表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

第五章 土蜘蛛と計略と ー前編-

 粗末の服を(まと)った人間の男が頭から血を流しながら歩いてきたと思うと目の前で倒れた。

 食料は狩猟採集に頼っているが森に囲まれ海も近い()の地では食うに困る事は(ほとん)ど無い。

 食料に困らないので集団での戦いは起きなかった。

 (しか)し感情は有るので個人同士の喧嘩は起きる。

 目の前で倒れた人間は近くの村で他の人間と(いさか)いを起こしたらしい。

 其処(そこ)へ一人の少女が()ってきた。

 少女は倒れている男の頭の傷を見ると、草叢(くさむら)へと()ってきた。

 草を()き分けて選んでいる所を見ると薬草を()んでいるのだろう。

 少女が顔を上げたとき目が合った。

 少女が微笑んだ。

 どうやら()の少女は〝見える〟人間らしい。

 ()して草を摘むと傷の手当てをした。

 やがて男が意識を取り戻した。

「大丈夫? ね、謝りにいこう。私も一緒に行くから。(これ)からはちゃんと働く(よう)にすれば許してくれるよ」

「嫌だね。(それ)より、此処(ここ)へ村の食い物をありったけ持ってこい。(それ)を持って他の場所へ行く」

駄目(だめ)だよ。食べ物は(みんな)で集め……」

「うるせぇ!」

 男が少女を思い切り殴り付けた。

 少女が地面に叩き付けられた。

 地面の石に頭部をぶつけたのだろう。

 少女は声もなく息絶(いきた)えた。

「ちっ」

 男は舌打ちすると()の場から立ち去った。

 大方()の男は乱暴な上に(なま)け者だったから村を追い出されたのだろう。

 村を追い出される(よう)な男を助けたりするからこんな目に()わされたのだ。

 馬鹿な人間。

 少女に背を向けると其処(そこ)から立ち去った。


 朝、六花がマンションを出ると季武が()た。

「季武君、どうしたの?」

 季武は六花のスマホはクローンが作られていると説明した。

「クローンって言うのがあると何か困るの?」

「LINEやメールを勝手に見たり出来る」

「ええ! どうしたら()いの?」

 夕辺の電話を考えると(おそ)らくクローンの悪用で季武に何か有ったのだ。

「クローンスマホは壊したが他にもクローンが有るかもしれないから番号も含めて別の機種に変えて欲しいんだ」

「う、うん」


 どうしよう……。


 季武に迷惑が掛かるなら変えない訳にはいかないが流石(さすが)に小遣いでスマホは無理だ。

 何より未成年では親が一緒でないと買えない(はず)だ。


 お母さんになんて言おう……。


「お前のスマホは補償に入ってるから壊れた事にすれば大した金額じゃない」

 六花の考えを見抜いた季武が言った。

「私のお小遣いで払える?」

「来月の使用料と一緒に引き落とされるからお前は払わなくて()い。親に暗示を掛けて変えた事は気付かれない(よう)にしておく」

 季武の言葉に六花は頷いた。


 昼休み、六花と季武は何時(いつ)もの(よう)に屋上に()た。

異界むこうの人同士で恋愛感情は持たないって事は頼光様の奥さん達も人間だったの?」

「ああ。(それ)が?」

「頼光様の血を引いてる人は強いのかなって思って」

(ぬえ)退治の事なら(あれ)(みやこ)の討伐員だ」

「でも頼政さんって、頼光様の子孫じゃ……」

「異界の者と人間の間に出来た子供は普通の人間だ。(ぬえ)退治の時だけ暗示を掛けて入れ替わったんだ。人間に鵺退治は無理だからな」

「そうだったんだ」


 そう言えば『平家物語』には最初、頼政は化物退治は武士の役目ではないと断ったと書いて有った((それ)でも命令されて仕方なく引き受けた)。

 (それ)に『源平盛衰記(げんぺいじょうすいき)』では頼政の前に命じられた石川秀廉(ひでかど)が断って面目を失ったと有った。


 昔の人でも化物と戦おうなんて考えないのが普通だったんだ……。


 民話研究会で頼光から始まる家系は化物担などと言っていたのだが誤解だった(よう)だ。

 頼光は化物担で間違いないが。


 放課後、六花は民話研究会に出ていた。

「他に、鬼の事で何か意見がある人は?」

 鈴木の言葉に六花は手を上げた。

「あの、意見じゃないんだけど……」

「どうぞ」

「茨木童子が酒呑童子の腹心だったって言うのは聞いた事あるけど、他に酒呑童子の部下にそう言う鬼っていたの?」

「資料は少ないけど酒呑童子にも茨木童子とは別に四天王と呼ばれる鬼がいたよ」

 鈴木に()ると、金童子、熊童子、星熊童子、虎熊童子だそうだ。

「それとは別に『い()しま童子』って言うのもいたよね」

「『いし()ま童子』でしょ」

「色んな説があるんだよ。『い()しま童子』ってなってるのもあれば『いし()ま童子』ってなってるのもある」

「そうなんだ」

「じゃあ、今日はこの辺でお開きにしようか」

