万屋「ヒノ コトミ」
カレーを食べ終えたピノコこと火野琴美に、俺は改めて問う。
「それで、凛堂とはどんな関係なのかな」
「うぷっ……関係も何も、クライアントとコントラクターというだけだ」
「……うーんと、何だって?」
琴美は仰け反り、お腹を摩っている。
まるで中年のおっさんみたいな動きだった。爪楊枝でシーシーすな。
「具体的な事は契約違反になるから言えんが、つまりは凛堂にとある依頼を受けて、私がそれをこなした、それだけの関係だ」
「もしかしてだが、とある二人をくっ付ける、みたいな依頼だったか?」
「……む、まさかふーくん知ってるのか?」
やはりである。
やはり凛堂は、俺の恋愛マスターとしての残念なアドバイスを成功に導くために、琴美を使ったのだろう。
手口までは教えてくれそうにないが、今の反応で確信した。
まあここに辿り着けたのは彩乃のおかげだけどな。アイツの優秀さには一生敵わなそうだ。
「ふーくんって言うなよ。冬根、だ」
「ふーくんこそ、何か依頼があるから私に接触したのではないのか? 大方、凛堂から紹介されたのだろう?」
これに俺はどう答えるか悩んだが、敢えて深く考えずにこう言った。
「ああ、琴美に依頼がしたい」
◆ ◆ ◆
火野琴美は拓嶺高校の二年生だった。
バイトを四つ掛け持ちして、必死にお金を貯めているらしい。
何の為の貯金かは詳しく教えてくれなかったが、夢の為、らしいことが分かった。
夢ね。夢の為に汗水たらして働いて、なんとまあ青春じゃないですか。
俺も(青春的恋愛がしたいというちんけな)夢の為に、冷や汗を垂らす日々を送っているけども。
琴美がしている四つのバイトのうち、一つは『パステルズ・ヘブン』というメイド喫茶のメイド。
あとは清掃員が一つとコンビニが一つ。
そして最後の一つが『何でも屋』らしい。
「ふーくんの依頼、承った。その代わり報酬は高くつくと思うぞ。アイツの報酬はいつも破格だからな」
「大丈夫だ。ありがとう」
そして俺は琴美にとある依頼をした。
もちろん、これは凛堂を出し抜く為、だ。
冷蔵庫のプリンを差し出したことで琴美が教えてくれたのだが(まだ食うのかよ)、これまで凛堂に依頼をされた回数は十回以上に及ぶとのことだった。
そのどれもが一年生の恋愛がらみの依頼である。
つまりはやはり、琴美は実質凛堂の駒で、影の功労者だったということである。
しかしながら特にこれといって凛堂の配下というわけではなく、純粋に報酬が目的とのことだった。
付け入る隙があるとするならここしかない。
俺が恋愛マスターで居続けることになってしまった根幹にようやく辿りつくことができた。
苦節半年である。やー長かったね。
「さて。詳細は追って連絡するから、今日はもう帰ったほうがいいんじゃないか? そろそろ日付変わるぞ」
「ああ、それなんだが」
琴美はスウェットジャージのファスナーを少し下げて、何故か上目遣いになった。
「ふーくんが嫌じゃないなら、今晩泊めて欲しい」
「え?」
「それとだ。ここまで走ってきたので汗がひどくてな。お風呂を貸してくれるとありがたい」
「それはいいけども」
「何なら、一緒に入るか? 背中でも流そう」
「入らないよ!!」
猪突猛進やめて! これ以上俺の男心にダイレクトアタックするのやめて。
理性がジェンガばりにグラグラになっちまう。
「そうか……それと、寝間着が無いので貸して欲しい」
「……」
以前も似たような状況があったな。
あの時は……そう、棗が泊まりに来た。
どうしてだろう、あの時とはまた違った危機感が俺を襲っている。
しかしながら女の子をこんな時間に返すのも忍びない、どうする、俺!
「寝る場所はどこでも構わないぞ。なんなら一緒でもいい。そうだな、将来結婚するのだからそのほうがいいだろうな」
「いやいやいやいやいや」
「そうか、結婚の為にはその手もあったな。既成事実の作成。見落としていた」
もう一生見落としててくれよ……。
◆ ◆ ◆
一睡もできなかった。
できるわけがなかった。
両親は旅行で居ないからいいが、姉がいつ起きてくるか分からない為、琴美には俺の部屋で寝てもらった。
もちろん、一緒に寝るなんてことができるはずもなく、俺はしょうがなくリビングのソファで寝ることにしたのだが、これが寒いの身体が痛いのなんの。
よくここで酔って寝落ちして、不機嫌そうな顔で起きる姉の気持ちが痛いほどわかった。というか痛い。身体が。
琴美は早朝からコンビニのバイトが有るとのことで、しっかり朝食をたべてから七時には家を出て行った。本当にしっかり食いやがって……。
寝間着姿の琴美は実に色っぽくて、なんとなくぽわっと琴美との新婚生活なんかを想像してしまって若干興奮してしまった自分が情けない。
というわけで日曜日。
ごちゃごちゃとした影の押し問答も、UNOがかかった段階まで来た。
あとはドローを引かないように冷静にことを運ぶだけである。
その為にも今日はのんびりと休むことにしよう――と思ったのだが。
突然、俺のスマホがピーヒャラ騒ぎ出した。
画面には登録されていない番号が表示されている。というか連絡帳自体スカスカだけど。
嫌な予感がしながら出てみると、
『あ、でたぁ。ヤッホー、氷花ちゃーん』
嫌な予感しかしない声がした。
「もしもし、どちら様で?」
『えー、ひどーい、先生の事忘れちゃったのぉ?』
電話でそのだらっとした口調やめてくれませんかね。歳を考えてくださいよ、霜平さん。
「何の用ですか」
『ああ、それもひどぉーい。用がなきゃ電話しちゃ駄目なのぉ?』
「駄目ですね」
『ちぇ、けちんぼ。ぷぅ』
ぷぅ、じゃねえ。今すぐ切ってやりたい。
「それじゃ」
『ああ! 待って待ってぇ。とりあえず玄関に来てぇ?』
「は?」
もっと嫌な予感がしてスマホを耳に当てたまま玄関に行き、ドアの覗き穴から外を見ると、そこには冬も深まってきたというのに露出の多い格好の霜平が立っていた。
俺はドアを開けぬまま、
「……なんでいるんですか」
『氷花ちゃん! デートしよ!』
「嫌です」
『ええええ、ひどいぃ、せっかくここまで来たのにぃ』
霜平に関わると、必ずと言っていい程面倒事を背負いこまされる。
できる限り関わりたくない。
「お帰りください」
『凛ちゃんのことで話があるって言ってもぉ?』
「……」
うん、俺この教師苦手だ。
頼むから黙っておうちでチョコレートでも食べててくれよ……。
深い深い溜息と共に、俺は玄関を開けた。
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サバサバしているのに積極的な女の子、好きですか?
私はいろんな意味ですきです(?)
大食いキャラだし、メイド喫茶勤務だし、凛堂の駒?のようだし、情報料多過ぎぃ!
どころか、実はもっといろいろあったり……。
そして顧問の霜平教諭にまたしても誘われる冬根君。何が起こるのかは次回!




