魔法使いじゃないから!『レベル6―雪の結晶を求めて―』
これは、七生の災難のお話第六弾!
基、『魔法使いじゃないから!』の六作目です。
このお話だけでも、わかるようにはなっています。
―1―
この辺りだけ一面銀世界。そう言うと凄く素晴らしい景色に聞こえるかもしれないが、これ人工で降らせた、本物の雪です。
意味がわからない? でしょうねぇ……。
なんたってこの雪は、目の前にいる『雪女』が降らせた雪ですからぁ!!
なんでいつもこうなるんだ! ミーラさんが絡むといつもこうなる!
あぁ、寒い!
僕、寒いの嫌いなんだけどぉ!
「どうするのさ!」
「凄いね! これが雪? 白い。綺麗! わぁ、冷たい!」
僕が抗議するも、目の前のミーラさんは、子供の様に無邪気に走り回るだけ。
はぁ。これ、消したら怒りそう。
僕は、審七生。今年高校生になったばかりだ。登校初日の帰り道に、銀色に光る水色の髪に瞳の少女ミーラさんと出会った。
僕はミーラさんが持参した『杖』で、彼女の世界から召喚したモンスター倒しを押し付けられた! その『杖』はよりによってレア物だったらしく、僕にしか使えないものだった!
向こうの世界では、その杖を造れば名が轟く程の逸品らしい。でも地球じゃ使わないものだし、杖なんて持って歩けない! と言ったらミーラさんの師匠のパスカルさんは、ペン型にしてくれた――大きなお世話だ!!
パスカルさんは、その杖をレベルアップさせたいが為に、ミーラさんを送り込んで来た。彼女は、杖野ミラとして、僕の学校に来た! お蔭で僕は、この世界で杖のレベルを上げるために、モンスター狩りをするはめになったのだった!!
今回は、ミーラさんの雪を見たいと言う一言で始まった。ちょっと待てば見れるのに――!
―2―
僕はかそう部の部長だ。
『かそう部』――この部は、趣味全開! 魔女っ子大好きの大場幸映と同じクラスの二色愛音さんがエンジョイする為に作った部だ!
僕はその部の部長だ。やりたくないがやらされた! そしてミーラさんは、部員になった。
いつも部長である僕の意見など聞き入れて貰えない。今回もそうだった。
「今年は雪が降るのが遅いみたいね」
「そうだな。何十年ぶりの記録だっけ?」
二色さんと大場が部室で、そんな話を始めた。
「雪? 雪って何?」
それにミーラさんが食いついた!
嫌な予感しかしない。しかもこの予感、的中率がいいんだ……。
「あらまぁ。雪を知らない? だったらどんなのかネットで検索してみる?」
「うん!」
二色さんの提案に、嬉しそうにミーラさんは頷いた。
「うんじゃ、俺の家で見るか?」
「そうね、いいわよね? 七生くん」
大場の提案を二色さんは、僕に許可を求めて来た。
僕は頷いた。
今回の勘は外れてくれたらしい。
「どうぞ。雪を見るぐらいいいんじゃないか?」
僕はそう答えた。
一応寄り道せずに帰宅する事になってはいるが、大抵の生徒は寄り道をしているだろうし。って、別にそこまで僕に一々許可取らなくてもいいんだけどなぁ。
もしかして僕って、ミーラさんの保護者的な立ち位置になってる?
「よし! じゃ行こうぜ。あ、何か買って帰ろうぜ」
そう大場は僕に言ってきた。
あ……僕も行くって事なんだ。
これ部活動の一環なんだね。まあ、鑑賞するだけだからいいか。
そう軽い気持ちで、僕は大場の家にお邪魔する事にした。
大場の家は一軒家で、バスに乗らずに通える距離だった。途中でコンビニにより買い物をする。
そこでミーラさんは、目をキラキラと輝かせていた。
彼女は初めての買い物の体験だったらしい。
一応こっそり、お金という物と交換だから勝手に持って行かないでねと言っておいた。
ミーラさんの世界では、どういう風なのかわからないし、知らない前提で話しておいたほうがいい。
ミーラさんは、欲しい物を僕におねだりしてきた……。
よく考えれば、彼女がお金を持っているわけがなかった!
