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第11話 法力楽器オルガノン

「久しぶりだけど、なまってないかなぁ……」


 私は棚から楽器ケースを下ろすと、中から小型の管楽器を取り出した。長さの違う細い金属パイプを何本も束ねたような形をしたそれは、和楽器の笙の笛に似た形をしている。顔の前に捧げ持ち息を吹き込むという演奏スタイルも、そっくりだ。音色についてはライトなパイプオルガンという感じかな。


 だがこのオルガノンが笙や地球の他の楽器と大きく異なる点は、音程の操作にある。手指を使って操作するのではなく、法力操作で音色を変えるのだ。


 フィリウス教の総本山があるカタロニア法国でのみ作られるこの楽器は、元々は教会に設置されているふいごで風を送る大型のものだけだった。

 だがその後小型化の成功により、一気に貴族のご家庭に普及した。なぜならこの楽器の演奏にはイメージした音を正しく出すための精密な法力操作が必要で、法術の基礎練習に最適だったためである。

 特にここガリアではあまり女人が人前で法術を使う機会はないため、オルガノン演奏は法力量や操作技術をアピールする数少ない場面なのだ。


 私は椅子に座って楽器を捧げ持つと、両手の指をぴんと伸ばしてフィリウス教の祈りのポーズをとった。食前の祈りの時は楽器なしでとるこのポーズ、由来は聖杯を捧げ持つ姿らしいが、どうみても咲いた咲いたチューリップのポーズである。


 私は内心苦笑しながら大きく息を吸うと、オルガノンに息を吹き込んだ。この楽器は教会音楽の演奏用に作られており、教会音楽は地球の西洋音楽によく似た七音音階だ。だがピアノのように固定の音が出るのではなく、弦楽器のように音程の調整は自力である。


 さらにそれがパイプの数だけ同時に出せるのだが、何本ものパイプを同時に鳴らすのはとても難しい。多くの人が二、三音が限界だ。まあこの私ほどともなれば、六音くらいまで同時にいけるけどね! ……まあ、ゆっくりならだけど。


 ん? これほど似てる……ということは、イメージさえしっかりできれば地球のどんな曲も再現可能ということだ。私はドレミファソラシド、と一通り吹きならすと、何となく頭に浮かんだ熱血大陸のテーマを吹いてみた。


 うわー、めちゃくちゃテンションあがる!


 子どもの頃ちょこっと習ったピアノはものにならなかったが、幼かったおかげか音感はけっこう鍛えられていたようだ。

 調子に乗って熱血大陸のテーマを心ゆくまで吹き終えると、私は前世ではあまり感じられなかったやる気がふつふつと湧いてくるのを感じていた。


 そうだ、やることがないのではない。怒られそうだから、できることがないと思い込んでいたのだわ。少々怒られたっていい。面倒くさがらず、怒られてから考えればいいのだ。


 そうと決まったら、ミヤコが持つ地球の知識と経験を活用して何とかお金を稼げないだろうか。私の社交界デビューはすぐそこに迫っているが、最低限の準備をするにも今のままでは新たな借金が必要だ。そしてなにより、おじい様の銀杯だけはなんとしてでも買い戻してあげたいという希望もあった。


 この世界の植物や動物は、基本的に地球と同じようだ。違う点といえば、魔法とその影響下にある魔族や貴族の存在くらいだろうか。


 でも、予算も、材料も、外出の自由すらないのよね。

 どうにかして突破する方法を考えないと……。


 結局部屋を飛び出す前に脳内シミュレーションを重ねてしまうのは、保守的なアラサーの悪い癖である。でもセーブもリセットもできないのが、人生なのだ。どうしても慎重になってしまうのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] > 鍛わって これ方言なので一般的には通用しません (鍛えられて or 備わって)
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