序章
転生ものに乗っかった結果。初見殺しが多い。
何事も自分でつくりあげたものというのは、愛着がわくものだ。
何気なく趣味の一環でつくりあげたMMORPGをジャンルとしたオンラインゲーム。初めは身内だけで楽しもうと開発したものだったが、意外と好評なのを受けて本格的に運用を始めた。ユーザーは日に日に増えていき、人気はうなぎ登りだった。しかし、数年後の事。運用に使用しているサーバーが古くなり、保守期限が間近に迫っていた。元々は趣味で始めたオンラインゲーム。俺は潔くサービスを終了することに決めた。
その事を身内や古参ユーザーたちからは惜しむ声が出た。思い返せばそれだけ皆に慕われ、愛されている証拠だったのだと思う。
"サービス終了のお知らせ"
公式ホームページへそう見出しを書き、終了日と時間を記載した。その日時に合わせて、サーバー上に存在するバックアップデータを含めて、ゲームのデータを停止させようと設定をしようとした。
「製作者、啓晶 枦兎か。ここまで発展するとは思わなかったな」
ホームページに掲載されているゲーム紹介を見返しながらそう呟いた。我ながらよく出来たゲームだった。ゲームタイトルは、"裁きなるは蒼き空"。開発した当初が中二病をこじらせており、こんなタイトルになった……。これについては何も言わないで欲しい。
不意にサーバーの管理者から電話がかかってきた。停止の日時になっても停止されず、エラーを吐き続けるらしい。原因の調査とエラーログの解析をするよう管理者に伝えた。通話を切って、パソコンの画面に表示されたゲームウィンドウを見る。腕時計の針を見て、停止時間を過ぎていることを確認した。
「なんでだ……? おかしいな」
首をかしげる。ゲームウィンドウをよく見るとおかしいところに気が付いた。タイトル画面には不特定多数のユーザーがクリエイトしたキャラクターが表示されるのだが、そこにはたった一人のキャラクターしか表示されていなかった。そして、そのキャラクターは啓晶がよく知るキャラクターだった。
「管理者プログラムのキャラじゃないか、なんでここに」
キャラクターの表情はなんとなく助けを求めているように見えた気がした。次の瞬間、モニターの画面から強い光が放たれ、啓晶は思わず眩しさから目を閉じた。
光が収まったあと、そこには啓晶の姿はなくゲームウィンドウを表示させていたモニターの画面も真っ暗になっていたのであった。
啓晶が目を開き、飛び込んできたのは地面だった。気絶していたのかと思い、体を起こす。起こす際に自分の体に妙な違和感を覚えた。自分が先ほどモニターの画面で見た、管理者プログラムのキャラクターだったのだ。片腕には別個体の腕を縫い合わせたような跡が見える。心拍数も高く、異常事態だったのではないかと推測は出来たが、なぜ自分がここにいるのか疑問が疑問を呼んでいた。
周りを見渡すと森に囲まれており、人の気配はない。ひとまずは安全だと判断した。自分の置かれている状況を確認する。啓晶が所謂転生したのは、自分のつくったMMORPG"裁きなるは蒼き空"の管理者プログラムのキャラクターである、役職"王"だ。この役職は一人しか存在出来ず、重複することは出来ない仕様。管理者プログラムとは、このゲーム内に置いての絶対的権利を与えられている。違反ユーザーやゲームバランス監視などを主にしているのだが……。啓晶は、まるでこの王が自分を呼び寄せたように感じたのだ。
「……深く考えすぎか」
しかし、王のコンディションは通常ではない事は明らかであった。片腕に別個体の腕が縫い合わせている時点で。この腕が誰のものか調べてみようとした。王の固有スキルに解析能力というのがあり、管理者プログラムを利用して対象のステータスを開示出来る。縫い合わせたこの片腕について解析を行った。すると、結果は驚くべきものであったのだ。
「役職、神……? そんなバカな」
この世界に役職"神"は存在しない。啓晶はそんな役職をつくった覚えがないからだ。胸騒ぎがしてならなかった。ゲームサーバーのエラーと何か関係があるのだろうか?
色々と思考を巡らせる啓晶。だが結論までは到底たどり着けない。元の世界へ戻るため、そして役職"神"について調べるため王は旅をする事にした。
人物紹介をば。
主人公 啓晶 枦兎
転生先キャラクターは役職・王
いわば、管理者プログラムを持つキャラクターでこの役職はひとりしかなれず重複する事は出来ない。
この役職が持つ固有スキルはどれも強力であるが、なぜこのキャラクターが負傷していたのかは不明。
ゲームのサービス停止があるため、原因究明の旅へと出かける。