結局、ミーラさんの分も僕が出す羽目になった。
飲み物にお菓子を持って大場の家に行き、四人でネットで見つけた画像や動画を鑑賞した。
「すごいね! 雪の結晶って綺麗!」
「稀に結晶を肉眼で見れたりもするのよ!」
「そうなの!?」
「でも、直接手で触れるとすぐに解けちゃうから、手袋で受け止めた方がいいわね」
僕の横でガールズトークをする二人。いや、内容は全然ガールズトークじゃないか。
突然クルットと、ミーラさんが僕に振り向いた。
「手袋がほしい!」
自分で買えよ! ――そう言いたいが、この世界のお金を持ち合わせていない彼女には買えない。
「百均でいいなら」
「うん! いいよ!」
僕の返答に、百均の意味も知らずに頷く。
まあそれで事足りるし問題ないだろう。
「じゃ、買いに行こう!」
そう言ってミーラさんは立ち上がった!
「はぁ? 今?!」
驚いて声を上げる僕に、ミーラさんは当然だと頷く。
「いや、今日はもう遅いし……」
「え~!! 欲しい!」
このわがままめ!!
「別に明日でもいいだろう! どうせ土曜日なんだし!」
「そうね。じゃ、明日皆で買いに行きましょう!」
僕の意見に、二色さんはそう言って賛成した。
いや、皆で行かなくていいんだけどなぁ……。
「よし! じゃ十時に学校に集合な!」
大場も二色さんの意見に賛成する。
学校って……。
「私服でいいよな?」
「何を言ってるのよ! 制服に決まっているでしょ? 学校に集合なのですから!」
当然とばかりに二色さんが言った。
やっぱり部の活動としてするらしい。
休日にわざわざ、制服で百均に入るんですか?
はぁ。
別にいいけどね。
二色さんは、ツインテールに制服のミーラさんの格好がお気に入りらしい。事あるごとに部の活動にして、それを堪能しようとする。
って、それは大場も変わらない。
結局帰りに、ネット鑑賞するだけのはずが、土曜日も部活動になった。
―3―
次の日の十時。僕達四人は、約束通り学校に集合して百均に向かった。
ミーラさんは、ルンルンでスッキプしながら隣を歩く。
ふと思ったんだが、ミーラさんは寒くないんだろうか?
僕達三人は、制服の上に薄手のコートなどを着ている。
あ、言わないと、知らないだけかも!
「ねえ、ミーラさん。寒くない? この世界の人は寒かったら制服の上にも一枚羽織るんだけど」
僕がそう言うと、ミーラさんはニッコリと笑顔を返して来た。
「寒くないよ。これ自動調整してくれるんだ。私達の世界では当たり前なんだけど」
「そうなの? 凄いね」
つい、驚いてそう言うと――。
「七生くんも着る?」
そう返って来た。
「いえ。結構です!」
慌てて断る。
そんな物を貰ったら、何をさせられるかわからない!
今度は、僕専用の防具だった! なんて言われて、火をくぐれとか、水の中に潜れとか言われそうだ。
「なんで、断るんだよ!」
「そうよ! 魔法の服じゃない!」
僕達の会話を聞いていたらしく大場達が割り込んで来た。
「じゃ、三人にはお世話になってるし、今度持って来るね!」
「やったー!」
「ありがとう! ミラさん」
まあ杖とかじゃなかったら別に大場達が装備しても大丈夫そうだな。
って、お世話になっているとは思っていたんだ。その服ってあのワンピースじゃないよね? ――ミーラさんの世界の一般的な服装だと思われる、水色のワンピース。
二色さんはまだいいとして、僕達があんな格好したら笑われるんだけど!
暫くして百均についた。ミーラさんは、大はしゃぎ!
なんて言っても種類が豊富だからね。食べ物からノートやペン。化粧水、おもちゃ、食器などなど。
ミーラさんが、目にした事がないモノもずらり。
「これは何に使うの?」
って、僕に聞きまくり。そして教えたら教えたら、それってなーにとなる。幼稚園児に説明しているようで疲れる!
で、気が付いたら二色さんが色々と説明していた。
助かったっと思ったら突然、二人は僕の前に来てこう言った。
「これから雪を見に行くわよ!」
「いい方法を思いついたの!」
二色さんが言うと頷いてミーラさんも言った。
あぁ、二人共目がキラキラ輝いている! これはもう断れない!
「雪? どこに見に行くんだ?」
近くにいた大場が聞くと、意外な場所を二人は言った。
「「学校の裏!」」
ハモって答えたその場所に、僕は嫌な予感しかしなかった!
まさかと思うけど……。
「杖で雪を降らせるの」
こそっと二色さんがそう言った。
やっぱり!!
「おぉ、いいアイデア!」
大場が二色さんにそう返す。
どこがいいアイデアだよ! ダメに決まってるだろう!
