魔法学園アウストラス
チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる。
気がつけば、もう朝になっていたみたいだ。二日前、いきなりインスピレーションが湧いてから、今日の完成に至るまで、休まずぶっ続けで課題の作品作りに没頭していた。
「はぁ……寝不足はお肌によくないっていうのに……」
頬に手を当てて、お肌の調子を確かめる。うーん……まぁ、許容範囲内かな?後で保湿クリームでも塗っておけば問題ないだろう。
壁に掛けられた時計を確認する。一時限目の授業が始まるまでには、まだ少し余裕がある時間だ。隣の部屋のアイツもまだ寝ているし、シャワーでも浴びてこようかな。完成した作品を机に置いて、私は浴室に向かった。
昨日から着っぱなしだった制服を脱ぐ。よく考えたら、昨日お風呂に入っていないじゃない!作業に集中していたとはいえ、年頃の女の子的にはこれはアウトだ。
シャワーで身体を念入りに洗う。本当はお風呂に入りたいところだけれど、私は長風呂派。一度入れば、一時間以上は絶対に出ない自覚がある。今回はシャワーで済ませよう。
爪先までしっかり洗って、私は浴室を出る。身体から滴る水をバスタオルで拭き取り、隣接する洗面所でお肌にクリームを塗り込む。こういうところを怠ると、将来後悔することになるから。念入りに保湿しておく。
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ
ふう、こんなものかな。お肌がもっちりとした弾力を取り戻したのを確認した私は、バスタオルを身体に巻き、洗面所を出て部屋に戻る。
部屋に戻ると、先程まで寝ていたレジーナが目を覚ましていた。欠伸を噛み殺すようにしながら、呑気に挨拶してくる。
「おはよ〜、ステラちゃん……」
「おはよう、レジーナ。眠そうね」
レジーナ・ユリスキー。藍色の瞳に艶やかな黒髪を腰まで伸ばした彼女は、眠たそうに目を擦りながらも、既に制服に着替えていた。私がシャワーを浴びている間に、支度を済ませたのだろう。
レジーナとは幼馴染で、もう覚えていないくらい昔から一緒だ。普段はよく私の世話をしてくれる便利な友達だが、少し気持ち悪いところが難点なのよね…。
レジーナの前を横切ってクローゼットを開ける。中には替えの制服が並んでいる。バスタオルを脱ぎ捨て、下着をクローゼットの下の段から取り出して履く。
「そのバスタオル、私が預かっておくね、ステラちゃん!」
「好きにしなさい」
私が床に脱ぎ捨てたバスタオルを、レジーナが背後から奪う。いつものことだ。これくらいなら、文句も言わない。
人がついさっきまで使っていたバスタオルに顔を埋めるその神経は少し疑うけど。レジーナを横目に、私はせっせと制服に着替える。
改造してヒラヒラのフリルをつけた、私だけの制服だ。レジーナが着ている黒と赤を基調にした素の制服は地味で味気ないから、少しくらい改造してもいいわよね?
クローゼットの姿見で、制服に問題がないかチェックする。うん、特に問題はなさそうね。
最後に鏡で髪型の手入れをする。シャワーを浴びたばかりなので、髪が湿っている。私は杖を一本取り出す。30センチほどのピンク色の杖を一振りすれば、湿った髪がふんわりと整った。
「完璧ね! 今日も可愛く仕上がったわ!」
鏡の前で、ニッコリと笑顔を作る。その鏡に映るのは、紅く輝くルビーの瞳と、ピンク色の髪に水色のメッシュを入れたツインテールの可愛い美少女。私、ステラ・ヴェールの姿だ。
「いつまでトリップしてるの、レジーナ。もう一時限目が始まるわよ!」
「えへへ………はっ!? ごめん、すぐ準備するよ!」
バスタオルに顔を埋めたままぼーっとしているレジーナを小突いて、現実に戻す。バタバタと動き回るレジーナに呆れながら、私は今朝完成した作品を持ってホウキに跨った。
「ちょっと待って、ステラちゃん! 私を置いてかないで〜!」
レジーナも荷物を持って同じようにホウキに跨る。私がそれを確認すると、窓からホウキに乗って飛び出した。遅れて、レジーナも私を追って空を駆けた。
私たち、14歳になった魔女たちが通うこの場所は、魔法学園アウストラス。
天空に浮かぶ大陸、魔導国家エンディミオンが擁する立派な魔工師を育てる魔法学校だ。
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