21.皇帝陛下の憂鬱(side アルフレッド)
私は情の薄い方だ、と思う。
正直、エリザベート以外どうでもいい。
息子は3人いるが、万が一のための予備にすぎない。妊娠中からそのあとの期間、我慢するということが我慢できなくて、4年に1回ペースでしか子供は作らなかった。子供よりも妻と一緒にいる時間の方が大切に決まっている。
エリザベートのことは愛しているが、同じ顔をした息子たちに、同じような感情を抱いたことはない。
むしろ腹が立つくらいだ。
貴重な一年強の時間、我慢させられてきた結果がコレか……と。
エリザベートは女性だし、愛しているから欠点と思っていないい要素は多々ある。
力が弱いとか、気持ちが優しいとか。
それは性差の問題で、当然かと思うかもしれないが、代々エリザベートの家系は私からすると弱腰で軟弱なのだ。むしろ私のことを快く思っていない義弟は、まだ歯応えがある方と言える。
その血が出たのか、時代が違うと言ってしまえばそれまでなのだが、息子たちの甘さや弱さが時折鼻につく。
妻であれば可愛らしく愛しい要素も、自分と同じ性別のーーしかも息子となると、勘弁してやる必然性が見当たらないのだ。
正直言って、私はエリザベートには何も期待していない。
冷たい意味でも、見限っているという意味でもなく、一緒に側にいてくれるだけで十分という意味だ。
だが息子たちにおいて、私の態度は一貫している。
役に立たないのなら、エリザベートとの時間を割く必要がない。
時間が余って気が向けば相手をすることもあるが、基本的に、息子たちに興味が持てないのだった。
その点について、エリザベートは多少なりとも不満に思っている節はある。
だが思ってはても、その不満を私にぶつけたり自分が望むような形に強制しようとはしてこない。
私は、妻の賢明さに感謝している。
エリザベートを愛していることと、その血が入っているからといって、愛の結晶とは思えるかは別物だ。
まだ娘だったら、存在するだけで可愛い、と思えたのかもしれない。
これは、父親や祖父を早くに亡くしたせいではないだろう。
亡くなる前から、単純に私自身が情の薄い人間だったのだ。
その点は、周囲の人間と比較しても明らかだ。
幸か不幸か、皇帝などという唯一無二の特殊な立場のせいで「崇高な考えあってのこと」「肉親の情より帝国優先」などと曲解されることが多いので、人には知られにくいが。
特段この性質を、説明しようとも理解されようとも思っていないのだった。
むしろエリザベートという伴侶を得て、執着していられることの方が奇跡だと思っている。
一番年長のレオンはまだ、成長して話が通じるようになってきた。
だが腕力・胆力・策略という面ではまだまだだ。
エリザベートの家系の血が出たなら、そちら方面はあまり期待できないだろう。
だが平常時の通常の執務であれば、任せられるようになってきた。
というわけで、最近私の中でレオンは、「エリザベートの付属物」から「多少役立つ人間」に格上げされている。
14歳の次男は半々、10歳の三男は完璧に前者だ。
そんな私が、柄にもなく息子の問題に介入し、世話を焼くようなことを言ってしまった……。
これは、レオンが成長して暇ができたことにも起因しているのだが。
自分の気持ちもはっきり分かっていない娘に、息子が振り回されているのに、苛立ってしまった。
だから、介入した。
思っている以上に、レオンのことを気に入っていたのだなーーと。
気づいた時には自分でも驚いた。
息子たちへの情が薄いどころか、むしろ無いのではないのかと思っていたのだ。
セシリアに不満はない。ウジウジしているところを除けば。
むしろ、自分にとってのエリザベートに近しい相手を、早々にレオンが見出したことを喜ばしいと思っている。
結婚を伸ばすも縮めるもどうでもいいくらい興味はなかったが。
どちらかというと、ほぼ重複しているエリザベートの陰口を叩いた連中を懲らしめるいい口実だ、くらいにしか思っていなかった。
またレオンが健康的に成長してしまった以上、大貴族や諸侯が減らないと次男、三男の処遇に困る。
万が一の時の予備だからと言って、生涯皇宮で飼い殺しにするわけにもいかない。
大貴族の所領を、他の貴族に与えて下手に勢力バランスを崩すのもよくない。
というわけで大捕り物が成功した暁には、没収した領地を次男・三男に与えようと思っていたが、もしかしたらこれも親心だったのかもしれない……。
セシリア個人については、どちらかといえば、歯応えがなくてつまらない娘と思っていた。
自分が付き合うわけではないから、追求することなくスルーしていたが。
話してみるとなかなか骨があって、面白い娘だった。
特に今回は、思わぬ事実を自覚させてくれた点を、評価したい。
あの娘は分からないだろうが、本当に、苛立っている時の私に話しかけられる人間は、ごくごく少数なのだ。
レオンすら、それができるようになってきたのは最近のことだったように思う。
自信がないと言いながら、剣呑な皇帝に反論できる天然ボケ娘など、最高じゃないか。
むしろ気に入らないのは、己の暇人さだ。
恋のキューピッドを務めようなど、惰弱で弱い息子を平和ボケと呼ぶ自分こそが平和ボケに他ならない。
ムカムカムカ、と自分に腹が立った。
苛立ちを解消しようとレオンを誘ったが、大した運動にはならず欲求不満のままだった。
弱すぎてウォーミングアップにもならなかったので、私は汗もかいていない。
だからといって、このまま風呂に入って寝所に行くこともできない。
本気の苛立ちをぶつけるには、エリザベートの体はあまりにか細く華奢すぎる。
本人によって掻き立てられた苛立ち以上のものを、エリザベートにぶつけることはしない、と私は決めていた。
そんな時は大事な妻を傷つけることのないよう、高ぶった荒ぶりを少しでも削いでから戻ることに決めている。
平和ボケした、結婚を早くしたい一念で奔走してきた息子は未だ気づいていない。
セシリアの母親が亡くなった以上、どれだけ喪が明ける期間を早めに見積もっても、どうあっても半年後までは結婚はできないということを。しかも半年後は真冬。万が一冬に帝国貴族を招集することになれば、非常識極まりないと不満の種になるだろう。皇太子の婚礼ともなると、祝賀客はまず室内に収まりきらず屋外で待たされる人間も多い。ゆえに、足元が悪く気温の低い冬に婚礼を行なった例は、ほとんどない。
デートは、不憫な息子へのせめてのサービスだ。
私は意地悪い気持ちで微笑んだ。
とはいえ、筋肉痛で使い物にならない程度にはいたぶってやったから、思うようには体が動かせないはずだ。
せいぜい何もできないデートを楽しむがいい。
ほくそ笑むと「さて、レオンよりは骨のありそうな宿直の騎士をからかって遊ぶか」と私は次なる獲物を求めて歩き出した。




