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東京綺譚伝ー光と桜とー  作者: 月夜野 すみれ


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第五章 土蜘蛛と計略と ー中編-

 離れたビルの上からカズが()の様子を見ていた。

 エガはカズが助けに行く間もなく討伐されてしまった。

 カズは気付かれない(よう)に気配を消して逃げるのが精一杯だった。

 四人とも化物だ。

 一人ずつ襲うにしても数人程度では間違いなく返り討ちに遭う。

 ()()えずカズはメナの元に報告に向かった。


 土蜘蛛達が集まっていた。

 カズの報告を受けたメナが招集を掛けたのだ。

 サチに協力している者達と様子見組、何方(どちら)も揃っている。

「エガは(なん)だって人通りの有る場所で人間を襲ったんだい」

 メナが訊ねた。

卜部(あいつ)の女を殺して自分と同じ思いをさせてやるって」

(おろ)かな。(いく)ら恋人と言っても人間なんか殺された所で痛くも(かゆ)くもないだろ」

「どうせ長生きしたとこで数十年だしな」

 数の言葉を聞いた土蜘蛛達が言った。

 メナはサチが黙っているのに気付いた。


「サチ?」

 メナに声を掛けられたサチが顔を上げた。

「エガの考え、(あなが)ち間違いではないのかもしれない」

 サチが言った。

「え?」

彼奴(あいつ)、エガの事は追い掛けなかった」

(それ)は核に()って異界(むこう)に戻ったから……」

「核が砕かれれば(それ)()いなら異界(むこう)に逃げた鬼だって同じだ。異界(むこう)で討伐されて核を砕かれてた」

 土蜘蛛達が顔を見合わせた。

「エガだけじゃない。他の()ぐれ者も核を砕かれてない」

「じゃあ……」

卜部(あいつ)の女を殺したから核を砕かれたんだ」


 (それ)(おそ)らく前世の()の娘だ。

 ()の娘から季武の気配がした。

 (あれ)は目印なのだ。

 だから彼女が殺された時、季武は激怒して異界(むこう)まで追い掛けて行ったのだろう。

 ()のくらい季武にとって大切な相手なのだ。


()()の娘が死んでいたら、屹度(きっと)卜部(あいつ)異界(むこう)まで行って核を砕いてた」

「やはり今まで通り仲間集めをするしかない(よう)だな」

(しか)し一人減った事で()(づら)くなったのは事実だな」

「別の策も考えておいた方が()いだろうな」

 土蜘蛛達は思案顔で散っていった。


 朝、季武と共に登校すると教室に五馬が()ってきた。

「六花ちゃん、(これ)……」

 五馬はそう言ってスマホを手渡した。

「ありがとう」

 六花は礼を言って受け取った。

「昨日の事、怒ってるよね」

「え?」

「わたし、怖くて一人で逃げちゃって……」

「私が逃げてって言ったんだよ。それに季武君た……季武君が助けてくれたし」

 五馬は綱達の事は見ていないかもしれないと思って急いで言い直した。


「良かった。嫌われちゃったんじゃないかって心配してたんだ」

「そんな訳ないよ。私だって逃げてたんだよ」

「そう言ってくれて安心した」

 五馬がホッとした表情を浮かべた時、予鈴が鳴った。

(それ)じゃ、(また)ね」

 五馬は手を振って教室に戻っていった。


 昼休み、季武と六花は何時(いつ)もの(よう)に屋上で弁当を食べていた。

「『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』? 鬼同丸(きどうまる)の話か?」

 季武が聞き返した。

「ううん、季武君の話」

其方(そっち)か」

「ごめん、これも何回も聞いてるよね」

「構わない。同じ話を何度しても聞き()きたって言われないのは気楽で()い」

「私、聞き飽きたなんて言った事あるの?」

お前(イナ)は言わない。同じ話を何度もしてるとそう言う人間が()るって綱達が言ってた」

「一番短い綱さんでも千五百年以上なのに同じ人に同じ話をする事あるの?」

「お前は見鬼で昔話が好きだから俺達の事、()ぐに信じてくれるだろ。けど普通の人間は異界の者が見えないから、大抵は人間の振りをしたままで昔の話はしないんだ。そうすると最近の話しか出来ないから」