それって雪を降らせるモンスターを召喚するって事じゃないか! 多分……。
「いや。雪は後一か月もすれば、絶対見れるから……」
「今すぐ見たいの!」
「そうよ! 今すぐ見せてあげたいの! 今回は私が使うんだから!」
二人はわかった? と僕に一歩近づいて言ってきた。二人の迫力に負け、僕は縦に首を振った。
前に桜の木の下で、ミーラさんが作ったモンスターを召喚出来る杖を使って、大場がオオカミを召喚した。
だから今度は、二色さんがそれをしたいんだと思う。
どういう流れでそんな話になったか知らないけど、そのモンスターを倒せるのは僕だけなんですけど!!
しかもこの行為は、パスカルさん公認らしい。いや公認どころか、お薦めのパターンだ。
モンスターは魔力で出来ているらしく、消滅させると魔力に帰る。ミーラさんの世界のモンスターを召喚して、こっちで倒せば向こうの世界に還元されない。なので、この世界の魔力を使って召喚し、消滅させてれば問題ないっていう訳。
でもそれは向こうの都合であって、僕にすれば大迷惑な話!
もう早く、僕が持っている杖がレベルアップして杖の形が変わらないかな! そうなれば、僕はお役目終了でミーラさんからも杖からも解放される!
僕の苦悩をよそに、ミーラさんの手袋を買って、学校を目指した。
―4―
学校の裏は、雑木林になっていて、その奥にぽっかりと空いた場所がある。僕達はそこに向かった。
まあここならば人目につかないし、火を扱わない限り大事にもならないだろうけど。
ミーラさんは、平然と二人の前で魔法陣を描き、そこから杖を出した。
もう何も言うまい。
大場も二色さんも魔法は信じているらしいけど、この行為は手品だと思っている。
けど非科学的な行為なので、もしかしたら魔法だと思っているかもだけど。まあ二人に知られても害があるのは、僕にだけ……。
こうやって、モンスターを出そうとするって事ね!!
「はい」
「ありがとう」
ミーラさんから嬉しそうに二色さんは杖を受け取る。
「じゃ、行くわよ!」
「はい! 準備OKだよ!」
ミーラさんは、しっかりと手袋をしてそう返した。
そうだった。雪の結晶を見たいんだったね。
「いでよ! 雪女!」
はぁ!? 雪女!?
そう言えばその杖、唱えた本人がイメージするモンスターが出現するんだった!
二色さんが振るった杖の先に、女性が現れた!
透き通る様な白い肌。銀の長い髪に白い着物。
ひんやりとした空気が漂い始めた――。
「凄い! イメージ通りだわ!」
「おぉ、雪女!」
二人は大はしゃぎ!
と、その雪女の周りから、凄まじい風が吹き始めた!
「ちょ!!」
立っているのもやっとなぐらいの強風が、落ち葉を舞い上げる! それが冷気を帯び始め、いつの間にか辺りは吹雪になっていた!
「マジかよ!」
僕は叫ぶ!
「あの……風はいらないわ!」
二色さんがそう言うも、雪女はやめない。
当たり前だが、二色さんが召喚したとしても、彼女が主人でも何でもない!
「すげぇ。これ本物の雪じゃねぇ?」
感動したように言う大場だが、見ればガクガクと寒さに震えている。
僕達は薄い上着を羽織っているだけ。こんな真冬の天候には適さない!
「どうするのさ!」
「凄いね! これが雪? 白い。綺麗! わぁ、冷たい!」
ミーラさんは、喜んで走り回るだけ! 彼女は調節機能付きだから寒くないらしい。元気いっぱいだ!
「取りあえず倒してもいいんじゃねぇ? 雪見れたんだし!」
僕の問いに大場が答えた。彼も寒いんだろう。
よかった。これで倒しても文句は言われない!
僕はポケットから杖を手に取る。
「るすになにする」
杖を元に戻す言葉を口にすると、ペン型だった杖は元の大きさになった。
それを雪女に向けて振るう!
「消滅しろ! 消滅しろ! 消滅しろ!」
僕は三度攻撃した! 目に見える攻撃ではないけど、言葉だけで効果がある。だが、相手が強いと一回で倒れない。なので連続攻撃をしてみたんだけど……。
吹雪は納まり、辺りは雪野原になっていた。
これ、月曜日までに解けるかな? ここに人が来たら大変な事になりそう。
「え~! 結晶まだ見てないのに!」
「いや、この状況を見てよ!」
ミーラさんの文句に、速攻僕はこの真っ白な景色を指差し返す。
「ミラさん。結晶は本当の雪が降った時まで取っておきましょう」
二色さんも寒かったらしく、今回は僕の味方になってくれた。まあミーラさんだけ寒くないからね。
「そういう事で、審、とどめ宜しく!」
寒さに震えながら大場が言った。
雪女は膝をついて、僕を赤い目で睨んでいた!
