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ピノコ「〇〇 〇〇〇」

 現在時刻は二十三時。

 普通の高校生ならあまり出歩かない時刻である。


 俺はというと……どうやら普通の高校生じゃないらしい。

『わんぱく公園』という近所の小さな公園で、とある人物の到着を待っている。


 わんぱくという割には、遊具は鉄棒と砂場しかない。

 昔は磁石を使って砂場で砂鉄なんか集めたりしたっけ。あれ(じか)で集めると取るの大変なんだよな。


「待たせたな」


 俺が砂場でしゃがんでいると、スウェットジャージ姿のピノコが現れた。

 もう冬間近だというのに、息を切らして汗をかいている。


 俺が立ち上がると、ピノコはすぐに口を開いた。


「それでだ。単刀直入に訊くぞ」


 電話の時から感じていたが、どうやらメイド時のあの甘ったるい喋り方は作ったものだったらしい。

 はきはきと勇ましい口調で腕を組んでいるピノコは、背は小さいが俺よりも格好良く見える。


「何を?」

「依頼と報酬についてだ。教えてくれ」

「えと、何の事?」

「凛堂から私のことを聞いてきたのだろう?」


 読み込みが遅くて再生されない動画でも見ているような顔で、ピノコは俺に懐疑的な視線をくれた。


「まあ、そうとも言うけどちょっと違うというか」

「なんだ。はっきりしない男だな。では何の為に私に接触した?」


 上司に怒られるのってこんな気分なのかな、などと思いながら俺は言葉を返す。


「君は、凛堂とどんな関係なのかな」

「何が言いたい?」

「ほら、凛堂と何かしらの接点があるんだろ?」


 さすがに面と向かって「凛堂の小間使いなのか」などとは訊けない。

 凛堂と電話をしていた事も言うわけにはいかない。彩乃(アイツ)がどのような手段を用いてそれを調べ上げたのか分からないからな。


「ふん。まあ、いろいろと教えてやってもいいが……」


 ピノコは砂場の砂をマウンド上の投手のように蹴り、片側の口角を上げながらこう続けた。


「情報料は高いぞ?」


 ◆ ◆ ◆


 恐れていた情報料の値段はというと。


「おかわり、おかわりだ、ふーくん」

「ふーくん言うな!」


 なんと俺の作ったカレーだった。

 正確にはカレーたくさん。もうこれで三杯目のおかわりだ。


 ピノコが、情報料として初手で提示してきたのは『夜ご飯』だった。何とも平和な情報料で俺は胸を撫で下ろした。

 それでいいならとピノコを自宅に招き、俺の作ったカレーを振る舞ったというわけだった。


 因みに姉は既に風呂に入って自室で寝てしまっている。鉢合わせなくて良かったと心底思う。

 例の如く、両親は家にいない。どんだけ旅行行くんだよマジで。


 というわけでまたしても俺の家に女の子が居る。

 なにこれ、定期的にいろんな女の子家に連れ込むとかヤバイ男みたいじゃん。童貞なんですけどね。えへ。(白目)


「それにしても、ふーくんの母親のカレーは驚く程美味だな! 今まで食べたカレーで一番だ」

「だからふーくん言うなって! それにカレーは俺が作ったやつだ」

「しかし『パステルズ・ヘブン』のメンバーカードには『ふーくん』という名前が…………何?」


 ピノコはカレーを食べる手を不意に止め、難しそうな表情で俺の顔を凝視して固まった。


「や、それは『えり』ってメイドさんが勝手につけただけだから。俺は冬根だ。そう呼んでほしい」

「今、何と言った?」

「だから、俺の名前は――」

「その前だ。このカレーを作ったのは……」

「ん、ああ。俺が作ったカレーだ。なかなか美味いだろ?」


 そりゃ中学生から作ってるからな。ぐうたらな姉のせいで半強制的にだけど。

 と、ドヤ顔を繰り出していると、いやに真剣な表情でピノコは何かを考えだした。


「なあ、ふーくん」


 と思った次の瞬間には、テーブル越しに俺の手をガシッと掴んできた。えっ。


「だから、ふーくん言うなって」

「私と結婚しないか?」

「………………はい!?」


 声が裏返ってしまった。

 何だって? ハッキリ聞こえていたけど良く聞こえなかった。


「私はこんなに美味しいカレーを作る男性に生まれて初めて出会った。ふーくんと結婚すれば、こんなに美味しい料理が食べられる。是非、結婚して欲しい」

「ななななななな」


 何言ってんのマジで! 何その猛烈アタック!

