不倫の理由
「頭が… 痛い…」
翌朝、ゲストハウスのベッドの中で、二日酔い特有の頭痛で目が覚めました。でも、この時の痛みは、やけ酒での二日酔い時とは、また、違った痛みに感じました。痛いけど、何か気持ち良かったんです。
この時、京都には二泊する予定でした。別に、私の仕事は、リモートでも出来るのですが、地獄にある家の後始末もあったので、そう長居も出来なかったんです。
「あれから、どうしたんだっけ?木屋町のラーメン屋でおじさんにナンパされて…えっ!」
と、私は、思わず、横を振り向きました。
「良かった…」
隣に、おじさんが寝ていなかった事に、ひと安心した私の手はスマホへと伸びていました。
「早紀、ちゃんと帰ったかな?」と、元ツレからラインが来てました。
「ありがとう… それだけ? 他に言う事ないのかなぁー それもラインって、今更、声聞きたくはないとは思うけど、電話ぐらい出来ないのかなぁー あのマンションどーするのよ! 頭金の半分と毎月のローンの半分、私が出したんだからねぇー 震度7でも大丈夫な あのマンション半分にぶった切りますか!もう!」
この時、この怒りのせいもあって、昨日の奇妙な出来事は、すっかり忘れていました。
それに、二日酔いするほど、お酒を飲んだら、自分に都合の悪い事を忘れらる事も私の得意技なんです。
私は、朝のコーヒーブレイクをする為に、春の朝のひんやりとした空気の中、四条大橋を東から西へと。時刻は、9時45分。この時の行き交う人間達や車は、昨日と違って、目的があるように見えました。そして、私の足は、満開の桜の下を静かに流れる高瀬川に向ていました。
「元ツレとは、どこにでも転がっている様なごく平凡な出会いでした。彼は広告代理店の私の担当者で、打ち合わせでちょくちょく会ってる内にランチに誘われたのが始まりでした。ルックスとか性格とか、いろいろ妥協点はありましたが、四十路前の彼の強引なアプローチに根負けしてズルズルと付き合っている内にランチからディナーへディナーからブレックファートへ。不倫相手と全く同じ。笑っちゃいますよね。今更なんですけど、私はランチに弱いようです。前にお話した通り、私は母子家庭と施設で育ったので、平凡な家庭に憧れていました。優しい夫とやんちゃな息子とおちゃめな娘に囲まれて家事に追われながら年をとって行く、そんな平凡な人生を送るのが理想だったんです。元ツレとツレになった時は、彼が、その夢を叶えてくれそうな気がしてたんです。ほんと、人生って、出来が悪い映画の様ですね。」
ふと、気がついたら、昨夜のあのお店の前に立っていました。
「ノスタルジア…」