ひた隠された本心を出すために
可能な限り誰にも聞かれたくない、という俺の提案には賛成のようで、中庭へとつながる廊下に来ていた。
換気の為に常に開けられるので、この時期は非常に寒く人通りが少ない。
校舎内との境目の階段に四ノ宮と並んで腰を下ろし、先程購入したコロッケパンの封を開ける。
校舎の構造上襲ってくる風が顔や手に突き刺さりまるで修行のような寒さだが、恐らくこれから繰り出されるであろう恥ずかしい話を誰かに聞かれるよりはマシだ。
四ノ宮は淡いピンクの小さなハンカチを自分の座る場所に敷いて、甘そうなチョコの菓子パンの袋を開けている。
「いただきます」
律儀な言葉を呟いてからパンに噛り付く四ノ宮を横目に、俺もコロッケパンを食べ始めた。
「んで、大事な話ってなんだ?」
俺は中庭のど真ん中に鎮座する今は使われていない噴水跡を見つめながら四ノ宮に訊いた。
「大事な話じゃなくて、大切な話よ!」
「いやだからどう違うんだよ」
「『大事』よりも『大切』のほうが、ほら、……大切な感じがするでしょ?」
「ん、全然わからん」
「大切のほうが……なんか優しい感じというか」
ただ発音に濁点があるかないかの違いなのでは?
四ノ宮は頬にチョコレートを付けたまま俺に身体を向けてもぐもぐしながら、吹き荒ぶ風に身を竦めている。
なんとなく小動物を連想させた。
「まあいいや。それで?」
「そうなのよ! 恋愛マスターである冬根君に相談をしたい人がいるの!」
「……」
出ましたね。はいはいまたですか――と短絡的に片づける俺の脳とは別に、腹の奥底から湧き出る違和感がある。
「私が、冬根君の助手として、相談者を見つけたのよ! 真の恋愛へと導く為に!」
「四ノ宮が?」
「そう! 私が!」
えっへんという効果音でも鳴りそうなポーズをして、四ノ宮は目を閉じている。
睫毛が長く綺麗な顔立ちだなと一瞬思ったが、頬のチョコで色々台無しだった。
「俺、四ノ宮を助手にした覚えないんだけど」
「え、えええ! でも言ってくれたじゃない! 『一緒にポーカーにならないか』って!」
「うぐっ!!」
忘れようとしていた過去の傷を抉らないでくれよ……。
何てこと口にしてるんだよ、俺。
「まあ助手じゃなくても最悪いいわ。同志として! 冬根マスターに相談したい人を見つけたの!」
曇りの無い瞳で真っ直ぐ見つめながら言ってくる四ノ宮。
その純粋無垢なオーラに中てられながら、俺の中に湧き出た違和感はすぐに明確な文になって頭の中に浮かんだ。
――これは琴美や凛堂によって仕組まれた出来レースな相談ではない。
「誰かに教えられたとか、誰かの紹介とかか?」
「え? どういう意味かしら。もちろんこのことは私しか知らないわよ? あの生意気な凛堂さんも、彩乃すら知らないわ!」
「そ、そうなんだ」
俺はコロッケパンを多めに頬張って、必死に頭を巡らす。
ということは、この相談は成功を約束されたものではないということである。
俺のアドバイス次第で、崩壊へと導くことすらできるということだ。
寒いはずなのに、俺の背中には汗が滴った。
「冬根君には、その人の相談を恋愛マスターとして聞いて、いつものように導いてあげて欲しいの。もちろん、真実の愛の道へと、ね!」
四ノ宮の痛々しく痒い単語も、今の俺には響かない。
それ以上に緊張感が勝っていた。
「今日の放課後、いつもの場所に行く手筈になっているわ! 冬根君、よろしくね!」
そう言った四ノ宮が何故か泣きそうな顔をしているように見えて余計に不安が募る。
これはきっと、俺にとっては良くも悪くも転機で、凛堂にとっては緊急事態な筈である。
◆ ◆ ◆
パンを食べ終わった俺たちは、寒さに必死に耐えながらいろんな話をした。
俺が聖応大学を受験したこと、四ノ宮が教師を目指していること。
彩乃との関係も相変わらずで、琴美がこの三月から次期生徒会長になることなども聞いた。
やはり四ノ宮との会話はどこか心地よく、きっともっと早く出会っていて、変な知り合い方をしていなかったら気の置けない友達になっていたかもしれない。
そんな想像を抱えながら、ポニーテールを揺らす四ノ宮と昼休みいっぱい話し尽くし、予鈴と共にお互い自分の教室に戻った。
試験が終わり特にすることの無い俺は帰路についても良かったのだが、放課後まで学校に居なければいけない理由ができでしまった。
この四ノ宮の持ってきた相談が、霜平の差し金である可能性が無いとは言い切れない。
しかしながら、俺が全てを知らされた今、わざわざ改めて恋愛マスターとしての行動を取らされる意味が分からない。
霜平の目的は既に果たされているからだ。
ということは。
やはりこの四ノ宮が持ち込んだ『相談』とやらは、本当のものらしい。
俺は自席の机に突っ伏しながら、乱れる脳内を必死に整理する。
正直、相談自体はどうでもいい。
またしても恋愛相談だろうし、それが成就するにしろ失敗するにしろ、俺にとってはもうあまり関係の無いことである。妬ましいし、何なら崩壊してくれてもいい。どうせ俺はもうすぐ卒業だしね。
一番の不安要素は、もちろんのこと『助手』だ。
マスターの言葉には力がある――そんな嘘をついてまで俺をマスターとして存在させようとした凛堂が、この突発的な事態にどう動くのか。
音楽準備室で迎える以上、遭遇は免れないだろうしな。
先の見えない事態に、大学の合格発表のことなどすっかりと忘却しながら糖分を消費して考えつくす俺だったのだが……。
この相談が、俺の予想していたものとは大きく違ったものだった。
そしてこの相談は、俺が俺じゃなくなるきっかけになる。
四ノ宮が持ってきた、高校生活最後の『本当の相談』が終わると同時に、俺は『哀れなピエロ状態』ではなくなるのだった。
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四ノ宮が持ってきた相談をしたい人……
それが一体どんなものでどんな相談なのか。
ヒントは散りばめましたが果たして気づけますでしょうか?
次回、音楽準備室に久々の相談です。相談自体はあっさりしてます。




