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ヤベーやつ


 ひとしきり笑い合った後、私たちは徒歩で一緒に廊下を歩いていた。

 アビーがもう少しだけ話したいと言い出したからだ。

 それなら、と私は彼女をレジーナとの共同部屋まで案内しているのというのが現状だ。


 ホウキで部屋まで直行した方が早いのだが、それはアビーが嫌がった。

 レジーナの話では、いつも歩きで教室までやって来てるそうだし、もしかしてホウキが嫌いなのかしら?

 気にはなったが、あまり聞いて欲しそうではなかったため、詮索するのは憚られた。


「あ、そういえば……まだ謝っていませんでした……! 先程はごめんなさいステラさん」


 私の自室に向かう途中、唐突にアビーは足を止めて頭を下げてきた。

 いきなりそんな事を言われても、訳が分からない。


「いったい何のこと? 私、あなたに謝られるようなことをされた覚えはないのだけれど?」


 問い返すと、アビーは私の後ろの何もない空間をチラッと横目で見る。

 後ろに何かあるのかしら?

 振り返ってみても、背後にあるのは綺麗に磨かれた純白の壁だけだ。


 本当になんなのよ?


「なによ。私をからかってるわけ? 友達になって間もないってのに、いきなり攻めてくるじゃない」


「ああ、ごめんなさい! からかってる訳じゃないんです!」


 アビーはさらに腰を低くして、ぺこぺこと頭を下げる。

 跳ねっ返りが強い子も嫌いじゃないけどね。


「言いたいことがあるなら、ゆっくりでいいからはっきり言いなさい。待っててあげるから」


「………はい!」


 スーハー、とアビーは一度深呼吸を交える。

 深呼吸のたびに小さく揺れる、二つの大きな塊。

 私は何を言うでもなく、ただその様子を黙って眺めた。

 ………羨ましい。


 やがて心は決まったのか、アビーは真っ直ぐこちらに向き直る。


「その……先程ステラさんの魔光石が凄い光を放ったのって、私のせいなんです……ごめんなさい!」


「え? どゆこと?」


 綺麗に腰を90度に曲げて、アビーは私に謝る。

 私は絶賛困惑中だ。アビーは何か勘違いをしているのだろうか。


「魔光石で私が失明しかけたことを言ってるのよね? アレはあなたのせいじゃないわよ? 私が軽はずみに爆発魔法を使ったのが悪いんだから」


 あの時は派手でいいなーと思っていたのだけれど、よくよく考えてみると頭おかしいわね私。

 なんであんなことをしたのかしら? 過去の自分の行動が理解できないわ。


「違うんです! ステラさんはなにも悪くないんです! 全部この子……というか、この子達を抑えきれない私が悪いんです!」


 と言って、アビーは何もない空間を指差す。

 目を凝らしてみても、その空間には何も見えない。


「あ、またそういうこと言うー……! せっかく初めて人間の友達ができたんだから、邪魔しないでくださいよ!」


 果てには、何もない空間に向かって怒りはじめたではないか。

 まるで誰かと会話をしているかのように、虚空に向かってアビーは一人で口論をしている。


 あわわわ……新しくできた友達がキチガイだったわ……!?

 どどど、どうしましょう!? 私、こういう人と会話するの初めてだから、どう対処したらいいかまるで分からないわ!?

 助けてレジーナァ!!




〜〜その頃のレジーナ〜〜




「フンフンフフーン……はっ!? ステラちゃんがピンチに陥っている!?」


 浴槽に浸かりながら、レジーナはステラのピンチを過敏に察知していた。

 ザバァ、と勢いよく湯船から飛び出すと、タオルも巻かずに浴室から出る。

 生まれたままの姿で、自分の部屋まで戻ると、引き出しの中からウキウキであるものを取り出した。


「きっと私に泣きついてくるだろうから、コンディションを万全にしないと!」


 フンス!と鼻息を荒くして、お肌の手入れを念入りに行う。

 そして、怪しい魔女のお姉さんから買った、とっておきの香水を身体に吹きかける。

 なんでも、相手の好みに合わせて香りが変化する特別な香水だとかなんとか。


「ふふふふ……今夜はお楽しみだよ……」


 怪しく含み笑いをして、レジーナはステラの帰りを待つのだった。




〜〜ステラとアビゲイル〜〜




 畜生駄目だわ! なんかロクでもないことを考えている気がする!!

