童子と茨木童子だけだ。

 不意に土煙で視界が(さえぎ)られ、酒呑童子達の気配が消えた。


 煙が消えると頼光の姿も消えていた。

 (おそ)らく酒呑童子達を追っているのだろう。


「五馬ちゃん!」

 綱が辺りを見回しながら声を上げた。

 四人は新宿駅の周辺を探したが五馬は()なかった。

 季武は五馬のスマホをGPSで探そうとしたが見付からなかった。

 綱が何度か五馬のスマホに電話を掛けてみたが電源が切られているのか電波の届かない場所に()るのか繋がらない。

「GPSでも見付けられなかったのは電波が届かないからか?」

「六花のスマホで試そうと思ったが電波が届いてないんじゃ意味が無いな」

「まさか、俺達が着く(めぇ)(やつ)らに……」

「おい!」

 綱が睨んだ。

()まん」

 貞光が謝った。

(どれ)だけ悪食(あくじき)の鬼でもスマホは喰わないし、電源を切るなんて無意味な事もしない。俺達が来た時には待ち構えてたから電波の届かない所に連れていって喰ってる暇もなかった(はず)だ。喰われたなら電波が届く状態でスマホが何処(どこ)かに落ちてるだろ」

 季武が言った。


(しか)し、(これ)から如何(どう)やって捜す?」

「連れ去ったなら向こうから連絡してくるだろ」

(それ)まで待ってろって言うのか!」

「他に策が有るのか?」

 季武がそう言うと綱が黙り込んだ。

(おそ)らく何時(いつ)見るか分からないメールを送ってきたりはしないと思うが一応メールの受信拒否設定は全部外しておけ」

「六花ちゃんには(なん)て言うんだ?」

「嘘を()いた所で八田が学校に来なければバレるからな。本当の事を言うしかないだろ。八田の事を伝えないといけないから六花の所に行ってくる」

「じゃあ、俺も一緒に行く」

 綱が言った。

「来て如何(どう)する」

「六花ちゃんの友達だし、俺が見落とした所為()……」

「見落とした?」

 季武が綱の言葉を(さえぎ)って(たず)ねた。

「何か有って離れてたんじゃなくて、校門を見てたのに八田が出ていくのを見なかったって事か?」

「ああ、校門からは目を離してない」

「分かった、一緒に行こう。手懸(てが)かりになる質問を思い付くかもしれないからな」

 季武は綱と共に六花のマンションへ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