 どうやら四天王がやけに好意的なのは、人間ではない事を隠す必要が無いからと言うのも有る(よう)だ。

 見鬼で四天王の話を信じているなら、うっかり口を滑らせるかもしれないと気を付ける必要もないし何度同じ話をされても嫌な顔をしないかららしい。


 六花が廊下を歩いていると五馬が声を掛けてきた。

「ね、六花ちゃん、季武君って友達()る?」

「うん」

 四天王は仲間だが、仲間と友達は同じだろうと考えて頷いた。

 友達が()るか聞いてきたと言う事は昨日、季武達が来た時はもう逃げていて他の三人は見ていないのだろう。

「会った事、有る?」

「うん」

格好良(かっこい)い?」

「うん! 季武君の友達って(みんな)すっごく格好良(かっこい)いよ!」


 あの(・・)頼光四天王だもん!

 五馬ちゃんも知ったら絶対喜ぶだろうなぁ。


本当(ホント)! なら今度紹介して! わたし、彼氏欲しいの!」

 五馬が身を乗り出した。

「じゃあ、季武君に頼んでみる」

「有難う! お願いね」

 五馬はそう言うと自分の教室に帰っていった。


 放課後、六花と季武は一緒に歩いていた。

「友達? 貞光達の事か?」

 季武が聞き返した。

「うん、五馬ちゃんが季武君の友達紹介して欲しいって。ダメかな」

「分かった。聞いておく」

 六花は季武の言葉にホッとした。


 翌朝の登校途中、

「今日の放課後なら四人とも来られるらしいぞ」

 季武が隣を歩いている六花に言った。

「五馬ちゃんに紹介してくれるの?」

「ああ」

「ありがとう! 五馬ちゃんに伝えておくね」

 六花は嬉しそうにそう言うと、学校に着くなり五馬の教室に向かった。


 放課後、季武は六花と五馬を(ともな)って中央公園に向かった。

 中央公園には綱達が既に来ていた。

「おっ、今日は綺麗所(きれいどこ)二人も連れてんな」

「金時、親父臭いぞ」

()めて両手に花くれぇにしとけ」

(それ)も古いじゃん」

 綱が呆れた(よう)に言った。

「六花」

 季武が六花の方を振り返った。

「友達の八田五馬ちゃんです」

「八田五馬です」

「俺、渡辺綱。(よろ)しく!」

「おれは坂田金時。(よろ)しくね」

「碓井貞光」

 四天王が次々に自己紹介した。

(よろ)しくお願いします」

 五馬が頭を下げた。


「何か飲まない? (おご)るよ」

 綱が六花と五馬に訊ねた。

「い、いえ、()いです」

 六花が慌てて手を振った。

「遠慮しなくても」

「でも、()……」

 頼光様が、と言い掛けて口を(つぐ)んだ。

 五馬は頼光四天王を知っているから、同じ名前の四人組の上に頼光の名前まで出したら変に思われるかもしれない。

 流石(さすが)に当人達だとは考えないだろうが。


 頼光四天王ごっこしてる痛い四人組と思われたら申し訳ないし……。


「自販機のお茶くらい大丈夫だよ。季武、手伝え」

 綱が苦笑しながら季武と自動販売機へ向かった。


 ペットボトルを買ってきた綱は五馬に手渡そうとしてハッとした表情に()った。

 近付こうとした綱の邪魔をする(よう)に金時がペットボトルを受け取りながら間に割って入った。

 ()のまま金時が五馬に話し掛けつつ、さり気なく綱の肩を押して五馬から離れさせる。

 綱がむっとした顔に()ったが貞光も綱を睨んでいるのに気付いて諦めた(よう)だった。

 綱、金時、貞光と五馬は雑談を始めた。


 六花と季武は少し離れた所から四人の様子を見ていた。

「何か気になるの?」

「いや、多分、気の所為(せい)だ」

 季武はそう言いながらも、じっと五馬を見ていた。

 五馬が可愛いから見惚(みと)れているという風ではない。


 私がそう思いたいだけかな。

 ホントは五馬ちゃんが可愛いから見てるのかな。


 六花が考え込んでいると、

