第6話 そんな少年は迎え入れられる
描きたい内容を書いていたら3000文字近くなってしまった。
その日の夜。
「いや済まないね。夕飯の支度まで頼んじまって」
「いえ、気にしないでください。料理は好きですから」
足を安静にしておかないといけない女将さんに変わって僕が宿の厨房に立っていた。
といっても、根野菜のスープとパンを温めて出すだけだ。
うーん、折角だから僕の持ってる薬草とキノコを使って薬草炒めも作っちゃおう。
これを食べれば傷の治りももっと良くなるだろうし。
そうして一通り準備が終わったころ、玄関の方が賑やかになった。
「ただいま~。ねぇめっちゃいい匂いがするんだけど!!」
「お帰り、リーリア。食堂に入る前に、まずはその大きな荷物を部屋に置いてきな」
「ただいま帰りました」
「イリーナもお帰り。まったくお前さんのお淑やかさを少しリーリアにも分けてあげておくれ」
「あはは、でもあれがリーリアの良いところですから」
「でもあれじゃあ嫁の貰い手は居なさそうだね」
「いーのよ、女将さん。私は自分より弱い男なんて眼中にないんだから」
「おう、やっぱりリーリアの声だったか。向こうの通りまで響いてたぞ」
「ちょっとブライン。流石にそれは盛り過ぎじゃない?」
「どーだかな」
「……事実」
「ほら、ブラインもレグンも、もう食事が出来たみたいだからさっさと支度しておいで」
「あいよー」
「……うん」
ふむ。どうやらこの宿の住人が帰ってきたみたいだ。
声と気配からして4人。僕と女将さんを合わせれば6人か。
あの様子ならすぐに食堂に集まりそうだし、配膳まで済ませておこう。
「あ、ちっこい子がいる~」
最後の皿を並べ終えた所で、女の人が食堂に入ってきた。
声の感じからしてこの人がリーリアさんかな。
「こんばんは」
「はい、こんばんわ。ねぇねぇ君はどこの子?女将さんのお孫さんかな?」
「いや、僕は」
「これリーリア。カイが驚いてるから落ち着いて席に着きな」
「はーい。それでそれで、カイ君っていうんだ。私はリーリア。こう見えてもCランクの冒険者なんだよ」
リーリアさんは元気系お姉さんというか、話始めたら止まらないタイプらしい。
女将さんの言葉に従って椅子に座りはしたものの、今も頭の後ろで一纏めにした髪の毛をポンポンと忙しなく動かしながら興味津々な目で僕を見てる。
「リーリア落ち着いて。ごめんね、カイ君。
こう見えて害はないから心配しないでね」
「私は猛獣か!」
「私はイリーナ。普段はリーリアとあともう一人と一緒に冒険者をしているの」
「って無視!?」
獲物を見つけたら突撃するリーリアさんと、その手綱を引くイリーナさんって感じかな。
ここには居ない3人目の人と一緒にうまくバランスが取れたチームなんだろうな。
そうこうしている間に残りの男性2名も食堂に入ってきた。
「さて、珍しく全員が集まったんだ。
先に挨拶を、と言いたいところだけど食事を摂りながらにしようかね」
「さっすが女将さん、分かってる!じゃあいただきま~す」
待ちきれなかったと言わんばかりにフォークを薬草炒めに突き刺すリーリアさん。
「さっきからこれの匂いが気になってたのよ。さてお味は……」
「じー……」
何気に全員の視線がリーリアさんに集中する。
なんだかんだ言ってみんな気になっていたんだろう。
かく言う僕もあの味が受け入れられるのかは気になってるんだけど。
「か……」
「か?」
「辛うま!! 辛いのは昔間違って食べた麻痺茸にちょっと似てるけど、こっちはもっと食べたくなるわ」
麻痺茸で辛いって言ったらあれか。まだら模様で見るからにヤバいキノコなのによく食べたね。
ただ、毒キノコと言われてみんなの手が止まってしまったので慌てて弁解する。
「えっと皆さん。毒は無いから安心してください」
「ほら、リーリアが変な例え出すから」
「う、ごめんなさーい」
「いえ、僕も辛いって伝えてませんでしたから。
あと、辛いのが苦手な人はスープと一緒に食べると平気だと思います。
健康に役立つ薬草類を使ってるので、どうしても無理じゃなければ食べてもらえると、今日の疲れとかが吹き飛んでくれるはずです」
「ほんとだ。スープに入れると辛くないわ。むしろ、いつもよりコクが出て美味しいかも」
「俺は直に食う方が良いな。しかし薬草の炒め物なんて初めて聞いたぜ」
「これ多分、薬として買うと銀貨相当」
「まじか!?なら残さず食うしかねえな」
ふぅ、良かった。概ね好意的に受け入れて貰えたみたいだ。
「さて、いいかい。
改めて今日からこの宿で一緒に暮らすカイだ。
私のお世話になった薬師のお弟子さんで、見ての通り薬草にも精通しているそうだ。
ただし、今日は特別に料理を手伝ってもらっただけで明日からはいつも通りだからね。
あと冒険者見習いだそうだからリーリアとイリーナは先輩として色々と教えてやりな」
「冒険者の事なら任せて」
「そうね。色々と気を付けておかないといけないこともあるから」
「はい、よろしくお願いします」
改めて頭を下げる。やっぱり分からないことの方が多いだろうし、これから何かとお世話になるだろう。
あと、女将さんには僕の事はある程度伝えてある。
特に明日から冒険者見習いとして活動を開始するので、どれくらいで帰ってこれるかが分からないし。
「そっちのガタイのデカいのはブライン。大工仕事をしている」
「ブラインだ。最近は魔物が増えてきたのもあって、外壁の補修をメインでやってる。
見ての通り力だけはあるからな。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「で、最後に口数が少ないレグン。レグンはこう見えて街の警備隊に所属しているんだよ」
「……よろしく。この街もスラム街や裏町に行くと治安が良くないから気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
そうして一通り挨拶も済んだところで改めて女将さんが僕に向き直った。
ちなみに料理は既に空っぽだ。
皆には用意しておいた薬草茶を渡してある。
「今日はたまたま全員が同じ時間に集まったけどね。
リーリアたちは数日に渡って出ていることもあるし、レグンも夜番で夕方出かけて朝に帰ってくることもある。
それほど頻繁に顔を合わせることもないかもしれないね。
それでも。うちの宿は短期の宿泊客は取ってない、どちらかというと下宿みたいなもんさ。
これからは、ここにいる皆を家族だと思って頼ると良い」
「はい、今日からよろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、皆から暖かい声援と拍手が送られた。