 鈴木がそう言うと、皆は立ち上がって其々(それぞれ)自分が座っていたパイプ椅子を畳んで片付けた。


 都心から離れた場所で土蜘蛛達が集まっていた。

「仲間に()ってくれそうな奴は見付からないのか?」

 サチの問いに(みな)一様(いちよう)に首を振った。

「どうせ討伐員は倒した所で異界(むこう)で再生されるんだし、(それ)なら危険を(おか)すだけ無駄だからって……」

 ギイが答えた。

「仮に核を砕いたとしても新しい討伐員を送ってくるだけだと」

此方(こっち)も」

 土蜘蛛達が口々に言う。


 討伐員は核に()って異界(むこう)へ戻った所で再生してすぐ戻ってこられる。

 (それ)に対し、()ぐれ者は倒されて異界(むこう)へ戻ったら核を砕かれて二度と再生出来ない。

 返り討ちに遭う危険を冒して討伐員を倒した所で利益(メリット)は一つも無いのだ。


(しか)も相手が頼光四天王(あいつら)って聞くと(みんな)びびっちまうんだ」

態々(わざわざ)獲物(えもの)が多い東京(ここ)()けてるのも頼光四天王(あいつら)()るからだし」

「脈が有りそうな(ヤツ)()るよ」

 皆の視線がメナに集まった。

「説得すれば仲間に()ってくれるかもしれない」

「人数が増えるなら()気付(けづ)いてる連中の中にも仲間に()ってくれる(ヤツ)が出てくるかもな」

何方(どちら)にしろ()の人数では敵わないんだ。もっと捜すしかない」

 サチがそう言うと(みな)散っていったが、エガは()の場に立ち()くしていた。


「エガ? 迷ってるの?」

 何時(いつ)もエガと一緒に()るカズが訊ねた。

「ギイが言った通りだ。討伐員なんて倒した所で異界(むこう)で再生するだけだ」

「抜ける気?」

「まさか」

「じゃあ……」

「少し卜部(あいつ)の様子を(さぐ)る」

 エガはそう言うと歩き出した。


 日曜日、六花が夕食を作っている時に季武以外の三人が帰ってきた。

「お帰りなさい」

 六花が三人に声を掛けた。

「うぉ! お帰りなさいとか言われたの(すげ)ぇ久し振り」

「季武は必ず言って(もら)えるから()よなぁ。おれ、(ほとん)ど言われた事ないんだよね」

「キツい女ばっか選ぶからじゃん」

「お前の女達だって結構キツいだろ。特にキヨちゃんとか」

 言い合いを始めそうに()った金時と綱に、

「季武君は……」

 と訊ねた。


「買い物。()ぐ帰ってくるよ」

「あの、教えて欲しい事があるんですけど……」

()いよ、何?」

「二十年前に死んだ前世の私の事なんですけど……」

「前回か。前回って言うと亜美(あみ)ちゃんだっけ?」

美也(みや)ちゃんじゃね?」

(あや)ちゃんだろ」

 貞光が訂正した。


「そうだった。御免(ごめん)、季武と知り合った直後だったからおれ達、()だ紹介して(もら)ってなかったんだよね。綾ちゃんが如何(どう)かしたの?」

「季武君と一緒にいた時に死んだって聞いたんですけど、罪悪感持つような殺され方だったんですか?」

「え、聞いてないの?」

「ったく、彼奴(あいつ)本当(ホント)大事(でぇじ)な事言わねぇよな」

「罪悪感は無いと思うよ。守れなかった悔しさは有るだろうけど」

 金時が言った。

「季武が怒ったのは(ようや)く再会出来たのに()ぐ殺されたからだよ」

「怒った?」

 綱の言葉に自分(イナ)に腹を立てたのかと動揺し掛けたが、

(すっげ)ぇ激怒して綾ちゃん殺した鬼、異界(むこう)まで追っ掛けてって倒して核(くで)ぇた」

 と貞光が言った。


異界(あっち)には異界(あっち)の担当者が()るから異界(むこう)に逃げ込んだら俺達の担当じゃなくなるんだよ」

「核の事も、どうせ砕かれるって言ってもおれ達が決める事じゃないから越権行為(えっけんこうい)なんだよね」

(あと)を付けてる相手って言うのは特別なんだよ。生まれ変わっても見付けたいって事じゃん」

 綱が言った。

「寿命まで生きられたとしても一緒に()られるのは長くて四、五十年じゃん。(しか)も死んだら生まれ変わって再会出来るまでに同じくらい掛かるから一緒に()られる時間って言うのは一秒でも貴重なんだよ」

「お(めぇ)、貴重っつってる割には他の女に手ぇ出してるよな」

 そう言った貞光を綱がムッとした顔で睨んだ。


「じゃあ、何かと心配してくれるのは鬼から守れなかった負い目とかじゃ……」

「心配してるのは、(また)早死にされるのが(イヤ)だからだろうね」

「前回は季武の巻き添えだったから早めて(もら)えたけど普通の死に方じゃ無理だから」

「早めて(もら)ったっつっても二十年も掛かってるから半分にも()ってねぇしな」

「綾ちゃんの前のイナちゃんが死んでから四十年近く()って、(ようや)く綾ちゃんと会えたと思ったら死んじゃって、其処(そこ)から二十年。ほぼ人間の一生分待ってた訳だからね」

