表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

ヒモ

「一週間前の謎の現象により世界中に発生した空間。通称ダンジョンですが見つけ次第封鎖を行ない、政府主動の下調査を行ないます。決して安易な気持ちで近づかないでください!」


 テレビのニュースは連日俺が死に掛けたあの日に現れたダンジョンについての報道ばかりだ。今日は日本政府による声明が発表されている。


「ですが、ダンジョンからは未知の生物が溢れてきています。これに対抗するための力を一般市民は求めていると思います。なにやらゲームのようですが、あの未知の生物を倒すことでレベルが上がり安全が図れるのですから、ダンジョンは一般にも開放するべきではないでしょうか?」

「危険性が分かりません。それに何より、たくさんの犠牲が出ています。ゲームのように考えられては困るのです。これは現実です。確かに貴方が言うように未知の生物を殺せばレベルアップすることは隠しようもない事実ですが、ゲームのように簡単に倒せるものではないということを理解していただきたい」

「では、市民の安全はどのように確保するというのですか?」

「それについては対策チームを──」


 なるほどなぁ……。対策チーム……か。


「ただいまー」

「あぁ、お帰り」


 俺と草加ちゃんの両親はあの日、死んだ……。俺たちは家の近所の公園であの狼に出会った。つまり家の近所にダンジョンができたわけだ……。そしてその近隣住民は全員モンスターに食い殺されていた。俺達という例外を除いて……。


 あの日から人類はステータスボードという自身のレベルを含めた評価された値を手に入れた。


「対策チームは職業持ちで構成されているとは本当でしょうか? 中には小学生くらいの子供までいるとか」

「申し訳ありませんが、機密に関わるため私の口からは申し上げることはできません」


 テレビの中の会見が紛糾しはじめる。


「お兄ちゃん。私、がんばってきたよ」

「うん、よくがんばったね」


 俺と草加ちゃんの家はモンスターによりめちゃくちゃになって住める状況ではなかった。この近隣で生き残っていたのは俺達だけであり、その時俺は意識を失っていたため知らなかったがその近所の全てのモンスターを倒したのは草加ちゃんらしい。


 そんな草加ちゃんの働きを政府は認めて、溢れたモンスターの討伐を依頼してきた。本当はそんな危ないことをさせたくないが衣食住の提供。それに……俺のせいで……。


「お兄ちゃん。お兄ちゃん」

「すごいね。がんばったね。ありがとう」


 俺はぎゅっとすがり付いてくる草加ちゃんの頭をなでる。せいぜい俺にできるのはこれくらいでしかない……。


 名前:霞 陽多

 性別:男

 レベル:3

 職業:ヒモ

 スキル:≪扶養者強化≫

 』


 ……ちなみに元の職業は無職、目が覚めた次の日にはこうなっていた。

 職業は基本的にダンジョンができたときに就いていた職業が反映されるか、極稀にまったく別の職業が付与される……らしい。

 そして、あの時点での俺の職業はない……つまり無職だった。この職業というものは本当に厄介な性質を持っていて、モンスターとの関わりにおいてその性質を発揮する。

 俺があの日、狼と戦おうとして木の棒が異様に重く感じたのはこの無職のせいである。どうやら無職というのはモンスターとのかかわりにおいて全てで不利になるらしい。


 まぁ、俺が無職だったのは1日だけだし、ここら辺の知識は全部ネットによる受け売りであり本当であるかは分からない。


 ちなみに俺のヒモという職業は本当にクソ野郎みたいな職業で……。


「そうだ、お兄ちゃん。はい、これ。明日の分」

「あぁ、草加ありがとう」


 抱きついていた草加ちゃんはスカートのポケットから折りたたみ財布を取り出すとそこから一万円札を俺に手渡す……。そして俺はそれを受け取りポケットにしまう。


≪レベルアップしました≫


 名前:霞 陽多

 性別:男

 レベル:4

 職業:ヒモ

 スキル:≪扶養者強化≫

 』


 もはや俺はクズ以外の何物でもないだろう……扶養してくれている女性からお金を受け取ることで上がるレベル。一応はスキルによって扶養者が強化され還元されるとはいえ最低すぎる職業だ。


 戦闘に関しては無職と変わらない。木の棒切れですらかなりの重さになる。レベルが上がると少しは戦えるようになるが……だんだんと力が抜けていって長く戦えないというクソみたいな仕様だ。


 此処までクソクソというのだからお金を受け取らないなんて選択肢もあるだろうと思うがこの職業はまるで呪いの様に扶養者から金を俺にせびらせる。

 1日目はなにかの勘違いだとどうにか耐えようとしていたがどんどんと体がだるくなり次の日には死にそうなほど衰弱していた。


 どうしてこんなことになっているのか草加ちゃんに説明を求めれらたが、まさか年下の草加ちゃんにお金をせびるなんてそんな情けないことをできないと黙秘を続けていたが、流石に自身の死が見え始めた頃になると洗いざらい吐き出してしまっていた。


 その日はお金を受け取り、それでレベルが上がり解決した。次の日にもせびりたくなる欲求は出てきたがどうにか耐えた……しかし、次の日にはレベルが下がり……その次の日にはまた初日と同じような状態になりかけたのだ。


 つまり、俺は扶養者に養われないと、レベルが下がっていき、そして最後には死ぬ。そんな職業についているのだ……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