差された油「デート」
ここ最近、シリアス続きで心身ともに疲弊していた俺に、素晴らしい行事が舞い降りた。
何かというと、それは『デート』である。
……は、どうせデート (笑)か、デート (偽)でしょ? って思うじゃん?
残念ながら違うんです。本当に本当にデートなんです!
一番驚いているのは俺なので、お願いだから舌打ちしないでください。
ここまでひどい目に遭ってきたから、たまにはご褒美的なものがあってもいいでしょ?
……なーんて。
蓋を開けてみれば、そんなウキウキ感たっぷりのイベントではなかった。
というか、蓋を開けられなかった。蓋にはガッチリとした接着剤が付いていて、今の俺には中を知る術がない。
何を言ってるか分からないよね。俺も正直いろいろとよくわかっていない。
兎にも角にも、俺は今、四ノ宮とデートをしている。
昨日の放課後、『相談者は私』と言い放った四ノ宮が続けたセリフがこうだ。
『冬根君! 私とデートをしてちょうだい!』
相談でもなんでもない、ただの命令だった。
臆することなく堂々とそう言い放った四ノ宮に一番驚いていたのは凛堂だった。
アイツ、椅子から転げ落ちたんだぜ?
その弾みで凛堂の手から空に放られた本の角が俺の頭頂部にクリティカルヒットして、今でも触ると痛いたんこぶができている。
「冬根君は何を頼むのかしら? 私はこのパフェにするわ!」
たんこぶの歪な形を確認するように撫でながら昨日のやり取りを思い出していた俺に、明るくいつも通りの四ノ宮ラウドボイスが届く。
今現在俺たちは街の小洒落たカフェに来ていた。
「あー、それじゃ俺はこのアメリカンで」
どうして俺は今四ノ宮とデートをしているんですかね。
呼び出しボタンを押してすぐに現れたシックな制服の店員に注文を告げる四ノ宮を見つめながら、さっきから俺は心の中にクエスチョンマークを大量生産することしかできていない。
それにしてもだ。
四ノ宮の私服にはやられた。
ただの猪突猛進バカと言ってしまったことを詫びたくなるほどの目を奪われる女の子らしい可愛い服装で、しかもそれを着こなしていてとても似合っている。
それにしても四ノ宮がえんじ色のスカート穿くとは……しかも黒タイツ。黒タイツですよ?(知らんってば)
舌を巻くレベルの女の子らしさに、四ノ宮の本気度が窺える。
ということはやっぱり、これはガチのデートってことですよね?
……いやだからなんで? どういうこと?
「冬根君! この後、行ってみたいところがあるんだけれど。付き合ってもらえるかしら?」
「おう? いいけど」
四ノ宮がそれなりに巨大なパフェを食い尽くしてカフェを出た後、四ノ宮の先導のもと少し歩いた。
たどり着いたのは大型のゲームセンターだった。
「むむむ。一度は入ってみたかったのよね。さ、冬根君! いきましょ!」
「お、おう。……ッ!」
四ノ宮は唐突に、棒立ってゲーセンのサイバーな看板を見上げる俺の手を掴んできた。
というか握ってきた。
小さいのに温かく、やわらかい手だった。
――女の子と手を握ってしまった!!
琴美に腕を絡められたことはあれど、手を握ったのは初めてで、高揚感が全身を駆け巡る。
え、なにこれ、デートってこんな感じなの? 超楽しいんですけど!?
引っ張るようにして先を歩く四ノ宮の表情は見えないが、ポニーテールが大幣のように激しく揺れている様が四ノ宮の興奮状態を表している。
「冬根君! あれは何?」
唐突に止まった四ノ宮が指をさしたのはリズムゲーム。所謂『音ゲー』と呼ばれるものだった。
「あれは、音楽に合わせてあの矢印のパネルを踏むゲームだよ」
「むむむ、面白そうね。一緒にやりましょう!」
「マジかよ……いいけどさ」
画面上に流れ来る大量の矢印にてんやわんやしながら激しめに動く俺と四ノ宮。
急に我に返ってなんだか面白くなり、俺はゲームそっちのけで爆笑してしまった。
「な、なによ! どうしたのよ冬根君! そんなに私の動きが変だったかしら?」
「――……はぁ! いや、そうじゃなくてさっ。なんか面白くて」
「どういうこと?」
四ノ宮も動きを止めて首を傾げる。
直後、画面には『STAGE FAILED』の文字が表示された。要するにゲームオーバーらしい。
「いや、純粋に楽しいんだよ。四ノ宮とこうやって遊ぶの初めてだし、新鮮だけどさ。すごく楽しいよ」
「そ、そう?」
四ノ宮はらしくもなく上目遣いで俺を見上げて頬を赤く染めた。
なにそれめっちゃ可愛いなおい。今までコイツ見てそんな風に思ったことはなかった。
やっぱりデートはこうでなくちゃな!
今までの某二人とのデート (?)がおかしかっただけだ、うん。
「私も、冬根君とデートできて楽しいわ」
「……お、う」
何その乙女な表情と仕草! ちょっと待ってあなた本当に四ノ宮さん!?
