変わる世界/草加
「生きてる価値がない~」
公園のベンチでがっつり落ち込んでいる陽多お兄ちゃん。親同士が親友で家族ぐるみで私が赤ちゃんの頃から私のことをたくさん知っている私の大好きな人。
「お兄ちゃん元気出して!」
「うぅ、草加ちゃん……」
いつもは優しくてかっこいいんだけど……こういう情けないところも確かにあるけど……それでも大好きだ。
「大丈夫だよお兄ちゃん! 例えお兄ちゃんが無職でも将来私が養ってあげるから!」
なんたって私は特別な人間なんだから!
「ははっ……」
「お、お兄ちゃんなんで落ち込むの!?」
なぜか、お兄ちゃんは逆に元気をなくしてしまった……何か悪いことを言ってしまったのかもしれない……。
そんなことを考えていると、お兄ちゃんのスマートフォンが大きな音を鳴らす。これは緊急速報? そして、地面が揺れる。
「地震か!」
「きゃっ!」
揺れでベンチから投げ出されそうになっていた私をお兄ちゃんは抱えて、そのまま優しくうずくまるよう、私を庇うようにお兄ちゃんが私の上に覆いかぶさる。
いつもとは違う距離に私の心臓がはねる。柔軟剤と僅かに混じる汗の匂い……。
「お、お兄ちゃん?」
「大丈夫だったか草加ちゃん」
「は、はい」
揺れが収まった後、体を起こしてきょろきょろとあたりを見渡すお兄ちゃん。危険はないと思ったのか、抱き起こされる。もっと覆いかぶさっていてくれても良かったのに……。
お兄ちゃんは情報収集のためか、スマホをいじり始める。私は周囲をなんとなく見渡す。
そして、視界の中に不意に黒い影が現れる。そこにいたのは……。
「お兄ちゃん……あ、あれ、何?」
「ん? なんだ、犬……か? いや、狼!?」
狼……? いや、そんなもではない。もっと別の何かに見える。
お兄ちゃんは狼と目を合わせないようにじりじりと下がる。下がっているほうには木の棒がある……もしかしてあれで戦うつもりなのだろうか……。勝てる訳がない。
何か他の方法は……。そう思ってあたりを見渡すが何もない……。
「お兄ちゃん!」
「げっ!」
そして、狼のような化け物がこちらに向けて走ってくる。
「重っ!?」
お兄ちゃんはつらそうに木の棒を持つ。一体何が起こっているの?
「お兄ちゃん!」
「だ、大丈夫ぅううう!」
掬い上げるようにお兄ちゃんが木の棒を振るって狼を殴るが……。
「がうっ!」
「ぎゃぁあああああ!!」
そのまま狼はお兄ちゃんの肩に噛み付く、そして嫌な音がして……。
「はぁ? う、嘘だろ?」
「い、いやぁぁあああああ!!
お兄ちゃんの肩がなくなって、狼の化け物がぼりぼりとそれを食べる。前足で押さえられているお兄ちゃんは動かない……。
「お、お兄ちゃん。お兄ちゃん! あぁ、殺す殺すコロシテヤル」
私はお兄ちゃんが手放したことで転がってきた木の棒を持って狼の化け物に殴りかかる。
「ぎゃんっ!!」
「死ね死ね死ね死ネ死ネ死ネシネシネシネ」
狼の化け物は簡単にお兄ちゃんの上から殴り飛ばせた、地面に倒れた狼の化け物の頭を何度も何度も何度も殴りつける。
≪レベルアップしました≫
「だれ!? あっ、お兄ちゃん!」
どこかから声が聞こえた気がするけど、そんなことよりも今はお兄ちゃんだ!
怪我の確認をする。血は未だに漏れ出ていて、私は服を脱いでそれで止血を行なう。しかし、お兄ちゃんは呼吸をしていない……心臓は……止まっていた。
「お兄ちゃん!!」
どんっ! と思いっきりその胸を叩いた。それは思ったよりも威力があって……。
「ごふっ!?」
「お、お兄ちゃん!? お兄ちゃん死なないで!! お願い! 死なないで!!」
口から血を吐き出し、止まっていた心臓が動き始める。どうにかして、どうにかして助けないと……! 何でもいい何でもいいからお兄ちゃんを助けて!!
≪要望に従い、【ユニーク】『復元』を自動習得します≫
「『復元』?」
また、どこからか聞こえてきた声。そして私がそう呟くと、お兄ちゃんが光に包まれて……腕が元通りになっていた。
「え? えぇ~!?」
意味が分からないけど……その日、世界は塗り替えられて。私たちの日常は変わった。