()(かく)、綾ちゃんの事は気にしなくても()いよ」

「気にしてんじゃなくてウゼェんだろ。見付(みっ)けた途端、学校移って同じクラスの隣の()……」

「あっ、馬鹿(バカ)!」「わーーー!」

 金時と綱が同時に貞光を遮った。


「え……それ……」

「あ、あははは……」

 白々しい笑い声を上げた金時と綱を貞光が白い目で見ていた。

「じゃあ、心配掛けないようにするには……」

「あ~、(それ)は無理」

季武(あいつ)が勝手に付き(まと)ってるだけだかんな」

鬱陶(うっとう)しいなら、はっきりそう言って()いよ。おれ達はキツいこと言われも傷付くとかそう言う感情は無いからね」

「鬱陶しい訳では……それに、感情が無いって言いますけど季武君、怒った事ありますよ」

「傷付くって言うのは外側から斬り付けるようなもので、おれ達は言葉で攻撃されても何も感じないんだよ」

「人間だって其処(そこ)らの犬に()えられても傷付かねぇだろ」

「貞光、例えが悪いぞ」

 綱が(たしな)めた。


「人間を見下してる訳じゃないからね。()の手の差別感情も持ってないから。理由は分かっても(それ)で傷付いたりはしないって意味だからね」

「向きが違うって言うのかな。外部からの攻撃で痛みを感じたりはしないけど、怒りは内部から沸いてくるものだから、大切な人を傷付けられたら腹が立つんだよ」

 綱が言った「大切な人」と言う言葉にドキッとしてしまったが、仮に綾の事が大事だったとしても六花も同じ(よう)に思われてるとは限らない。


 でも、わざわざ同じクラスに来たって……。


 六花は平静を装いつつ料理を続けた。


 放課後、民話研究会が終わると、

「六花ちゃん、今日も季武君と帰るの?」

 五馬が声を掛けてきた。

「ううん、季武君は用事あるから」

「じゃあ、一緒に帰ろ」

「うん!」

 六花は嬉しくて勢いよく頷いた。

 季武と一緒に下校するのも嬉しいが五馬と帰るのも楽しい。


 六花と五馬は並んで校門を出た。

「ね、何処(どこ)かでお喋りしてかない?」

 五馬がそう誘ってきた。

「ベンチで()い?」

 体操服でお小遣いを(はた)いてしまったので飲食店に入れるだけの金が無い。

()いよ、コンビニでお茶買って近くのベンチ行こ」

 五馬が快諾してくれてホッとした。

 幸いゴールデンウィーク明けで季候も()い。


 コンビニから出てきた六花をエガとカズが見ていた。

「エガ?」

 カズが物問いたげな視線をエガに向けた。

 エガは都内に残ったまま季武を見張っていた。

 カズは何時(いつ)もエガと行動を共にしているので必然的に一緒に監視する事に()った。

 サチやメナほど上手く気配を消せない二人は遠くのビルから見張る事しか出来なかったが。

「ハシの事は聞いてる?」

 エガが唐突に訊ねてきた。

「討伐員に殺されたって事だけ……」

 ハシが()られたのはカズが群れに加わる前だから会った事は無い。


「あたしもハシとは親しかった」

 ミツはハシを慕っていた(よう)だが、エガとミツは特に親しくない。

「ミツはハシが連れてきた。ミツはハシを(すご)(した)ってた」

