表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

読みやすい短編集

バックホーム!!

作者: 鯰川 由良

日差しの降り注ぐ地方球場のスタンドには、ちらほら人影が見える。


夏の暑さを思い出させるように日が照りつける、六月。まだ少ない蝉の声が微かに聞こえる。そんな甲子園の地方予選。


まだ地方予選の二回戦ということもあって、応援とかはほとんどないけれど、そんなことはグラウンドに立つ僕らにとっては関係なかった。


ただ汗を流しながら白球を追うことだけに、僕らは集中し、熱中していた。


プレイボールが宣告されてから、はや二時間。


試合前は汚れていなかったスパイクも、今は砂埃を被って、その色を変えている。


試合はロースコアのまま進み、とうとう9回の裏、相手チームの攻撃を迎えた。2対2。序盤に両チームが2点を取り合って、そのまま試合が進んでいる。


二死一塁。二つのアウトを取ってからフォアボールで出してしまったランナーが、真剣な面持ちで少し広めのリードをとっている。


マウンド上には、1と書かれたのゼッケンが見える。右手にボール。彼はそれを指先でいじってから、隠すように、左手にはめたグローブの中におさめた。


それを僕は斜め後ろから眺めていた。

一塁ベースと二塁ベースの間。定位置よりは少し深い、硬い土のうえ。


眼前のマウンド上の背番号1が、投球モーションに入る。


セットポジションから、左足をスライドさせ、素早く足をバッター方向へと踏み出す。



投げた!!


しなる腕、その指先からリリースされたボールは、キャッチャーの構えたミットを目指して進んでいく。


いや、少し狙いよりも高いか……!!



そのすぐ後、球場内に気持ちのいい金属が響いた。



球場のフェンスに何度も共鳴したように、その音が耳の中で幾度となく反響した。


打球は……!?


さっきまでホームベースに向かっていた白球は、無常にも跳ね返され、僕の遥か上を通過していった。


センターっ!!


打球を追う背番号8は、後ろ向きに走る。グローブをはめた腕を振って、足を目一杯に回転させて走る。


追いつけない


打球が、外野深くの芝生に落ちた。


一塁ランナーは、既に僕の近くを通り過ぎて、二塁ベースを優に回っている。


フェンスにまで達したボールにやっとセンターが追いついた。


中継!!


走るスピードがあまり落ちないまま、ランナーが三塁ベースを回った。


はやく────


センターから、僕のもとにノーバンの返球が届いた。


使い古して柔らかくなったグローブが、ボールの勢いでしなる。


ボールを左手から右手へ。


間に合え─────


キャッチャーが中腰で、こちらをじっと見据えている。


そのキャッチャーが構えるミットを目掛けて、僕は、腕を、目一杯振るった。


僕の指先から放たれたボールは、硬い土に影を落としながら真っ直ぐ進んでいく。


時間が、ひどく遅く流れているように感じた。


周りの雑音が、シャットアウトされて、その白いボールだけに、全ての集中が向いた。


ボールの縫い目まではっきりと見える。


ランナーが、ホームを一点に見つめる僕の視界に入った。


ランナーが白いホームベースに滑り込む。


土煙が舞う。


相手ベンチからとぶヤジとか声援とか、そんな音は聞こえずに、ザザッという音だけが、鋭く僕の耳に響いた。


それから少しして、次はミットにボールが届く音。


こちらは、音が鈍い。



直後、甲高いサイレンが短く、球場全体に鳴り響いた。





読んでいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