「民話研究会って、何時(いつ)も何してるんだ?」

 季武が訊ねてきた。

「色んな民話について、どこまでが脚色でどこまでが事実かとか話し合ってるの」

「ふぅん」

「今は頼光四天王が議題になってる」

「俺達?」

 季武が六花の方を見た。


「うん」

「例えば?」

「鬼は本当に悪者なのか、とか」

「…………」

「あ、分かってるよ。鬼は悪者だし、頼光様や季武君達が()い人達だって」

 六花が慌てて言った。

 ()の様子を見て季武が、くすっと笑った。

「構わないぞ、何言われても。どうせ今伝わってるのは(ほとん)ど作り話だし」

「うん、でも、頼光様や季武君達のこと悪く言いたくないから黙ってる」

 季武は何も言わずに六花の頭を()でた。

 六花は赤くなった頬を見られない(よう)に俯いた。


 ()の様子を金時達と五馬が見ていた。

()の二人、学校でもあんななの?」

「さぁ? クラスが違うので……。お昼は二人きりで食べてるそうですけど」

 五馬が首を(かし)げた。

「皆さん、何処(どこ)で知り合ったんですか? 制服違いますけど」

 五馬がそう訊ねると、

「幼馴染みだよ」

「家が近所なんだよね」

 綱と金時が答えた。

 三人と五馬は雑談を再開した。


 一頻(ひとしき)り話した後、

「六花ちゃん、もう遅いから帰るね」

 五馬が六花に声を掛けた。

「また明日ね」

 六花が手を振った。

「きゃ!」

 不意に五馬が何かに(つまず)いたのか転び掛けた。

 綱が急いで五馬に腕を回して五馬の身体を支えた。

 綱は嬉しそうな表情を浮かべると五馬の死角でガッツポーズをした。


 季武は五馬の足下を見て眉を(ひそ)めた。

 転びそうなものは何も無い。石も段差も。


 何も無い所で(つまづ)く事が無い訳では無いが……。


「大丈夫?」

 綱が嬉々(きき)とした表情で訊ねた。

「はい、()みません」

「家まで送っていくよ」

()いんですか!? 有難(ありがと)御座(ござ)います!」

 綱と五馬が並んで歩き出したのを季武達が見送った。

 邪魔する隙もないまま五馬の了解を取り付けてしまった綱を、金時と貞光が苦々しい表情で見送った。


 六花も金時と貞光に別れを告げて季武と家に向かっていた。

「ね、さっきの綱さんのガッツポーズって……」

「時期的にエリだろうな。キヨの可能性も無くは無いが」

「綱さんの恋人の? 五馬ちゃん、綱さんの恋人の生まれ変わりって事?」

「多分な」

 季武はそう答えながら内心で首を(かし)げていた。

 五馬に感じていた引っ掛かりはエリだったからだろうか。


 最近何処(どこ)かで似たような違和感を覚えた気がするが……。


 だが季武はイナ以外の人間に注意を払った事は無い。

 エリは綱と何度か恋人に()った人間程度の認識しかないから今までエリと会って何かを感じた事は無い。

 (いく)ら考えても答えは出なかった。


「五馬ちゃん、六花ちゃんと仲良いんだよね? 親友?」

 綱が歩きながら話し掛けた。

「親友だと思ってくれてたら嬉しいですけど、六花ちゃんは如何(どう)でしょう」

「季武が、五馬ちゃんと下校した次の日の六花ちゃん、(すご)く喜んでたって言ってたよ」

本当(ホント)ですか!? 嬉しいです!」

 五馬はそう言ってから、

「卜部君って無口な印象ですけど、綱さん達とは良く話すんですか?」

 と訊ねた。

「いや、俺達ともそんなに……。だけど季武(あいつ)って口下手な上に()……(ひと)の気持ちが分からないからさ、イ……六花ちゃんのこと相談してくるんだよ」

「告白の方法とか?」

 五馬が興味津々と言った表情で訊ねた。


「え!? ()だ告白してないの!?」

「付き合ってると思ってたんですか?」

「だって、どう見たって彼氏の態度じゃん」

