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高瀬川物語(仮)  作者: 日尾昌之
7/8

故郷

三か月前のある日、締め切りが迫っていたコラムの添削が済んだのが、午前3時を回っていました。その日、元ツレは、また、何も言わずに外泊をしていました。この頃は、それは日常的になっていたので、あまり気にもしませんでした。

お風呂に入った後、キッチンのテーブルで、スマートフォンでヒーリングミュージックを聴きながら柿の種をおつまみにして500mlの缶ビールを飲んでいたら、いつの間にか寝てしまっていたようでした。

そして、目が覚めたて、最初に見えたのは、レースのカーテンから射し込んだ明るい太陽の光でした。

でも、スエットのまま寝たはずなのに、何故か私の背中にはブランケットが掛けられいたんです。

元ツレが帰って掛けてくれたかなと思ってリビングや寝室やバスルームに行っても誰もいませんでした。

そして、ふと、キッチンのテーブルの上をみると、あの地獄から出て自由になれる通行手形が置いてあったんです。そこには、既に元ツレの印鑑が押してありました。今から思うと、私がその通行手形に印鑑を押すまで三か月もかかったんですね。別に、ブランケットを掛けてくれたぐらいで元ツレには、未練はありませんでしたが、憧れていた結婚生活に未練があったのかもしれません。

クライアントに出来上がった文書をメールで送信した私は、無性に母が死んでから高校を卒業するまで育った横須賀の児童養護施設に行きたくなり、気がついたら、スマートフォンを耳に当てていました。


「もしもし、おはようございます。三浦と申しますが、施設長の藤村様はおられるでしょうか?」


今の施設長は私の居た頃は、一緒に暮らしていた5歳年上の兄貴的な存在の若者だったんです。

彼は、交通事故で両親を亡くした交通遺児なんです。時々、電話では近況を報告をしていましたが、なぜが、高校を卒業してから、この土地には足が向かず、この日は24年ぶりの横須賀でした。

でも、横須賀の海は、あの頃と変わらず、この時の高瀬川のように波が太陽の光を浴びてキラキラと輝いていました。

せっかく来んだからと、忘れかけていた記憶を辿って母と暮らしていたアパートを見に行く事にしました。でも、行ってみたら、案の定、そこはコインパーキングになっていました。ふと、空を見上げるとそこには、子供の頃に見たのと同じ青い空が広がっていました。


「自然は変わらないよね。変わっちゃうのは人間だけか…」


そんな事も思いながら懐かしい住宅街の坂道を上っていたら、あの鉄筋コンクリート造の二階建て白い建物が見えて来ました。


「つくし学園」


ここが、思春期の頃の私の避難場所です。

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