 多分俺今マジで顔真っ赤だぞ。押しに弱い女の子の気持ちが今ならすごく分かる。


「っと、自己紹介がまだだったな。私は火野(ひの)琴美(ことみ)。呼ぶのは名前で琴美でいいぞ。いずれ、私もふーくんの苗字になるのだからな、名前呼びに慣れるのは早いに越したことはないだろう」

「へえ、()()()トミ、だからピノコなのか……じゃなくて! 待って待って、いろいろと待ってくれ!」


 攻め方がメジャーリーガーもビックリの豪速直球で、一瞬にして俺はキャパオーバーだった。

 結婚も何も、まだ恋愛すらまともにしたこともないっていうのに。


「私では不満か?」

「そういうことじゃなくて!」

「私は背は小さいが、それなりにいいスタイルだぞ? 適度な筋肉の為にトレーニングも怠らないし、胸だって、ほら」


 そう言って琴美と名乗った女は自身の胸を両手で掴み、上下に揺らした。

 うむ、確かに、ふむ、隠れ巨乳と言えなくもないな。


 じゃなくてさ!!


「俺まだそういうの考えたこともないしさ! そういうのって、ほら、慎重に決めなきゃだろ? お互いのことまだよく知らないしさ」

「しかし、お見合いという行事が実在する以上は、結婚してからお互いを知っていくというのもまたいいものなのではないのか?」


 なんで食い下がってくるのこの子。まるで本当にピノコじゃないか。


「まだ俺学生だし、そういうのはもう少し考えてから決めたいしさ」

「そうか……」


 俯いて顔を曇らせる琴美。なんか悪いことをしたような気分になった。


「わかった」


 そして、ド直球な琴美のアタックを目の当たりにして、自分のやっていることがいかに婉曲的立ち回りなのかを痛感して、自分のことが少し嫌いになった。


「では、時期を見計らって再度結婚の提案をすることにする」


 そう言うと琴美はカレーの続きを食べ始めた。


 もし俺が、琴美のように直球で行動できたら。

 もし俺が、彩乃にさせたようにストレートに言うことができたら。


 なんて考えて、すぐに俺は思考を辞めた。


 だってそうだ、最初から俺にそんなことができるわけがない。

 勇気が無いからこそ今現在まで俺は恋愛経験ゼロの寂しい男だったのである。


 そんな寂しくてダサくて嫉妬に狂う捻くれた男には、こんな回りくどくて臆病な方法がピッタリだ。

 全く何も行動しなかった以前の俺よりは、僅かにマシだろう?


 といった感じでメンタルを守るために言い訳をしたところで、そろそろ目の前の琴美なるショートボブ娘にいろいろと尋問をしたいのだが……。


 何とも美味しそうに俺のカレーを頬張る琴美を見て、ちょっぴり頬が緩む。

 まあ食べ終わってからでもいいか。


「ふーくん、おかわり!」

「だからふーくん言うな! ってか食いすぎだろ!」


お読みいただき誠にありがとうございます。


もしも、「続きが気になる!」「面白い!」と感じて頂けましたら、

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~・~・~・~・~・~


ピノコこと火野琴美。

またしても読めないキャラの登場に、冬根君も読者様も、私も()困惑しております。


次回、たんまりカレーを食べさせた見返りとして、いろいろと訊いていきます。

果たして凛堂の何なのか。予想はつきますが……。

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