 謎の悪寒に襲われて、私は身震いする。


 いや、それよりもこの状況をなんとかしないと!


 アビーは未だ、何もない空間に向かって話しかけている。

 こわいよ〜〜!


 私は一人でぶつぶつと会話している彼女を遠巻きに眺めることしかできない。

 下手にちょっかいをだしたら、どうなるか分からないからだ。

 

 !! マズいわ、人が来た!!


 ここは大教室から寮へと向かう道のど真ん中。

 この時間帯はあまり人通りのない廊下だが、これだけ長話をすれば通る人も出てくるだろう。


「ちょっとこっち来て!」


「わっ」


 こんな状態のアビーを人目に晒すのはなんとなく良くない気がしたので、私はアビーの手を取って近くにあったトイレに連れ込む。


 って、嘘でしょ!?

 こっち向かってくる人もトイレに用事があったようで、足音が近づいてくる。

 ええい! 仕方ない!


 私は仕方なく、トイレの個室にアビーと一緒に入る。

 なんでこんなことに……。


 まあでも、トイレの個室には防音魔法がかけられており、アビーを隠すにはちょうど良かったのかもしれない。

 さすがは天下のアウストラス学園といったところね。


 私は一安心してホッと息をつく。

 でも、ここからどうしよう?

 

 そんな私の心配を他所に、アビーは尚も一人でお喋りをしている。

 

「え? ステラさんと話をしたい? でもあなたの姿は他の人には見えないじゃないですか。なんとかする? まあ、それならいいですけど……ステラさん!」


「はい!?」


 いきなり話かられるもんだからびっくりするわ。

 変な声出ちゃったじゃない。


「この子がステラさんと話したいらしいんです。よければ少し時間いいですか?」


「ああ、うん。その子ね。わかるわかる。オッケーよ」


 とりあえず話を合わせておきましょう。

 大丈夫。私は少し気が触れてるくらいで友達を辞めたりしないわよ!


「えっ!?」


 なにやらアビーが驚愕の声を上げる。

 私はさっきからずっとあなたの奇行に驚きっぱなしよ。

 

[やーねーこれだから人間は。自分の理解できない存在の事はすぐ異常者扱いをする]


「っ!? だれ!?」

 

 突然第三者の声がトイレの個室の中に響く。

 いや、違う。これは……私の頭の中に響いている……?

 

[その通りよ。なんだ、少しは知恵のある個体のようね。今私は貴方のちっぽけな頭の中に入って直接話しかけているわ]


「モルト。ステラさんにそんな口の悪い言い方はやめてください。怒りますよ?」


「は、え、なに? この声はアビーにも聞こえてるの?」


 展開についていけない。

 天才であるこの私が。

 ていうか、勝手に人の頭の中に入らないで欲しい。


「聞こえるも何も、さっきからずっと話していたのがこの子ですよ? 名前はモルトって言います」


 困惑する私とは打って変わって、アビーは平然とした態度で返事をする。

 そんな私を嘲笑うかのように、謎の声の主は傲慢な態度で話しかけてくる。


[よーく聞きなさい人間。アビー呼びしたのも私が先、友達になったのも私が先よ。一介の人間風情がアビーに馴れ馴れしくするんじゃないわよ]


 モルトは私が口を挟む暇もなく、話を続ける。


[そして、そのしわの少ない脳味噌によーく叩き込みなさい。私は、黒の精霊モルト。アビーの保護者よ]


 声高々と、モルトは私の頭の中で宣言する。

 なるほどね。精霊か。それなら納得だわ。アビーの頭がおかしくなったんじゃなくて、本当にいたのね。

 まあ、それはともかく、今は────────


「名前ならもうアビーに聞いたわよこの馬鹿精霊! あっ、もしかして認知症患ってる? だとしたら御免なさいね。私の配慮が足りなかったわ、おばあちゃん?」


 


 私のことを馬鹿にしたこのクソムカつく精霊を、言葉で言い負かしてやる!!


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