やばい! 赤い目になっている! ゲームでいうなら、ある程度HPが削れると、敵が狂暴化になる状況と一緒だ!
どんな攻撃してくるかわからないし、攻撃される前に倒さないと!!
そう思って、両手で杖を持った時だった、凄い強風が吹き荒れた!
「きゃぁ!!」
「うわー!」
二色さんと大場が軽く飛ばされ、雪の中に倒れた!
って、僕も雪の上に転がった!
そのまま僕は杖を雪女に向けた!
「消滅! 消滅! 消滅!!」
雪女が消滅したのか、強風は納まった。
「倒したか?」
僕はそう言いつつ、体を起こす。雪女の姿はない。……って、ミーラさんの姿もない!!
「え……」
まさか、一緒に消滅って事ないよね?
僕はブルブルと震えがきた。寒さからじゃない。ミーラさんを一緒に消滅、つまり殺してしまったかもしれないと思ったから。
どうしよう……。
「びっくりした……」
頭上からぼそりと声が聞こえ、潤んだ瞳を上に向けた。
ふんわりと浮いたミーラさんがそこにいた!
「ミ、ミーラさん!!」
僕は叫んでいた。
もう、間際らしいんだよ!!
「生きてた……」
「浮いてるわ」
「浮いてるな……」
二人はあんぐりと、ミーラさんを見上げていた。
げ! そうだった! これで完全にミーラさんの正体がしれた。
まあ今更感はあるけどね。
「何やってるのさ! おりてきなよ!」
僕が叫ぶと、ミーラさんは僕の前に降り立った。
「今回もレベルアップしたわ!」
うん。彼女らしいよ。まずは杖だよね。
僕は何故か彼女の声に安堵する。
くっしゅん!
さむ!!
雪をはらうと、僕は立ち上がった。何か出会った時の事を思い出す。あの時は、雨だったけど。
二人も立ち上がった。
そして僕達四人は、改めてこの真っ白な景色を見渡した――。
―エピローグ―
「えっと。今更だけどミーラさんは地球の人じゃなくて……」
僕が二人にそう言うと、二人は嬉しそうに頷いた。
うん。普通に受け入れるんだね。
「いやぁ。納得だ。すげぇなぁ。雪まで降らせるなんて!」
「降らせたのは、あの雪女だよ?」
大場の言葉に、ミーラさんがそう返す。
「でもあの杖で、出来たよ事よ!」
二色さんも凄いと興奮して言う。
「私は杖を造っただけ。宙に浮けるのもこの服のお蔭だし。私魔法使いじゃないから」
「え? そうなの?」
二色さんは、ミーラさんの言葉に驚く。
「うん。魔法使いはこの前来た、ミントさんとかだよ」
「そうなんだ!」
今度は、大場が驚いて声を上げる。
もう一度会いたいという顔を二人がしている。目を合わせない様にしないと……。
「七生くんもこの世界の魔法使い。杖に選ばれるぐらい凄い魔法使いだよ!」
「ちょ……。何言ってるんだよ!」
慌てて言うも、大場と二色さんは僕が持つ杖をジッと凝視する。
「その杖って本当に七生くん専用だったのね」
二色さんがそう呟いた。
前に杖を使いたいと二色さんが言った時に、咄嗟に僕は彼女にそう言っていた。
「うん。まあ、そうみたい。でも一応行っておくけど、僕、魔法使いじゃないから!」
「お前が魔法使いじゃないなら、誰が魔法使いなんだよ!」
僕に大場が大真面目な顔で、そう返して来た。
地球にはいないだろうって返したいけど、怒りそうだ……。
だからもう一度だけ言っておく!
「僕は魔法使いじゃないから!」
不服そうな三人は、声揃えて返す。
「魔法使いだ!」
「魔法使いでしょう!」
「魔法使いだよ!」
抗議する相手が三人に増えました!
はぁ。
ついたため息は、白かった――。
とうとう雪が降るシーズン到来ですね!
シリーズをまだお読みでない方で、興味を持たれた方は是非レベル1からどうぞ☆
今回もお読みいただき、ありがとうございました!