ざまあみろ
とても感情豊かなシーンで、キャラクターたちの個性がしっかりと出ていて素敵ですね。以下、少しだけ推敲を加えたバージョンを提案します。主に表現の微調整や、読みやすさを意識して改善しています。
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「なんだ、夢か……」
「違いますよ……?」
目が覚めると、そこは見慣れた自室ではなく、先ほどまで私たちが補習をしていた大教室の椅子の上。アビゲイルの膝の上に寝転んでいた。
これで本日二度目の膝枕。失神した後にこんな状態になるなんて、なんだか恥ずかしいわね。
レジーナとアビゲイルの膝枕を比較すると、アビゲイルの方が柔らかくて気持ちが良かった。たぶん、アビゲイルの太ももが少し肉付きが良いからだろう。真っ白な肌と相まって、大福のような柔らかさだ。モチモチ。
起き上がる前にこの柔らかさを堪能しておこう。
「んっ……」
…アビゲイルが変な声を出し始めたので、この辺にしておくことにする。よく考えたら、私、レジーナみたいなことしてるわね…。
友人の顔を思い出して、少し反省する。
さて、私は起き上がると、まずは状況確認。周りには私とアビゲイルしかいない。最初と同じく、二人きりの空間だ。
「アビゲイル、ヘレナ先生は?」
私が覚えているのは、魔光石が激しい光を発したところまで。ヘレナ先生も近くにいたから、巻き添えを食らっていないか心配だ。
「ヘレナ先生は、ステラさんの眼を治療した後、何か思い出したって言って帰っちゃいました」
帰ったということは、特に問題はなかったのだろう。さすが魔女を育てる学園の先生、凄いものだ。
一安心した後、アビゲイルの話から新しい疑問が湧いたので、尋ねてみる。
「眼? 私の眼、どうなってたの?」
「どうやら、あの光にやられて失明していたそうです……」
それ、怖すぎる! 魔光石に爆発の魔法をかけただけで失明なんて、笑い事じゃないわよ!
思った以上の被害に頬をひくつかせながら、アビゲイルの体調を心配する。
「アビゲイルは平気だったの? 失明とか…」
「私はこの長い前髪のおかげで大丈夫でした!」
アビゲイルはピースで元気だとアピールする。それは良かったけれど、その長い前髪、あんまり可愛くないから、切ったほうがいいんじゃない?
私は手を伸ばし、アビゲイルの前髪をかきあげてみる。
「─────!?」
私は驚きのあまり、声が出ない。
隠れていたアビゲイルの素顔。これが、私好みの可愛さに溢れていたからだ。
形の良い眉、柔らかそうで艶のある唇、すっと通った鼻筋。そして、何よりも長いまつげに覆われた、ぱっちりとしたピンクサファイアのような瞳! なんて愛らしいのだろう!!
「アビゲイル! あんた、なんでこんなに可愛いのに顔隠してるのよ! もったいない!」
私は鼻息荒く、アビゲイルの肩を掴む。
私は見た目にはかなり自信がある方だが、アビゲイルの容姿はそれをも超える可愛さだ。少し嫉妬すら覚えてしまう。
でも、それ以上に私の可愛いモノ収集癖がうずうずしている。特にピンク色の瞳が最高だ。
「私、かわいくなんかないです。ステラさんの方が私なんかよりずっとキラキラしていて素敵ですよ」
なに言ってんの、この鈍感な子。私が認めてるんだから、素直に受け入れなさい。
そう思ったところで、アビゲイルがぽつりと呟いた。
「だって、本当に可愛かったら、親に捨てられることもなかったでしょうし」
「え……?」
私はアビゲイルの言葉に思考が止まり、何も言えなくなる。そんな私を置いて、アビゲイルは話を続ける。
「私、捨て子なんです。物心ついた頃には誰もいない森の中に捨てられていて、そのせいで一般常識にもあまり詳しくなくて…」
アビゲイルは、何事でもないように話す。
「だから、迷惑かけちゃうこともあると思いますけど、これからも仲良くしてくれると嬉しいです!」
そう言って、手を差し出してくるアビゲイル。その顔はニコニコと笑っていて、本当に嬉しそうだ。
でも、私はその手を取ることはない。
「……………?」
アビゲイルが小首を傾げる。彼女には私がなぜこんなことをしているのか、分からないだろう。
「あの……どうして私を抱きしめるんですか…?」
困惑した様子で、アビゲイルはわたわたとしている。
私はアビゲイルの差し出された手を握ることなく、両手を回して彼女をギュッと抱きしめた。
レジーナの抱きつき癖が移ったのかもしれないわね。
二度目の抱きしめ。アビゲイルはまだ手をどうすれば良いか分からないようだ。真っ直ぐ伸ばしたまま、動かない。
ぎこちない彼女の姿をおかしく思いながら、耳元で囁く。
「黙って抱きしめられてなさい。それとも、私にこうされるのは嫌?」
「い、嫌じゃないです…むしろ…」
その先を言おうとした瞬間、アビゲイルは顔を真っ赤にし、私の肩に顔を埋めて黙ってしまう。
「アビゲイル、いや、これからはアビーって呼ぶわね。いいかしら?」
アビーは、私の肩に顔を埋めたまま、こくりと頷いた。
「アビー、あなたの境遇は不幸と言ってもいい。あなたをそんな目に遭わせた親を、私は許せないくらいに」
アビーは、私の言葉をじっと聞いている。
「だから、あなたは私と一緒に立派な魔工師になりましょう。そして、いつか有名になった暁には、世界のどこかにいる親にこう言ってやりなさい!」
アビーが顔を上げ、私の言葉を待つ。
私は大きく息を吸い、力強く言葉を放った。
「私はお前なんかいなくても幸せになったぞ、ザマーミロバーカ!!ってね」
冗談っぽくウインクを交えると、アビーは思わず笑った。
「フフッ、なんですかそれ。でも、分かりました。いつか、ステラさんと一緒に立派な魔工師になれたら」
「ええ、思いっきり言ってやりましょう。きっとすっごくスッキリするわよ!」
夕日が沈み、赤く染まる教室の中、私たちはお互いの顔を見合わせ、馬鹿みたいに笑い合った。