「やっぱり(はた)からはそう見えますよね」

「じゃあ、六花ちゃんは付き合ってるって思ってないの?」

「違うって言ってましたよ」

仕様(しょう)がないなぁ」

 綱は呆れた(よう)に頭を振った。

(さっき)から六花ちゃんの事ばかりなのは、綱さんも六花ちゃんに気が有るとか?」

「まさか。季武に殺されるよ」

 綱が苦笑した。


「季武が六花ちゃんがクラスで孤立してる理由知りたがってるんだ。でも本人に『友達()ないの?』(なん)て聞いたら傷付くじゃん。だから他の誰かから理由が聞けないかと思って」

(それ)は卜部君には言えないですよ」

(なん)で?」

「仲間外れにされてるのは卜部君と仲良くしてるからです。卜部君が好きなのにそんなこと言う訳には……」

「季武と知り合う前から孤立したみたいだって言ってたけど」

「わたしが転入する前の事は……」

「そっか」

「良ければ理由、クラスの子達に(それ)となく聞いてみましょうか?」

本当(ホント)!? 助かるよ」

 綱が言った。


「じゃあ、連絡先教え……」

 二人は同時に言い掛けて笑った。

 連絡先の交換を終えると、

(あんま)頻繁(ひんぱん)に連絡しても迷惑ですよね」

 五馬が言った。

「そんな事ないよ! 季武並みにしつこく連絡くれて()いから!」

 綱が勢い込んで言うと五馬が再度笑った。

「卜部君ってしつこいんですか?」

季武(あいつ)完全にストーカー。GPSで六花ちゃんの居場所確認してたって貞光がドン引きしてたもん。俺も引いたけど……」

「あ! ()しかして、()の時……」

 五馬が思い出した(よう)に言った。

「何か有った?」

 綱が訊ねた。


「六花ちゃんと放課後お茶してたら『そろそろ帰れ』って連絡来た事が……。()のとき卜部君、近くに()ないのに如何(どう)して分かったんだろうって思ったんです」

「他の時も()ってるかもしれないけど、()の時は間違いなくGPSだよ」

 綱が呆れた(よう)に言った。

(あれ)()られて平然としてる六花ちゃんも(すご)いよなぁ」

 綱は信じられないと言う(よう)に頭を振った。

「じゃあ、こまめに報告しますね。卜部君並は無理ですけど」

 五馬の言葉に綱が笑った。


 帰宅した六花は母に頼まれて買い物に出た。

 季武は(それ)ほど遠くに行ってない(はず)だから連絡するか迷ったが、店は()ぐ近くなのに態々(わざわざ)引き替えしてきて(もら)うのも申し訳ない。

 六花は一人で店に行く事にした。


 買い物を終えた六花は十二社(じゅうにそう)通りを足早にマンションに向かっていた。

 真上の空の色を見ると日は沈んだばかりの(よう)だ。

 紺色と言えるほど深い青ではない。

 西の空は()だ明るい橙色(だいだいいろ)をしている(はず)だが西側の高いビルが残照(ざんしょう)を遮ってしまって地上はすっかり暗くなってしまっていた。


 ただでさえ()(がれ)(どき)なのに、その上こんなに暗いなんて……。


 道路の反対側は中央公園だ。

 マンションまであと少しの所まで来た時、鳥の声が聞こえてきた。


 こんな時間に鳥の声?


 普段は(これ)だけ暗くなったら鳥の声はしない。

 都内には大きな公園が多い為か意外と鳥の種類は多いがフクロウの(よう)な夜行性のものは()ない(はず)だ。

 少なくとも新宿に()ると言う話は聞いた事が無い。

 声が徐々に近付いている気がして振り返ると、巨大な翼が生えた大きな四つ足の生き物が六花に向かってくる所だった。


 黒い翼は暗くなった空に(にじ)んで形がはっきりしないが鳥の羽に似ている。

 羽ばたきの音が聞こえる距離まで来た時、()の生き物の姿が見えた。

 猿の(よう)な顔に、虎に似た太い四つ足、尾は翼と同じく夕闇の空に同化してしてしまい形は良く分からなかった。

 だが巨体だ!