 不思議そうな表情をしたカズにエガはそう説明すると一旦言葉を切って唇を噛んだ。

「ミツが討伐員に()られそうに()った時、ハシとあたしが助けに入った。ハシはあたしとミツを逃がす(ため)に戦って()られた」

「…………」

 異界の者同士が恋愛感情を(いだ)く事は無い。

 だが仲間との連帯感は生まれるし(きずな)も出来る。

 だから失えば喪失感を(いだ)くし奪った者には憎しみを覚える。

 討伐された者は核を砕かれて再生出来なくなるから二度と会えないのだ。

 一緒に()た期間が長ければ長いほど討伐した者に対する(うら)みは深くなる。


 突然エガが屋上から飛び降りた。

「エガ! 何処(どこ)に行くの!」

 カズが声を掛けたがエガは()のまま走っていってしまった。

 カズは慌ててエガの跡を追い掛けた。


 六花と五馬はコンビニで買ったお茶を持って歩いていた。

「六花ちゃん、彼処(あそこ)のベンチ、空いてるよ」

 五馬がそう言った時、六花の背筋を悪寒が走った。

 振り返った六花は恐怖で凍り付いた。

 道路の先に巨大な蜘蛛が()此方(こちら)に顔を向けていた。

「六花ちゃん……」

 五馬の声で我に返った。

 六花は(なん)とか震える手を動かした。

 スカートのポケットに手を入れスマホを取り出すと季武に言われたアイコンを押した。

 巨大な蜘蛛が此方(こちら)に向かって歩き出した。


 蜘蛛が近付いてくる。

 逃げなければ季武が来る前に喰われてしまう。

 そう思っても身動き出来ない。

「六花ちゃん?」

 再度声を掛けてきた五馬に、(なん)とか手を動かして自分のスマホを押し付けた。

 逃げたくても足が動かなかった。

「逃げて」

 六花が小さな声で五馬に言った。

「え?」

 五馬は戸惑った様子で六花を見た。

「それ、持って逃げて。早く……」

 声が(かす)れているのが分かった。

「え、(これ)? (なん)で?」

「GPSで場所が分かるから……。スマホがある所に季武君が助けに来てくれる……」

「六花ちゃんは?」

 そう言ったものの聞くまでもなかった。

 足が(すく)んでるのだ。


 六花が、躊躇(ちゅうちょ)している五馬を再度逃げるように(うなが)そうとした時、近くの建物から幼児が出てきた。

 子供は蜘蛛の進路上に歩いていく。

 ()のままでは蜘蛛に喰われるか()(つぶ)されてしまう。

 六花は咄嗟に駆け出した。

「六花ちゃん!?」

 五馬が驚いて声を上げた。

 六花は子供に駆け寄ると抱き上げた。

 蜘蛛に背を向けて走り出す。


 子供は(さら)われると思ったのか大声を上げて暴れ出した。

 六花は構わず(かか)えて走った。

「五馬ちゃん、早く逃げて!」

 六花が子供を()いたまま叫んだ。

「早く!」

 六花に()かされた五馬も走り出したが子供を()いている六花は速く走れない。

 少し走っただけで距離が空いてしまった。

 五馬は立ち止まって六花の方を向いた。


「五馬ちゃん、早く逃げて!」

「でも、六花ちゃん……」

 蜘蛛は六花の()ぐ真後ろまで迫っていた。

 蜘蛛が脚を振り(かぶ)った。

 六花は気付かずに走っている。

 蜘蛛の狙いは六花だ!