「――でも! 折角だからこのゲーム、クリアするまでやりましょう! ゲームオーバーのまま辞めたくないわ!」
……おお、この驀進的スタイル、間違いなく四ノ宮さんでした。
ちょっと悔しそうな顔の四ノ宮に俺も勇ましい笑顔を向けてから、
「もちろんだ。クリアするまでやろう」
◆ ◆ ◆
おいふざけんなよ誰だよクリアするまでやろうとか言ったやつ。
俺ですね、すいません。
結局、しっかりとクリアできるまで十回近くも挑戦し続け、俺と四ノ宮は体力と財布の中身を失い、疲労と汗を獲得した。
これ定期的にやってたら引き締まった身体になるんじゃないかってくらいだ。DDRはスポーツです。
今現在俺と四ノ宮は傍の自動販売機で飲み物を買ってから、ベンチに座って休んでいる。
「はぁ。冬根君、楽しかったけどものすごく疲れたわね。これがゲームセンターの洗礼、というやつね!」
「いや、違うと思うけど」
甘めのスポーツドリンクを飲みながら俺は考えていた。
普通に楽しくて新鮮で、デート最高! な気分だが、その実このデートが一体何を意味しているかが全くもってわからない。
四ノ宮が相談と称して命じてきたこの『デート』。
これはどういう意味を持っている?
「さあ冬根君! ここからが本番よ!」
「どこからがだよ。今までは違ったのか?」
「あれ! あれを一緒にやるわよ!」
ビュンと指を向けた先にあったのは……。
「マジ?」
「マジよ! 二人でやりましょう!」
フォトショ○プでバチバチに加工されているようなギャルチックな女性が描いてある機械。
「えーと……ああいうのってさ、普通女の子同士とか、カップル同士で撮るもんじゃないの?」
「そうよ! ほら! 冬根君と私でも問題ないわ! だって私たちは『同志』だもの!」
「…………あぁ」
漢字違いますよ? 『心』が増えてるじゃないっすか。
それに真の恋愛に導くために邁進するという意味の同志って言いたいなら、俺もうそれ降りたいんですけど。誰だよこんな厄介な奴引き込んだの。いやだから俺だけど。
鼻息をフンスと漏らしながら星を散りばめた目を向けてくる四ノ宮の提案に、俺は苦笑してしまいながら了承した。
中に誰もいないことを確認してからペロッとしたカーテンの中に二人で入ると、なぜか不思議な気持ちになった。
ここだけまるで違う世界のような、二人取り残されたような感覚。
「私も良くわからないわ! とりあえずやってみましょう! 証明写真の要領と彩乃から教えてもらったわ!」
おい彩乃!?
いや確かに写真を撮ること自体は同じかもだけど……それだと二人の真顔の棒立ち写真が量産されて終わりだぞ。シュールすぎる……。
という不安も束の間、しっかりとアナウンスのお姉さんが優しく促してくれて、四ノ宮と俺はぎこちないながらなんとか写真を撮り終えることに成功した。
……しかしながら『顔を近づけて、カメラを見てピース』という指示には肝を冷やした。
四ノ宮も少しは躊躇すりゃいいのに、抵抗なく顔を寄せるもんだから。もしかしてドキドキしたの俺だけ?
別コーナーに移るよう司令官に言われて移動して、俺は唖然としてしまった。
画面に表示されている先程撮った写真の俺の目がぁ、目がぁ~~~あああああああ!!
危うくショックでバルスでも唱えてしまいそうなくらい巨大化していてちょっとキモい。元からキモい顔だって? ……私をあまり怒らせないほうがいいぞ?
落書き、と言われても俺も四ノ宮も何を描いたらいいかよく分からず、テキトウなスタンプ類をちまちまと貼り付けて終了ボタンを押した。
別の場所から排出されたシールを拾って渡すと、四ノ宮はそれを食い入るように見つめてから、
「冬根君、変な顔ね!」
「ひどい」
「あはは! でも、楽しかったわ! これは大切にするわ」
「まあ、折角だしな」
「うん。一生、大切にする。何があっても……」
シールを見つめてそう言う四ノ宮の顔は、どこか儚げに見えて心がざわついた。
もしかしてやっぱりこれは普通のデートではないのかもしれないと改めて思い始めていると、四ノ宮は縁眼鏡をくいっとあげて、
「さて! 冬根君、最後はこれよ! これに一緒に乗りましょう!」
ゲーセンの機械的喧騒にも負けないいつも通りの声でそう言うと、四ノ宮は壁を指差した。
そこにはこの建物のフロア案内が書いてあり、四ノ宮が指したのは屋上だった。
「観覧車?」
「そうよ!」
屋上にはそれしかなかった。
って、え? デートの定番、観覧車と言えば……。
もしかして頂点で……キ、キキ、……キキ? (魔女?)
いやいや、んなわけないよね。いくらデートとはいえ。四ノ宮さんですし。
……んなわけないよね?
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四ノ宮が持ってきた相談はまさかのデート命令でした。なんで!?
普段から四ノ宮と話すのを『心地いい』と言っていた冬根君。
四ノ宮とのデートを純粋に楽しみますが…。何ラブコメしてんだよ。ちっ。
次回、四ノ宮の目的が明らかに。