 トラか、(それ)より大きな身体をしていた。


 まさか……(ぬえ)!?


 大型の異様な生き物が近付いてくるのを見て六花は慄然(りつぜん)として立ち(すく)んでいた。

 生き物の前足が両肩に掛かり六花の身体が持ち上げられた。

 (かかと)が地面から離れる。


 (さら)われる!?


 ()のとき黒い影が鵺に飛び付いた。

 影が鵺の首を(ひね)った。


 ゴキッ!


 と言う音と共に鵺の首がおかしな方向に|()じ曲がったかと思うと六花を掴んでいた力が抜けた。

 六花が道路に落ちる。

 尻餅(しりもち)を付いたが大した高さではなかったので怪我(ケガ)はしなかった。

 鵺の死骸も六花の横に落ちた。

 鵺を倒したのは見た事もない動物だった。

 中型犬くらいの大きさの四つ足の動物だが犬でも猫でもない。

 ()いて言えば猫に近い。

 と言ってもイエネコよりはずっと大きかった。焦げ茶色の短い毛が生えている。

 ()の辺でタヌキを見かけたと言う話を聞いた事は有るが、タヌキはもっと小さい(はず)だ。


 動物に詳しい訳ではないが人間界(こちら)の生き物ではないだろう。

 鵺は異界の者だ。

 季武が基本的に異界の者は異界の者にしか倒せないと言っていた。

 だとすれば鵺を倒した()の動物も異界の者だろう。

 だが鬼を見た時の(よう)な恐怖は感じない。

 むしろ親しみを感じる。


 助けてくれたからそう感じるだけかな?

 季武君と初めて会った時も怖いって思わなかったし、怖くないなら大丈夫だって思って()いのかな。


 動物は倒した(ぬえ)()い始めた。

 六花は動物の(そば)に膝を付いた。

 動物は脇目も振らず鵺を喰らっていた。

「ありがとう」

 六花は動物の背をそっと撫でた。

 動物は六花の方を見向きもせずに鵺を喰っている。

「ね、これ、鵺?」

 返事は無かった。

 動物は六花を無視して喰い続けていた。

 どうやら言葉は話せないか、話す気がないらしい。

 六花はスマホを取り出すと生き物にカメラを向けた。

 動物が喰い()くしてしまう前に写真に撮っておこうと思ったのだ。

 (しか)し画面には何も写らない。

 鵺を喰っている動物も含めて。

 予想通り()の動物も異界の者だ。


 やっぱり無理か。


 小さい頃、写真を()って見せれば鬼の存在を信じて(もら)えるかもしれないと思って何度か親のスマホやデジカメを持ち出してレンズを向けた事は有るのだが一度も写らなかった。

 家から勝手に持ち出す度に叱られたし写真には写らないので撮るのは諦めた。

 季武は写真など無くても鵺の事を信じてくれるだろう。

 頼政(の振りをした討伐員)が鵺退治をしたと言っていたから存在しているのは確かなのだ。

 不意に動物が空を見上げた。

 六花も()られて見たが目に映ったのはビルと星が(またた)き始めた深い紺色の空だけだった。

 ()のとき(うな)り声が聞こえた。

 動物が六花に向かって牙を()き、威嚇(いかく)していた。

 突如(とつじょ)敵意を向けられて戸惑っていると、動物は六花に対して唸りながら一瞬、視線だけ(さっき)の場所に向けた。


 まだ他にも危険な何かがいるって事?


 だから早く帰れと言う警告だと解釈した六花はマンションに向かって駆け出した。

 走りながら後方に目を向けた。

 動物は自分より遙かに大きな鵺を(くわ)えると一飛(ひとっと)びで大通りを渡り、次の跳躍(ちょうやく)で中央公園の木々の向こうに消えた。

 六花はもう一度、動物が目を向けた辺りを見上げてみた。

 やはり何も見えない。

 だが()の動物が食べるのを中断して六花を追い払ったのは屹度(きっと)何かがたのだ。

 六花は急いでマンションに入った。

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