 六花を殺そうとしている!


「六花ちゃん、危ない!」

 五馬が叫んだ。

 六花が振り返った。

 振り(かざ)された脚を見た六花も自分が狙いだと悟った。

 六花は急いで子供を降ろすと蜘蛛と反対側の方へと背中を強く押した。

 子供がよろめきながら数歩前に進んだ。

 六花が、

「逃げて!」

 と叫ぶ前に子供は走り出していた。

 蜘蛛の脚が振り下ろされる。


「伏せろ!」

 季武の声と共に飛んできた矢が蜘蛛の目の一つに突き立った。

 蜘蛛が叫び声を上げた。

 蜘蛛の脚に次々と矢が刺さり軌道をずらした。

 狙いを()れた脚が六花を(かす)めて()ぐ脇に突き立った。


 矢が立て続けに飛んでくる。

 蜘蛛が後ろに跳んだ。

 着地した瞬間、貞光の刀が一閃して蜘蛛の左脚を二本同時に斬り落とした。

 金時も鉞で胴に斬り付けた。

 六花の横を駆け抜けた綱が大きく跳んで髭切(ひげきり)太刀(たち)で頭を真っ二つにした。

 蜘蛛が断末魔の声を上げて消えた。


 季武が何処(どこ)からか飛び降りてきて六花の隣に着地した。

「季武君、ありがとう」

 他の三人も駆け寄ってきた。

「六花ちゃん、大丈夫?」

「はい、皆さん、ありがとうございました」

 六花は四天王に頭を下げた。

「六花! 伏せろと言われたら伏せろ!」

「季武!」

「ご、ごめんなさい」

 六花が季武に頭を下げた。


(ちい)せぇのでさえ(こえ)ぇ六花ちゃんが()んなデケェの見て動けるわきゃねぇだろ! ちったぁ、考えろ!」

「いえ、言うとおりにしないと邪魔になるんですから……」

「怖い時に動けないのなんか普通じゃん」

「そうそう、気にしなくて()いよ。無事で良かったね」

 ()の時、(さっき)の子供を連れた女性が二人の警官と一緒に()ってきた。

「この子がうちの子を(さら)おうとしたんです!」

「え! ち、(ちが)……」

 六花が慌てて否定しようとした。

「あれ、()しかして()の子助けた?」

(また)か~」

 季武以外の三人が一斉に笑った。

 如何(どう)やら過去にも似た(よう)な事が有ったらしい。


 それも多分何度も……。


 六花は赤面した。


 でも見殺しにするなんて出来ないし……。


 綱達は隠形(おんぎょう)らしい。

 警官は笑っている三人には目もくれなかった。

「君……」

 警官の一人が六花に声を掛けた。

 季武は警官達の前に立つと手を(かざ)して何か呟いた。

 すると警官達も女性と子供も何事も無かったかの(よう)に立ち去った。


「一応、警察の方も手を回しておいた方が()いな。訴えを受け付けた記録が残ってると面倒だ」

「お手間を掛けさせてしまってすみません」

 六花が申し訳なさそうに頭を下げた。

(これ)がオレ達の仕事だから」

「仕事って言っても小吏(しょうり)に連絡するだけだしね」

「しょうり?」

「係って言うか担当者って言うか……」

「役人って意味だよ。こう言う時に辻褄合(つじつまあ)わせする役目の者だね」

 六花は納得して(うなず)くと辺りを見回した。

如何(どう)かした?」

 金時が声を掛けた。

「五馬ちゃんと一緒だったんですけど……。逃げてくれたのかな」

「…………」

 季武は周りの気配を探ったが近くには()ないようだ。

「送る。あと明日からは送り迎えする」

「……うん」

 六花は咄嗟に断りかけたが()しかしたら再度狙われるかもしれないと思って承諾した。

 綾が再会直後に死んだ上に六花までとなったら嫌われてしまうかもしれない。

 生まれ変わったら覚えていないとは言え、(それ)(イヤ)だった。

 次に生まれてきた時(また)好きになるかもしれないのだ。

「それでは皆さん、失礼します」

 六花は綱達に再び頭を下げると、もう一度周囲を見て五馬が()ないのを確かめてから季武に()いて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